Day8「リクルートモード」

 その店があるZ32地区は、超々高層ビル群の狭間に取り残されたように存在している、謎の暫定市街地だった。

 普通なら、とっくに都市の墓場タウン・グレーブと呼ばれる廃棄場に移動して、人工地盤ごと解体されていたはずの街区だ。

 どうやら、区画整理時に行われた法理プログラミングのミスが原因で、解体ができなかったらしい。


 低層の商業ビルが並ぶ通りのすぐ背後に、無数の高層ビルが天まで届く壁のようにずらりとそびえる様子は、他では見られないものだった。


 雑然とにぎわうその通りを、ビネットはコートの裾をひるがえして歩く。

 ただし、おなじみのワークコートではなく、綺麗目の紺色のギャルソンコートだ。中にはちゃんと白いブラウスも着ている。

 要するには、「リクルートモード」というわけだ。彼女もTPOくらいは心得ている。セロトニン・スティックも、今日ばかりは封印だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る