第2話怪我をした家出少女
私は家出少女をアパートに連れて行き、借りている一室にあげた。
「ただいまぁ」
「お、お邪魔しまぁす……」
私は暗い玄関に照明を入れ、リビングに繋がる短い廊下を歩いて行き、リビングに脚を踏み入れるとダイニングチェアの背凭れに脱いだコートやスーツを掛け、キッチンで手洗いうがいを済ませ、夕食の支度に取り掛かる。
「あの……お姉さん」
「好きなとこに座って良いよ。夕飯だけど……インスタントの焼きそばでも良いかな?明日も仕事早くて、寝たくてさ」
「はい……私はなんでも。ご迷惑をお掛けしてすみません……その——」
「良いよ。それでさ……貴女、お名前はなんていうの?親御さんに連絡する為じゃなくて、呼び方に困るから教えてほしいの」
「元隅、海咲……です」
「元隅さん……ね。私は藤野和実。お姉さんって呼ばれるのはむずむずしちゃうから、苗字か名前で呼んで。ここらの高校じゃないよね……その制服って?」
「そうです……」
「あっ、お風呂沸かしてくるね」
私は片手鍋で水道水を沸かす間に浴室に駆けて行き、風呂を沸かす。
リビングに戻り、沸騰するのを待ち、沸騰した片手鍋に満たされたお湯をインスタントの焼きそばの容器に注ぎ、麺が柔らかくのを待つ。
その間に手早く二人分のみそ汁を作る私。
「元隅さん、来てもらえる。これくらいで大丈夫?」
私は彼女を呼んで隣に立つ彼女に小皿を渡し、みそ汁を味見してもらう。
「はい、美味しいです……」
味見を終えた彼女は戻っていく。
夕食の前に彼女が負っている怪我の処置を済ませた。
彼女の身体には、十箇所以上の怪我があった。
私と彼女はダイニングテーブルを挟み、夕食を摂る。
夕食を摂り終え、彼女を風呂に入るように促す私。
「元隅さん、先にお風呂入ってちょうだい」
「え……後でいいです、私は。藤野さんが先に——」
「そんな良いから。元隅さん、身体冷えてるでしょ。風邪引かれちゃ、嫌なの。先に入って、元隅さん」
「わ、わかりました……」
「着る物は元隅さんの身体に合わないことはないだろうから大丈夫そうね。スウェットを用意しとくから気にせずゆっくり入ってきて」
「はい……なにからなにまでありがとうございます」
彼女がダイニングチェアから腰を上げ立ち上がると深々と頭を下げ、お礼を言う。
「さぁ、入ってらっしゃい!」
私は彼女が浴室に向かう背中を見送り、洗い物を片付け、彼女に貸すスウェットを浴室に置いて、ダイニングチェアに腰を下ろし、ダイニングテーブルに突っ伏し瞼を閉じた。
そのまま、眠りに就いた私だった。
彼女に肩を揺すられ、起きたら、時刻は22時50分だった。
私は彼女に寝室のベッドを譲り、友人が置いていった寝袋に入り、ソファーで寝ることにした。
私がリビングの蛍光灯の灯りを消したのは23時48分だった。
私が一度目覚めたのは深夜の3時20分だった。
彼女がトイレに起きた物音で、起きた。
普段は物音がしないので、室内の変化に反応したらしい。
「元隅さん、寝られないー?」
「いっいえ……なんというか、長く眠れない身体で。起こしてしまいましたか?すみません」
「何度も謝らなくて良いよ、元隅さん。瞼を閉じるだけで良いから……身体を暖かくして休めてね。お休み」
「おやすみなさい、藤野さん……」
彼女のか細い声を聞き終え、再び瞼を閉じた私だった。
春を運んできた家出少女 木場篤彦 @suu_204kiba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。春を運んできた家出少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます