Day14「ハイディ様に155番のミルフィーユ」

 売り子の勤めにもすっかり慣れた頃、いよいよ降誕祭の前夜イブがやってきた。ビネットにとっては憂鬱な日だが、店にとってはこれ以上なく特別な夜だ。


 当日渡しのケーキは全て予約制だったから、お客が殺到して大混乱ということはなかった。

 それでも、次々とケーキを受け取りに訪れるお客の相手だけでも、目の回るような忙しさだった。ビネット以外にも臨時の店員が投入されて、彼女はむしろ指示を出す側に回っていた。


「そちらのハイディ様に155番のミルフィーユ、コーネル様には201番のモンブランを!」

 などと、端末コンソールのマイクロフリップディスプレイをプロットペンで操作しながら、声を枯らしてケーキの名を連呼していると、自分は一体何をやっているのだという気持ちにもなってくる。


 だが、店が終われば特別なケーキを振る舞ってもらえると聞いていたから、彼女はそれを心の支えに頑張るのだった。


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