第26話 巨大蜘蛛の異能
泥の沼では拘束できないと分かった。
なら……何度も殴り続けて削るだけだ。
俺は暴毒へと駆け出す。
まっすぐに突っ込んでくる俺に対して、暴毒は返すように両前足の爪を突き出してきた。
このままいけば俺の心臓を貫く軌跡。
しかし爪が俺へと届く直前、脚に力を込めて……跳んだ。
暴毒の爪を跳んで躱しながら近づき。
位置エネルギーを利用して拳を暴毒の頭に叩きつけた。
「──ッ!!」
暴毒が地面に叩きつけられ、跳ねる。
浮き上がった暴毒の頭を掴んで、膝蹴りを叩き込んだ。
「──ッッ!!」
まだだ、この勢いを止めるな……!
肘を折り曲げ、空中の暴毒の身体へ肘鉄を叩き込んだ。
メリメリ、と肘が暴毒の身体へとめり込んでいく。
頭に二度打撃を入れられ、地面へ再度叩きつけられた暴毒は、一瞬スタンする。
「まだだ!」
その間に俺は暴毒の太い脚を掴むと肩に乗せ、身体を捻って真後ろへと振り返った。
「武術の心得はないと言ったがが……日本の男子なら一度は習うからな!」
高校の頃に授業で習ったきりだが……不完全ながらも記憶再現だ。
腰を低く落とし、一気に前へと投げ飛ばす。
一本背負いだ。
暴毒が背中ごと地面から叩きつけられ、地面がひび割れる。
一瞬の間、暴毒の瞳から光が失われる。気絶したのだ。
今だ、とレーザーを撃とうとしたとき。
暴毒の瞳に光が戻る。
レーザーを撃とうとしている俺に対して、素早く爪を突き出した。
至近距離かつレーザーに集中していた俺は、その爪を避けられなかった。
肩にその鋭利な爪が突き刺さる。
「ぐ、うっ……!」
俺はレーザーを中断し、爪を掴んで抜く。
ひび割れた俺の外骨格から血が飛び散る。
「ぬ、うぅあッ!!」
痛みを怒りに変換し、拳を暴毒へと叩きつけた。
重い一撃を食らった暴毒は悲鳴を上げたもののすぐに衝撃から回復し、体勢を戻すと飛び退いた。
「ぐっ……!」
俺は肩を押さえながら数歩後退する。
目の前がぼやけて、貫かれた左肩から身体がしびれて、具合が悪くなり始めた。
「うっ……?」
暴毒の毒が体内に入ったのだ。
ニヤァ、と暴毒が嗤ったように見えた。
「残念だが、毒じゃ俺は倒せない」
『解毒』を使って毒を解毒する。
するとすぐに身体の痺れも身体の具合の悪さも消えていった。
「ふぅー……よし」
暴毒が驚いたように俺を見つめている。
「驚いたか? もう毒は効かないぞ」
意味が通じるのかは分からないが、ハッタリの意味も込めて俺は暴毒へとそう言った。
すると自慢の毒を無効化された暴毒から、怒りの感情が伝わってきた。
暴毒がこちらへと向かってくる。
そして腹の先をこちらへと向けたかと思うと……糸を吐いてきた。
身体が粘着質な糸で拘束され、身動きが取れなくなる。
さっきの俺が泥の沼で動きを拘束しようとしたことの仕返しだ。
身動きが取れなくなった俺へ、暴毒が爪を振り下ろす。
拘束から逃れるため炎を出そうと両手にマナを集める。
「!!」
するとその瞬間、暴毒は勢いよく飛び退いた。
同時に俺の身体を炎が包む。
身体にへばりついていた糸は溶かされ、俺は拘束から逃れた。
(今のは、なんだ……?)
糸を溶かしきった俺は、今の暴毒の行動に抱いた違和感について考えていた。
今のは、明らかにおかしい。
どうして俺が炎を出した直後に避ける行動を取ったのなら理解できる。
だけどどうしてマナを集めた段階から動き始めたんだ?
