第27話 ラスト一回。
暴毒から受けた細かい傷から入ってきた毒を解毒する。
不快感と視界のぼやけが消えていった。
レーザーを撃てる回数はあと一回。
もう外すことは、できない。
単純に片足を拘束するだけじゃ逃げられてしまうが、両手を使って拘束したらそもそもレーザーを撃てなくなる。
こいつに確実にレーザーを当てる方法は……ある。嫌だが。
本当はやりたくはないが、身を削るしか無いようだな。
(そのためにはまず仕込みが必要だが……)
先に動いたのは暴毒だった。
暴毒は糸を俺へと向かって吐き出した。
「!」
しかし当たるはずもなく、俺は糸を難なく交わし、糸は俺の背後へと流れていく。
そして暴毒は続けざまに周囲に糸を射出していく。
「? 何をやっているんだ……?」
暴毒の意図の読めない行動に俺は怪訝な目を向ける。
だが、周囲を見渡して俺は理解した。
周囲の木々に射出されていた糸が、俺を囲むように張り巡らされていたのだ。
「まさか……っ!」
──バンッッッ!!!
暴毒が弾丸のように跳んでくる。
俺はすんでのところで躱すが、暴毒は俺の後ろの糸に網に着地すると、糸の弾力で速度を増してまた突っ込んでくる。
また避けると暴毒は同じことを繰り返し、さらに加速して体当たりをかましてくる。
俺はそれを必死に避けるも、暴毒は次々と体当たりを繰り出す。
加速。加速。加速。
暴毒は糸を上手く利用して、糸が張り巡らされた周囲360°をまるでピンボールのように周囲を飛び回る。
奴の外骨格はまるで鉄のように硬いうえに、体重は重い。
これでは巨大な鉄球が跳ね回っているようなものだ。
避けきれなかった暴毒が真正面からぶつかった。
「がッ……!」
メキメキ、と骨にヒビが入る音がした。
地面に倒れ、立ち上がる俺に暴毒が爪を振り下ろしてくる。
──まずい。このままじゃ避けられない。
この爪を食らったら、確実に致命傷になる。
思考が加速し、世界がスローモーションになった。
どうやったらこの爪を避けることができる?
その時、俺の脳裏にアイデアがひらめいた。
手のひらで炎をジェットのように炎を噴射させ、無理やり身体を動かした。
──ズッドンッッ!!!
炎の噴射で真横に飛び、爪をスレスレで避ける。
空中で姿勢を立て直すと、地面を削りながら減速した。
「ふんッ……!!」
完全に止まると。俺は暴毒に同じ攻撃を繰り出せないために、全方位に炎を流す。
紅蓮の炎の波が辺り一帯を焼き払い、暴毒の糸を溶かしていく。
暴毒は炎が迫る前に跳躍し、波から逃れた。
炎が収まると辺りは黒く焼け焦げた世界が広がっていた。
炎から逃げていた暴毒が木の陰から姿を現す。
姿が見えた途端、俺は全力で暴毒へ向かって走る。
今のでかなりマナを消費した。もう一度同じことをする余裕はない。二度と網を張り直させないためにも、攻撃し続ける。
迫りくる爪を拳で弾き返し、暴毒の顔面へアッパー気味の左拳を食らわせる。
浮き上がった顔に右拳。
そして右に揺れた顔面が戻ってくるのに合わせて、両手を組んでハンマーのように叩き下ろす。
ガンッ! ガンッ! ドッガンッッッ!!!!
