Day15「娘がどうしても、最後の思い出にと……」
「あの、ビネットさん。こちらのお客様が……」
臨時の店員が、困惑した様子で彼女を呼んだ。
ショーケースの向こうに立っていたのは、仕立ての良い三つ揃いのスーツを着た、若い紳士だった。人の良さそうな困り顔だが、顔立ちは整っている。
「予約はされておられないのですが、なんとかケーキを買えないか、とおっしゃって」
その言葉を聞いたビネットの眉は、瞬時につり上がった。いつもの彼女なら、そんなわがままな金持ちなど、蹴り倒してでも追い返すところだ。
「申し訳ないですが、予約分しか作ってないので。またのお越しをお待ちしてます」
驚異的な忍耐力で、彼女は丁寧に言葉を並べた。誰がお待ちしてるものか。
「あの、キャンセル分などでも構わないのです。私共の家族は、今からあれでこの街を去るのですが、娘がどうしても、最後の
紳士は、背後の運河を指差した。停泊中の
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