第15話 『劫火』の検証
生活の拠点はしばらく神殿で暮らすことにした。
人間サイズになった今、岩の中に部屋を作るのはそもそも窮屈だし、地面の中で暮らそうにもマナがもったいない。
それなら元から形がある神殿を使って生活したほうが、マナも節約できてお得だ。
石の扉を閉めればマナも外に漏れないし、ある程度広さが合って生活するのに向いている。
生活の拠点にもってこいなのだ。
拠点を決めた後は獲物を取ってくることにした。
落とし穴に獲物がかかっているかもしれないから、まずはあそこを確認しよう。
そう考えて落とし穴の方へと向かおうとしたその時、俺は飛べないことに気がついた。
「あれ? 羽が消えてる……」
背中を見てみれば羽が消えていた。
この身体に変わる過程で、どうやら羽が消えてしまったらしい。
人間サイズの身体に戻ったこと嬉しいが、飛べなくなってしまったのはちょっと残念だ。
というわけで、落とし穴には徒歩で向かうことにした。
幸いにも身体は強靭かつ、人間よりも遥かにパワーがあったので走ったらすぐに落とし穴のところまでたどり着いた。
走っていて気がついたが、この身体、体力の限界が全く来ない。
「あ、ラッキー」
落とし穴には獲物がかかっていた。
ウサギの魔物だ。
いつもなら落とし穴に入った後、土の蓋で覆って『マナ吸収』を使うところだが、今の俺にはそれはできない。
持って帰ってマナを吸収するか、と『土石』を使ってウサギの魔物が刺さっている土の槍を伸ばし、手元までウサギの魔物を運ぶ。
そして背負って神殿の方へと向かおうとたところで、目の前にオオカミの魔物が現れた。
「死体に釣られたのか? まあいいか」
『土石』を使って泥沼から脚を取って、土を固めて動きを拘束。
そして正確に心臓の位置に土の槍を叩き込んだ。
絶命したオオカミの魔物が地面に崩れ落ちる。
ちょうどいいか、これも一緒に食べてしまおう。
ウサギの魔物の死体と一緒にオオカミの死体を一緒に担ぐと、俺は神殿へと戻っていった。
神殿に死体を置くと、そこら辺にある木の枝を集めて来る。
目的はただ一つ……焚き火を起こすためだ。
「もう、料理ができるようになったからな」
俺は指が合ったことで料理ができるようになったのだ。
これまでのように死肉を生のまま食べる必要はなくなったのだ。
ようやく俺は人間らしい食事を取り戻した。
まずは集めた枝に『劫火』で火をつけて焚き火を起こすと、『土石』で石のナイフを作ると、ウサギの魔物を捌き、枝に刺して焚き火で肉を焼く。
しばらくすると肉が焼けた。
ちょっと焦げ目のついたウサギを見て、人間だった頃の食事の記憶が蘇ってきた。
「いざ……っ!」
塩もなにもかかってない、そのままの素材の味。
上手く焼けなくて、中の方はまだ生焼けアンド生のままの、上手くできたとは言えない出来。
だけど……めちゃくちゃ美味かった。
そして一つ驚くべきことがあった。
食事とともにマナを吸収していたのだが……驚くほどマナの吸収が早かったのだ。
肉を食べ終わる前にすべてのマナを吸収しきっていた。
時間に換算するなら、三分程度だろうか。
以前ならばマナをすべて吸収するのに少なくとも数時間はかかっていた。しかし今ではそのマナを数分で吸収できている。
「一緒に肉を食ったのが早くなった原因か? いや、食べ終わる前に吸収が終わっているから、単純にマナの吸収が早くなったのか。もしくはどっちも、だな」
何にせよ、マナの吸収が早くなったのはいいことだ。
実験するために、今度はオオカミの魔物の死体は食べずに、マナの吸収をしてみる。
するとマナの吸収は十数分程度で終わった。
やはりマナの吸収は早くなってる。けどウサギのときの吸収スピードも考えたら、もう少しマナの吸収が早くないとおかしい。
俺はこのことから分かったことをまとめる。
「つまり、俺自身のマナの吸収が早くなってるプラス、魔物の肉を食べることで更に吸収が早くなるってことか」
魔物の肉を食べることでマナの吸収は早くなる。
今までも魔物の死体は食べていたが、ハエの身体が小さすぎて食べる量が少ないから、ほとんど誤差みたいな早さにしかなっていなかったんだろう。
最後にオオカミも捌いて食べた。
ちょっと肉が筋張っていて食べづらかった。
「さて、新しい特殊能力の確認をするか」
新しい特殊能力『劫火』。
この能力が何が出来て何が出来ないのか、それを調べる必要がある。
能力の検証は重要だって身を以て知ったからな。
まずは外にマナが漏れないように神殿の扉を閉じてから、色々と能力を検証してみた。
分かったことはこんな感じだ。
・『劫火』は名前の通り炎を出す、操る能力。
・炎を出すときのマナの効率は意外と良い。
・『爆発』も能力のうちに入っている。
・逆に効率がいいせいで、『土石』の感覚のままだと炎の勢いを調整するのが難しい。
と、検証で分かったのはこれだけだ。
『土石』で無から石や土を生み出すときはマナの効率は悪いので、てっきり炎を無から生み出すのも燃費が悪いと思っていたが、じつはそうでもないのが意外だった。
固体から生み出すかどうかの違いなのか?