あいも変わらず金属と金属がぶつかるような音を立てながら、俺は暴毒を殴りつける。
しかし暴毒も黙ってやられてはいなかった。
「──ッ!!」
「ぐっ……!」
衝撃に揺れる頭で、まっすぐ体当たりをかましてくる。
土埃を上げながら何メートルも押され、背中から木に押し付けられる。
俺が押し付けられた衝撃で木が折れる。
それでも構わずに暴毒は押し続け、何本もの木に押し付けられながら、俺は何十メートルも押され続ける。
押されている間、暴毒の頭を何度も殴るが、至近距離なのもあって全く重い一撃が入らない。
ついにひときわ大きな木に押し付けられ、俺の動きが止まる。
暴毒はその爪を俺の脚を刈り取るように振った。
「なっ……!?」
全く予想していなかった攻撃に俺は足を取られ、転倒する。
顔を上げるとそこには暴毒の爪があった。
まずい、避けなければ。
さっきみたいにジェットで無理やり──。
しかし俺の思考を読んでいたのか、ジェットによる回避を封じるために暴毒が腹から糸を吐いた。
俺の手が木に糸で縛り付けられ、一瞬とはいえ動きが取れなくなる。
まずい、ジェットが噴射できない。糸で炎で燃やす時間もない。
暴毒が勝ち誇ったように嗤った。
ドスッ。
「がッ……!?」
深々と。
俺の腹に暴毒の爪が刺さった。
暴毒が弄ぶように刺した爪をねじって動かす。
想像を絶する激痛に、頭が真っ白になる。
「う、ぐぅぅああああぁぁああああッ!!!」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
走る激痛に悲鳴を上げる。
「──ッ!!!!」
暴毒は勝利を確信し、咆哮を上げた。
だがしかし。
俺は腹に突き刺さった暴毒の爪を掴み──押し込んだ。
「ふッ、んぅぅゔゔぅぅぅぅ……ッ!!」
獣の唸り声ような悲鳴を上げながら、それでも狂ったように両腕で押し込みながら自分を脚の半ばまで持っていく。
暴毒の脚に自ら串刺しにされていく俺に、暴毒は驚愕の瞳を向けてくる。
身体の内側を焼かれるような痛みに意識が飛びそうになる。
まだだ。
まだ気絶するな。
「!?」
「やりたくなかったんだよ、これはぁッ……!」
暴毒は俺とマナを集めている手のひらを交互に見て、何かを悟ったような顔になった。
「そうだよ、こうすれば──逃げられないだろ」
掴んだ程度で逃げられるのなら──もっと密着すれば良い。
攻撃を避けれなかったように見せかけて油断を誘い、わざと刺される。
「こうすればどこに逃げようが、跳んだりしようが……絶対に当てられる」
本当はやりたくなかったんだ。痛いからな。
でも、ここまでしなきゃ暴毒にはレーザーを当てれなかった。
今更のように暴毒が脚を俺から引き抜こうとする。
しかし脇腹に刺さっている腕をあらん限りの力を込めて掴んで、離さない。
手のひらに炎が凝縮されていく。
レーザーが発射された。
チュッドンッッッッ!!!!!!
空に向かって駆け上がるようにレーザーが走っていく。
レーザーが収まった頃。
「くそっ……」
俺は渋い顔で吐き捨てた。
レーザーは直撃した。
だが、暴毒はまだ生きていた。
腹には大きな穴が空き、脚は八本のうち右前足と左の真ん中にある脚が二本が焼けて無くなっている。
それでも殺し切るには至っていなかった。
暴毒は俺から少し離れたところに立っている。
火事場の馬鹿力を発揮して俺を投げ飛ばし避けたのだ。
「はぁっ……はぁっ……」
貫かれた脇腹を押さえながら、俺は朦朧とする意識をなんとか保つ。
こちらは腹に大きな穴が空いてる上に、マナもほとんど枯渇気味。
しかし死に体なのはあちらも一緒。
脚を二本失い、身体には大穴を空けられている。
俺と同じようにすでに満身創痍なのは見ているだけで分かる。
すでに切り札は使い果たした。
だけど今のアイツなら、これでもトドメを刺す事ができる。
「最後はやっぱり……
両手の拳を握りしめる。
あちらも俺へと向き直る。
その動きは先程までの俊敏な動きとはまったく違う、死にかけの身体を引きずるような鈍重な動き。
向かい合う俺達には、選択肢は一つしか無い。
純粋な拳と拳の勝負。
ここから先はスタイリッシュさや美しさなんて欠片もない、泥臭くて、野蛮で、血生臭い──ただの殴り合いだ。
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