Day12「ご立派なお客様」

「こちらのお店、私とっても疲れちゃうんです……」

 閉店後、一緒に店内を片付けながら、メイベル先輩はため息をついた。

「ご立派なお客様ばかりで……。ビネットお姉さんみたいに、てきぱきとお仕事できればいいのですけど」


 てきぱきというより、「ご立派な」金持ち相手だから無愛想になるだけなのだが、と思いつつも、

「そんな、とんでもない」

 とビネットは謙遜しておいた。本音を言ったら、この子はびっくりしてしまうだろう。


 店の正面のガラスを、科学雑巾サッサで一心に磨いていると、遊歩道ボードウォークの向こうを流れる「運河」の風景がいやでも目に入ってくる。

 その水面は、大都会の街の灯を映してキラキラと輝いていた。

 時折、南方便の大型旅客飛行艇クリッパーの巨大な機体が姿を現して、その広々とした流れの中を進んでいく。無数の窓の向こうには、超富裕層なのだろう人々の影が見えた。


 美しい眺めだったが、ビネットはそれを認めたくなかった。あの光は、自分たち庶民の人生を燃料にして輝いているのだ。

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