不要なネジ
ゆったり虚無
不要なネジ
朝起きると口からネジが出てきた。
長さ5mmほどの小さなネジ。
Fは戸惑った。
寝ている間に、口の中にネジが入ることなんてあるのか?
そもそも、これは一体何のネジなんだ?
疑問は尽きないが、考えている暇はない。
今日もアルバイトがあるのだ。
身支度をし、コンビニへと向かう。
Fは大学に通いながらアルバイトをこなす、一般的な大学生であった。
朝の店内は人で埋め尽くされる。
スーツ姿のサラリーマン、ジャージ姿の高校生。
ヨレヨレの服を着た酔っ払いもいれば土木作業員のような格好をした人もいる。
Fは黙々とレジ打ちをする。
いつもの流れだ。
そう、いつもの。
そして、いつものお客様がやって来た。
その客は黄ばんだ歯に汚れた服、体にニコチンと加齢臭、トッピングに汗を追加したおじいさんだ。
そのおじいさんは缶コーヒーと煙草をいつも買うのだが。
「ッチ。遅いな。早くしてくれんか?こっちは急いでんねん。」
最後尾のおじいさんが怒鳴ってくる。
Fはこの人が苦手だった。
当然だ。
得意な人なんていないと思う。
毎日毎日、僕に罵声を浴びせる。
そして僕はいつも耐えるのだ。
時には、人格を否定されたこともある。
15分、怒鳴られ続けたことも。
「うるさい。」
Fは困惑した。
誰かがうるさいと言ったのだ。
「いつもいつも、ドブみたいな口を開いて、何のためにもならないような言葉を吐きやがって。死ぬ直前まで人様に迷惑をかけることしかできない人の形をした生ごみは家でくたばってろ。バカの一つ覚えみたいに朝からわめいて、この世の害悪を凝縮したような見た目をしやがって。コンビニに行き、パチンコ、そして実家。なんの役にも立たないような生活を送り、国からの年金を生産性のない物事に費やす。未来ある若者を嫉妬心からいじめ、お前はみじめな一生を終える。存在が不愉快なんだよ。そうやって誰からも相手にされないから、わざわざコンビニのバイトに向かって説教をするんだ。穀潰しが。」
奥から店長が飛び出してきた。
店長が何やらジジイに言っているが、ジジイは激怒していた。
後日、Fはバイトをクビになった。
だが、Fは不思議と後悔していなかった。
最初は驚いたが、自分の不満をぶつけることが出来たのだ。
そして思う。
あのネジは、きっとFにとって不要なネジだったのだろう。
不要なネジ ゆったり虚無 @KYOMU299
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