第10話 能力の検証と奥の手
今回のクマとの戦いで俺は教訓を得た。
一つ、特殊能力の検証はしっかりすること。
何ができて何ができないのか。それをしっかりと確認する必要がある。
今回で言えば、岩を無から作り出すまでの時間が想像よりもかかっていて、クマを足止めできずに足を抜かれてしまった。
結果、完全に成功したはずの奇襲が失敗し、クマと俺の命のやり取りが始まった。
本来、奇襲は完全にノーリスクで命の危険なく攻撃できるから強いのだ。
能力をちゃんと検証しないとまた同じことがおこってしまう。
ああいったことを二度と起こさないためにも能力の検証は大切だ。
そして二つ目は特殊能力の練習をすることだ。
無から岩を生み出すのに時間がかかったのは、今までやったことがなくて習熟度が足りなかったからだ。
もし無から岩を生み出す練習をしていたら、あれほど時間はかからなかったはずだ。
そしたら一撃でクマを仕留めることができて、命をかけた戦いに発展することもなかった。
つまり、あのクマとの一戦は能力の検証と練習不足が生み出したものと言える。
いつかこの一瞬で生きるか死ぬかが決まるかもしれない。
できるだけ能力の練習はしておくべきだろう。
特殊能力もマナと一緒だ。
与えられた瞬間から使いこなせるわけじゃなくて、一つずつ練習して徐々に使えるようになっていくんだ。
結局は積み重ねってことだな。
というわけで、さっそく特殊能力の練習へと移った。
まずは『土石』の能力の検証だ。
『土石』の能力はマナを消費して土や石、岩を操ったり、無から生み出したりできる能力だ。
もともとある土や岩を操るのにはそれほどマナを消費しないが、無から生み出すのには結構魔力を消費する。
今気がついたが、岩がいけるってことは鉱石類も操ったり生み出すこともできそうだな。
検証してみたいが……今は手元に鉱石がないので無理だ。
そして、土や岩は強度を変えることができる。
例えばクマにやったみたいに、土を柔らかくして沼にした後に、沼をカッチカチに固める、といった具合だ。他にも岩に穴を空けて通路を作ったりもできる。
石を柔らかくしたら脆くなるんだろう。
試しに目の前に石があったので試してみる。
パキ、モロモロ……。
俺の想像通り、柔らかくなった石はもろく壊れていった。
使い方は今のところは思いつかないが……どこかで使えるかもしれない。
ん、待てよ?
土や岩を操れるんなら、浮かしたり飛ばしたりもできるんじゃないか?
試しに土の塊を地面から取り出して、俺の目の前へと持ってくる。
雪玉くらいの土の塊が空中に浮かんでいる。
そしてそれを飛ばしてみた。
すると土の塊はポーン、と放物線を描いて飛んでいく。
やっぱり俺の予想は当たっていたようだ。
(これは攻撃とかに使えそうだな……岩をめちゃくちゃ硬くして飛ばしたら、かなり強力な攻撃になるんじゃないか?)
そんな考えが頭をよぎったが、すぐにそれは無理だという結論に達せざるを得なかった。
ただし、この浮かしたり飛ばしたりするのにはマナを消費する。
しかも素早く飛ばしたりすればするほどマナを消費していく仕組みだ。今の俺じゃすぐにマナが枯渇してしまう。
岩を飛ばして攻撃するのはもっとマナを大量に得てからになりそうだな。
……でも、ちょっとだけ練習はしておくか。
さて、お次は『土石』の練習だ。
やることはもう決まってる。
無から土や岩を高速で生み出す練習。
そして土を柔らかくしてから固くする練習だ。
練習の様子は地味だ。無から土と岩を生み出すのをひたすら回数をこなし、限界までその工程を早めていく。
何度も何度も反復練習を繰り返し、無意識でも一秒以下で作り出せるようになるまで身体に覚え込ませる。
そうして数日ずっと練習した結果、無から土や岩を生み出す工程を一秒以下にすることに成功した。
次は土や石を固くしたり柔らかくしたりする練習だ。
これも相手を足止めするときのように高速で行う必要がある。これができれば、あの巨大グモに遭遇したときにも沼に足をはめた後に、土を固くして動けないようにすれば、逃げ切れるかもしれない。
それだけじゃなくて戦闘中にいきなり足場を崩されたら、どんな生物だって一瞬は隙が生まれる。
一瞬の隙であっても戦闘中なら千載一遇のチャンスだ。
これも同じように地面に何度も同じ工程を繰り返して反復練習を重ねていく。何事も積み重ねだ。
固める工程は、マナを込めれば込めるほど固くなっていく。
最初の方は土を柔らかくしたり固くするのには時間がかかっていたが、練習するたびに早くなって、一日経った頃には今では一瞬でどちらもできるようになった。
柔らかく固くしたりする工程が他の工程よりも習得がほかよりも早かったのは練習してたからかな。
そして『とあること』の練習もしておいた。将来役に立つかもしれないからな。
(さて、練習も終わったことだし、一度腕試しでもしに行くか)
成果の確認も練習の内だ。
練習した結果どれくらい通用するようになっているのか、単純に知りたいだけというのもあるが。
魔物を探して森の中を散策する。
しばらく彷徨っているとじめっとしたところに先日食べようとして失敗した毒キノコを発見した。
そう言えば、あのときは今まで動物の死体ばかりだった食事に革命が起こると思って喜んだはいいものの、『解毒』の特性を分かってなかった上に、どうしても食べてから解毒するという工程上、結局は死体しか食べられないという結論に戻ったんだよな。
異世界だからどれが毒を持ってるかなんて分かりっこないし。
そこまで考えて、ふと俺の頭に引っかかる物があった。
ん……? 待てよ。
『解毒』の能力の使い方は、毒を食べてから解毒するというものだ。
解毒という言葉からして、自分にしか能力を使うことができないんだと思っていた。
でも、同じく特殊能力である『土石』は地面の土に対して能力を使うことができてるよな?
