Day5「フリル? ただの布切れじゃないか」

 シティと呼ばれる、世界で唯一最大のこの大都会。

 中心部に当たる高度集積地区コア・エリアを半周するように流れる「運河」は、南方などの遠方との間を飛ぶ大型旅客飛行艇クリッパーが、離着水のために行き来するための水路だ。

 乗下船用の桟橋も設置されていて、その周囲には「ボードウォーク」と呼ばれる遊歩道や、商店群ガレーリアがある。


 高価な飛行艇のチケットが買える超々富裕層や、コア・エリアの住民などの金持ちが闊歩する区域で、そんな場所で働くなど、ビネットとしては本来願い下げなのである。しかも大嫌いな待降節アドヴェントのシーズン、普段以上に金持ちどもは浮かれ返っているだろう。


 しかし実のところ、彼女は甘い物が大好きだった。金持ち向けのケーキとやらには強い興味がある。

 それに、別にピンクと白が嫌なわけではない。いつもカーキ色のワークコートの裾をひるがえして歩いているのは、それが一番丈夫で安上がりの服だからに過ぎない。


 フリル? ただの布切れじゃないか。制服を支給されるならありがたいことだ。

 高層ビルの399階で壁面を清掃する仕事をした昨年の降誕祭に比べれば、天国のような仕事ではないか。

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