第22話 煉獄王イグニセウス
シェリスの毒を解毒した後、エルティアが俺に質問をしてきた。
「その、少々気になったのですが」
「なんだ」
「グレン様は、異能を二つ持っていらっしゃるのですか?」
「ああ、そうだ。……言ってなかったか?」
俺は記憶を掘り返す。
……そう言えば俺が二つ以上異能を持っているということは一度も言ったことがなかったな。
エルティアたちの異能は言うだけ言わせて、俺は言っていなかったのか。
異能を自分たちに隠されていると思われても仕方がないな。
俺だったらそれはちょっとモヤモヤする。自分がされて嫌なことはするべきではない。
素直にエルティアたちに謝る。
「すまない。言うだけ言わせて、俺だけ何も言ってなかったな」
「いっ、いえ、グレン様が謝っていただく必要はないです!」
「いや、この機会だ。俺の異能をすべて伝えよう」
俺は自分の異能をエルティアたちへと伝える。
「俺の持っている異能は『マナ吸収』『ステータス管理』『土石』『解毒』『劫火』の五つだ」
俺がそう告げると、三人ともぽかんとした表情になった。
「どうかしたか?」
「そんな……五つも異能を持ってるなんて……」
ああそうか。
通常はこの世界では異能を持っているだけでも珍しいんだ。
それが二つ以上持っているというだけでも驚くべきことなのだろう。
「俺が異能をいくつも持っているのは、『マナ吸収』の異能の能力のひとつだ」
「異能を増やすことができるのですか?」
「マナを吸収した対象が異能を所持していた場合、それを自分の異能として所持することができる」
ああ、そうだ。この機会だから一度、俺の能力について気になったことを調べてみよう。
俺は『ステータス管理』を発動する。
ステータス
名前:グレン・ベルゼビュート
種族:ハエ
称号:蠅の王
異能:『マナ吸収』『ステータス管理』『土石』『解毒』『劫火』
あれ、『特殊能力』の欄が『異能』に変わってる?
名前の件といい、どうやらステータスは俺の認識によって名称が変化するようだ。
俺は空中に浮かんでいる半透明のウインドウを指して、エルティアたちに尋ねてみる。
「この画面が見えるか?」
「ガメン? 私には何も見えませんが……」
エルティアはフィアナへとを向ける。
フィアナは首を横に振った。
「私にも何も見えません」
「私もです」
フィアナとシェリスも何も見えていないそうだ。
「ふむ、これは俺にしか見えないのか……」
街中でステータスの画面を開いていても、俺の手の内を覗き見られるという心配がないのは一安心だ。
俺がそんなことを考えていると、エルティアが感心したような声を漏らす。
「それにしても、炎を操る能力も持っていて……まるで、私たちの祀っている『イグニセウス』様のようですね」
……流石に、聞き間違いではない。
炎を操る能力。もう死んでいて、祀られている。そしてエルティたちが毎日祈っている方向。
ここまで揃ったら、もう知らなかったでは済まされないだろう。
「その……」
「はい、何でしょうグレン様」
「そのイグニセウスの話について、もう少し詳しく聞いてもいいか?」
「もちろんです」
そう言ってエルティアはイグニセウスの話を語り始めた。
それはいわゆる神話だった。
むかしむかし、この地には悪い悪い存在がいた。
その存在を倒したのが『煉獄王』というイグニセウスだった。
イグニセウスは大地すら揺るがす炎の力でその悪い存在を倒した。
悪い存在を倒したイグニセウスはその後、この森に住まうものたちに英雄として讃えられると同時に、神として信仰されるようになった。
森に住まう全員の後押しを受けて、イグニセウスは王としてこの土地を治めることになった。
イグニセウスが土地を治めていた間は、すべての調和が取れた楽園が広がっていた。
イグニセウスが死んだ後、神殿へと祀られることになった。
これがエルティアの語ってくれた神話だ。
「……」
神話を聞いた俺は黙っていた。
そんな俺にエルティアが尋ねてくる。
「グレン様、どうかなさいましたか?」
俺は意を決してエルティアに白状する。
「一つ、言っておかなければならないことがあるんだが……」
「言っておかなければならないこと?」
「もしかしたら……その、イグニセウス、のマナはすべて俺が吸収してしまったかもしれない」
「えっ?」
エルティアたちが素っ頓狂な声を上げた。
「一つ確認しておきたいんだが、神殿、というのはあちらにあるもので間違いないよな? 文字が刻まれた石の扉があって、その奥に村がある……」
俺は神殿の方向を指さして確認する。
「はい、恐らくそうですが……もしかしてグレン様」
俺は経緯を説明した。
『暴毒』に襲われた後、あの神殿の中に逃げ込んだんだこと。
手足とか色々と無くなって、生き残ろうと必死に『マナ吸収』を発動していたこと。
目が覚めたら部屋の中のマナが綺麗さっぱり消えていて、玉座の黒い骸骨が消えている代わりに、新しい肉体を持った俺がいたこと。
そして……元は俺はただのハエだったことも。
「俺はもとはただのハエだったんだ。……失望したか?」
何を言われるのか、と緊張していたが口を開いたエルティアたちの一言目は意外なものだった。
「いえ、それは知っていましたよ」
「え?」
「マナの波長が少し変わっていたので確信はなかったのですが……やっぱり、グレン様はあのときのハエさんだったのですね」
「私も薄々そうじゃないかとは思っていましたが、やっと分かりましたね」
「盗賊から助けていただいた件はありがとうございますした」
エルティアたちはそれぞれ顔を見合わせてそんなことを告げる。
それに命の恩人って、コカトリスの件じゃなかったのか。
俺は困惑しながらエルティアたちに問いかける。
「俺がハエだって分かってたのか」
「エルフはマナの波長を覚えるのが得意な種族なのです」
嘘だろ……。
エルティアたちは全部分かっていたってことか。
「それにしてもまさか、グレン様がイグニセウス様のマナと骸を吸収したなんて……」
エルティアたちは顔を見合わせ、頷きあう。
何を言われるのか、と緊張が走る。
しかし次の瞬間、エルティアたちは俺の前に……跪いた。
「グレン様、どうか私たちの……王になってください」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます