Day6「一つ、斡旋してもらおうか」

「確かに、あんたにゃ珍しく良さそうな話じゃないか。一つ、斡旋してもらおうか」

 高らかに、ビネットはそう答えた。


 さて困ったと、壇上の手配師は言葉を失った。

 よりによって、ビネット・ファリーンとは。

 この女に、金持ちに愛想を振りまいて洋菓子スイーツを売りつける、なんて仕事が務まるとは思えない。解体が決まった暫定市街地の住民を脅して立ち退かせるとか、そんな仕事がお似合いだ。


 あの爺さんが言った通り、こんな場末の労働斡旋市場リクルート・マーケットでこんな話を持ち出したのは完全に間違いだった。単なるつかみのネタ話程度のつもりで、笑いが起きてそれで終わりだと思ったのだが。


 しかし、「あんたじゃちょっと」などと言った日には、

「ほう、若い娘っ子のうちには入らないって言うんだね。このうら若き、ビネット・ファリンが」

 とか何とか、さっきの爺さんの時以上の騒ぎになるのは確実だった。もはやこうなっては、斡旋を断るわけにはいかなかった。


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