Day4「売り子は制服を着てもらわにゃなりません」

 何と言ってもビネットは、降誕祭ノエル嫌いで知られていた。

 通りを飾る電飾星イルミネーションを、視線で焼き尽くそうとするかのようににらみつける彼女の姿を、みんな目撃している。

 子供の頃、何かよほど嫌な思いをしたらしいと噂されていたが、何があったのか訊ねる度胸のある者などいない。


 さらにダメ押しをするように、手配師は付け足した。

「ただ、売り子は制服を着てもらわにゃなりません。どうもこれが、フリルのいっぱいついたピンクと白の服らしくてですな」

 あのビネットが、そんな恰好を受け入れるはずもない。彼はそう思ったのだった。


 ビネットは、険しい表情で考え込んだ。

 考え込む? その様子に手配師も、周囲の男どもも驚いた。

「馬鹿馬鹿しい。正気の人間に、そんな恰好ができるもんか。何が降誕祭ノエルだ」

 そんな風に吐き捨てて、足音高く立ち去るものだと信じていたからである。

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