じゃあ……『解毒』は他のものに対して使用することができるんじゃないか?
あらかじめ解毒ができるなら、毒で体調が悪くなるのを心配する必要がなくなる。
俺は緑色の毒キノコに近づく。
そして『土石』を使って欠片を切り取ると、手元に持ってきた。
もし俺の予想が正しければ……。
手にある毒キノコの欠片に『解毒』を使ってみる。すると、手元の毒キノコの欠片がほんのり光ったような気がした。
(これで解毒はできたはず……だけど)
俺は恐る恐る解毒を使った毒キノコを食べてみる。
ごくりと欠片を飲み込んで、体調が変化しないかどうかを観察する。
しばらく様子を見てみたが……体調は変化しない。
(よしっ! 解毒は成功だ……!!!)
俺は心のなかでガッツポーズを取った。
『解毒』を他のものに対して使うことは可能だったのだ。
ああ、これが久しぶりの魔物の死体以外の食べ物の味か……。
なんだか久しぶりに人間的な食事を取り戻した気がするよ。
俺は久しぶりに食べたキノコの味に感動を覚えた。
しかも、なんか結構うまい。
そう言えばあっちで有名な毒キノコであるベニテングダケは、旨味調味料の十倍のうまみを持ってて、とんでもなく上手い、とか聞いたことあるな。
ハエにそのうまみを感じる器官があるかどうかわからないので、ただ久しぶりに食べたから美味いだけの可能性は十分あるが。
これでこれから食事は他のものを食べることができるようになった!
…………まあ、毎回『解毒』してたらマナがなくなるし、キノコを見つけるのも一苦労なのでしばらくは死体を食べることにはなりそうだが。
それもこれもマナを増やせば解決する話だ。
うん、そう考えると俄然やる気が出てきたな。
元人間として最低限の文化的な食事を取り戻すために、これからも頑張ってマナを増やしていこう。
決心を新たにしていると、俺が『解毒』を使ったときに漏れたマナにつられたのか、目の前に魔物が現れた。
二本の角が生えているオオカミの魔物だ。
オオカミは俺を探しているのか周囲をキョロキョロと見渡している。今の俺はマナを漏らさないようにして気配を消しているので見つけられないようだ。
丁度いい、こいつでどれだけ俺に実力がついたかを試すことにしよう。
成果を確認するために前と同じクマの魔物で実力を試したかったが、そんなにすべてが上手くはいかないな。
だけど相手としては申し分ない相手だ。
まずは今度こそ奇襲を成功させる。
俺は心を落ち着けて、練習したことを思い出す。
思い出せ。俺は何度も何度も練習した。身体に刻み込まれるまで。
絶対に失敗しないはずだ。
……よし。
意識を集中させる。
オオカミの足元の土を柔らかくして、足を落とす。
一秒もかからずにオオカミの前足の地面が泥の沼と化した。
「!?」
前足がいきなり地面の中へと落ちていき驚いたオオカミへ、泥の沼をまた固くして足を引き抜けないようにする。
そしてオオカミが固められた足を引き抜こうとする直前、無から生み出した岩の槍がオオカミを貫いた。
身体を貫かれたオオカミは絶命する。
よし、練習の成果は出ているようだ。
もし次にクマに遭遇したら、とイメージしながら練習したコンボも完璧に決まった。
オオカミ相手に別に岩を無から生み出す必要はなかったのだが、練習の成果の確認なので問題はない。
俺が自分の練習の成果に満足していた時。
「………………***っ!!」
風に乗って、声が聞こえてきた。
人間の声だ。
珍しいな、こんな魔物が出るような森の中に人がいるのか。
あの巨大グモとかもいるから、人間がいたらここは入ってはならない禁忌の森とかに指定されてそうなものだが。
……そう言えば、この森に住んでいる人間、いたな。
俺は森の中で出会ったあの三人のエルフを思い出す。
そういえば、俺が今いる場所はあのエルフの集落があったところからあまり離れてはいない。つまり、全然徒歩圏内だ。
もしかして、今のはあのエルフの声なのだろうか。
……今の声って、何かを争っているような声だったよな。
まさか、あのエルフに何かあったのか?
別にあのエルフに何かが起こっていたところで、俺に関係あるわけじゃない。
でも、なんだか胸がざわざわする。
俺は声のする咆哮へと飛んでいった。
そして、声のもとまでやってくると、そこには案の定エルフがいた。
(これは……)
──エルフの三人は盗賊に囲まれているところだった。
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