Day11「わたしとっても嬉しいです!」

「運河」そばの商店群ガレーリアにある洋菓子店パティスリーの支店は、夕暮れ時から営業開始となる。

 金や銀のモール、リースやオーナメントの赤や緑、そしてツリーに彩られた店内。ありがちな電飾星イルミネーションではなく、キャンドルランタンを使っているのは、ロザーナ店長のこだわりらしかった。


 こちらの店を任されていたのはメイベルという店員さんで、ビネットよりも何歳か年下だった。

「頼りになるお姉さんが来てくださって、わたしとっても嬉しいです!」

 白と明るいブルーの制服を着た、丸っこい顔がかわいい先輩にそんなふうに言われて、ビネットはまた少しだけ居心地の悪い気持ちになった。


 メイベル先輩とは大違いの無表情で、愛想のない彼女の接客ぶりは、意外にも何の問題にもならなかった。

 身なりの良いお客たちにとってはこちらは使用人みたいなもので、店員が無表情に淡々と仕事をこなすのはむしろ当たり前のことなのだ。

 本物のメイドは、無駄に愛想を振りまいたりはしない、そういうことだ。

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