まあそこはいい。
『劫火』はシンプルかつ、攻撃向けの能力だ。
マナの効率がいいせいで、炎を調整するのが難しいという難点があるが、それは練習すれば身につくだろう。
以外だったのは爆発の能力のうちに入っていたこと。
爆発させるのは簡単だ。炎をいい感じに破裂させるだけ。
爆発する炎球を投げて攻撃するのもいろいろと捗りそうだ。
とりあえず、俺が思いついた『劫火』の使い方を試すとしよう。
なにもない場所までやってくると、手のひらを虚空へと向けて炎の塊を作る。
そしてその炎の塊を圧縮して、指向性をもたせるとそのまま放つ。
すると──ドゥンッッッ!!!!
爆発音とともに火柱が上がった。
威力が高く、近距離な相当な威力を発揮する技だ。ただし、射程距離が短いため、遠くの敵を攻撃するのは全く向いていない。あくまで至近距離で敵と向き合っているときに使う技だ。
そうだ、これをもっと圧縮して使ったらどうなるんだ?
もっと炎を圧縮して指向性を更に絞れば、射程距離も威力も上がるはずだ。
思いついたことを早速試してみる。
炎の塊を圧縮すると更にマナを使って炎を追加し、圧縮を重ねていく。
そして限界まで圧縮したところで、その炎の塊に絞りに絞った指向性を持たせた。
暴発しそうになったので、撃った。
チュドォォォンッ!!!
爆発と炎を超えた、もはやレーザーと化した炎が放たれた。
熱線は石の扉を貫通し、神殿の外へと走っていった。
「……やべ」
分厚い石の扉を貫通している穴を見て俺は呟いた。貫通した穴の中は石が溶けて、ドロドロになった部分が落ちてきていた。
まさかこんなに威力が高くなるとは思ってなかった。
これは俺の切り札になる。そう確信した。
マナを馬鹿みたいに食うから今は二、三発しか撃てないが。
このままじゃマナを隠す役割を果たせないので、扉の穴は『土石』で塞いで応急処置を施しておいた。
「この技の弱点を挙げるとしたら、発動までの遅さだな……。練習して速度を上げれたら良いんだが、流石に日に数発しか撃てないんじゃな……」
毎日食料を取るのにマナを使うし、そもそも次にあの巨大グモに出会ったときのための切り札にも残しておきたい。
まあ、もっとマナを増やせば自ずと練習するための余裕も増える。
現時点で、俺はあの巨大グモのマナには到底達していない。
地道にマナを増やせば、それだけ俺が生存する確率も上がっていく。
頑張ろう。
俺はまた魔物を狩るために森へと出ることにした。
近場に落とし穴を作るためだ。正直、毎回離れた場所にある落とし穴を確認しに行くのは面倒くさい。
使わなくなった落とし穴は放っておいても良いのだが……誰かが嵌まっても目覚めが悪いし埋めておくか。
使わなくなった落とし穴を埋めにいった後、神殿の裏の少し離れたところに落とし穴を三つほど作った時だった。
「ん? なんだあれ」
木々の隙間から人工物が見えた。
そちらの方向へと向かっていく。
「これは……村か?」
森を抜けたその先、そこには村が広がっていた。
人がひとりもいない、壊滅した村が。
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