Day9「パティスリー・ロザーノ」

 手元のメモを見ながらたどりついた「パティスリー・ロザーノ」という洋菓子店は、二階建ての長屋のような商業ビルの一階に、通りに面して店を開いていた。


 くすんだお店が並ぶ中で、真っ白な壁と淡いブルーとピンクの軒先テントがおしゃれなその店は、まるで別世界のように明るく見えた。

 暫定市街地の店とはいえ、さすがは「運河」沿いの商店群ガレーリアなんていう富裕層の集まる場所に支店を出しているだけのことはある。


 軽く息を吸い込んで、彼女は静かに扉を開いた。

「いらっしゃいませ」

 たくさんの洋菓子が並んだショーケースの向こうで、店員らしい女性がふわっと微笑む。色白の肌と烏羽色の髪が美しい、まだ若い女性だった。


「失礼します。お仕事の面接で伺った、ビネット・ファリンと申します」

 背筋をぴしっと伸ばして、彼女はお辞儀した。所作が硬すぎて店の雰囲気に合わないかも、と少しだけ気にしながら。

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