Day3「で、若い娘に限るんだって?」

「まあまあ、ビネット。その辺にしといてやんなよ」

 周囲の男どもの一人が、彼女をなだめた。

「はは、女をなめたような口を聞くもんだから、ちょっとからかってやっただけさ。悪かったな、爺さん」

 少しも笑顔にならずに笑う彼女に、老人は床につきそうなくらいに深く頭を下げて、そそくさと逃げ去った。


「さて」

 とその女、ビネット・ファリンは壇上の手拝師のほうへと向き直った。

「で、若い娘に限るんだって? そりゃあ一体全体、どんな仕事なんだ?」


「これは、これは! ファリーン嬢のお出ましとは!」

 太った手配師は、内心の困惑を押し隠しつつ、両手を広げて大げさな声を張り上げた。 

 この辺りで、ビネットの名を知らぬ者はいない。請け負った仕事は完璧にこなす独立労働者スタンドアローンだが、無振動ナイフのような鋭い美しさを持つその姿の通り、扱いを間違えるとこちらが切られる。


「なに、難しい仕事じゃありません。ただの売り子ですよ。『運河』沿いのボードウォークの商店群ガレーリアで、降誕祭クリスマスのケーキをね」

 そう言いながら彼は首をすくめて、彼女の様子を窺うような眼をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る