まるで最初からマナが見えているような……。
「……まさか」
俺はそこでとある考えに思い至った。
試しに、炎を出すときと同じように手のひらにマナを集めてみる。
すると暴毒は警戒するように体を動かした。
今の暴毒の行動で、俺は完全に理解した。
なぜ暴毒があんなに早く攻撃を躱すことが出来たのかを。
「そうか、なるほど……お前は、マナを見ることができるんだな」
恐らく……いや、ほぼ確実に暴毒はマナを目で見ることができる異能を所持している。
マナは視覚で捉えることは出来ない。それはマナの波長を捉えることが得意なエルフも一緒だ。
でないとマナの段階で反応することなんで出来るはずがない。
今思えば、マナを見ることできるコイツが泥の沼に引っかかったりするわけがない。
あの泥の沼とレーザーのコンボはコイツに撃たされたんだ。手の内を明かさせるために。
暗い森の中でただのハエの俺を追ってこれたのも、俺についている微量のマナの痕跡を見ることができたからだろう。
暴毒の能力を知ることができたのは良いが……これから先、レーザーを当てるのは至難の技だ。
なにせ、マナからすでに見ることが出来ているのだ。
俺がどのタイミングで仕掛けようとしているのかも丸わかりということでもある。
……これは、やりたくないがあの手を使うしか無いかもしれないな。
とりあえず、コイツにマナを使った攻撃はほぼ当たらない。
マナを使わない攻撃手段で、もっとアイツの体力を削る必要がある。
そこで俺の目に入ってきたのは。
暴毒が倒した、真ん中で折れて倒れている木の幹。
ためらわず掴んだ。
「ふんッ……!!」
木の幹に両腕を回し、持ち上げる。
そしてその幹をぶん回して、暴毒へと殴りかかった。
暴毒は上から振り下ろされる幹を脚をクロスさせてガードするが、木の幹に押し切られ地面に叩きつけられる。
「フッ……!!」
またもや木の幹を回して叩きつけようとしたが、暴毒はそれよりも早く跳躍して避ける。
空振って身体がガラ空きになった俺に、暴毒が素早く距離を詰めてくる。
もはや無用の長物になった木の幹はその場に捨てて、振り下ろされる爪を避ける。
暴毒は攻撃の手を止めず、前足で何度も何度も攻撃を繰り出してくる。
俺はそれを避けるが……避けきれなかった爪が外骨格を掠めて火花を散らしていく。
「くっ……!!」
掠っただけでも、暴毒の爪は鋭く、避けきれなかった爪で俺は細かい傷を負っていく。
たまに深く外骨格を削られ、血が飛び散る。
トドメを刺しに来たのか、暴毒が大きく爪を振りかぶった。
(ここだ……!!)
ガシッッッ!!!
振り下ろされる爪を……俺は掴み取った。
驚いた素振りの暴毒に俺は笑みを向ける。
「残念だったな、流石に何度も見せられたら見切れるさ」
確かにお前の攻撃は速かった。
だけどこれだけ見たら目が慣れてくる。
「そして……これで終わりだ」
手にあらん限りの力を込めて、二度と離さないように爪を掴む。
暴毒は爪を振って逃げようとするが、それでもホールドして離さない。
そして反対の手には……凝縮された炎が作られていた。
──泥の沼で拘束できないなら、直接身動きを取れないようにしてやる。
暴毒が俺へと反対側の爪を振り下ろす。
しかし俺がレーザーを発射する方が早い。
レーザーを発射する。
その瞬間。
ぐっ、と暴毒の脚に力が入った。
ダンッ!!
──暴毒が、全体の足を使ってその場で飛び跳ねた。
「なん──」
レーザーは暴毒の真下を通っていく。
一秒にも満たないレーザーの放出が終わった後、空中の暴毒は地面へと着地する。
俺の内心は驚愕で満たされていた。
暴毒は俺に腕を掴まれて逃げられないと分かるやいなや、その場で飛び跳ねて空中でレーザーを避けたのだ。
なんという反応速度と身体能力だ。
俺はまだコイツを見くびっていたのだ。
二発目は避けられた。
残り、一発。
ラストで確実に決める。
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