第8話 新しい特殊能力

ステータス

 名前:鈴木透

 種族:ハエ

 称号:ハエ(強)

 特殊能力:『マナ吸収』『ステータス管理』『土石』『解毒』



(新しい特殊能力が増えてる! 今のウサギの魔物、特殊能力を持ってたのか……!!)


 増えた特殊能力は『解毒』。

 どうみても使い勝手の良い、サバイバルに置いて引っ張りだこの能力だ。


 このホーンラビットもこの特殊能力に何度も助けてこられたのだろうが、運悪く単純な落とし穴には全く役には立たなかった。

 俺は『解毒』の特殊能力を手に入れたことに浮足立っていた。


(もしや、キノコや木の実が解禁になるのか……!?)


 それは、魔物以外の死体の食事のレバートリーが増えるかもしれないからだ。

 今までは毒キノコや毒があるものに怯えて、魔物の死体を食べることはできなかった。


 ここは異世界だ。

 もとの世界の毒キノコや毒のある植物の知識なんて役に立たない。


 まあ、新しい魔物を食べるのも結構チャレンジだったのだが、大抵殺したらすぐに俺の同類であるハエが寄ってきて大丈夫なことは分かっていた。

 もしキノコや木の実が食べられるようになるなら、俺は死肉を食べることから開放される。


 最近は慣れてきてたけど、流石に元人間としてはちょっと複雑だったのだ。

 キノコも木の実も『土石』で潰したらなんとかなる。


 やっと人間の食べ物が食べられるのだ!!


 今日から食事革命だ!


 さっそく俺はキノコを探しにいく。

 ジメジメとしているところを探していると……発見した。


 なんか緑色のヤバそうな色をしたキノコだ。

 絶対に毒を持っているだろうから今までは見つけてもスルーしていたが……今の俺には『解毒』がある。


 『土石』で小さな土の槍を生やしてキノコを貫く。そしてその拍子にポロッと落ちてきたキノコのかけらをいただくことにした。

 さて、どんな味がするのやら……。


 思わず俺は目をかっ開いた。

 う、うまい……っ!!

 今まで食べたキノコの中で一番うまいキノコだ。


 これならいくらでも食べることができ……。

 そう考えた瞬間。


 急に体調が悪くなってきた。やっぱり毒キノコだったんだ。

 体中に痛みが走り抜ける。


 しかし俺は焦っていなかった。

 なぜなら、キノコが毒だったとしても俺には『解毒』がある。


 『解毒』を自分の体に対して使う。

 するとすぐにその痛みは消えていった。


(ふぅ……助かった。……けど、なんかまだ微妙に体調が悪いな……。解毒が効いてないのか?)


 いや、そうか。

 俺は全く初歩的なことを忘れていた。


 『解毒』は毒を解除するだけで、『解毒』自体に回復するような効果はないんだ。


 だから毒によってダメージを受けた部分は解毒されてもそのまま消えずに残ってしまのだ。

 例えば触れたものを溶かす毒をかけられたとして、『解毒』を使えばその毒自体を無効化できるだろう。だけどその毒で溶かされた部分は治らない。


 単純にこれから広がるのを防ぐだけだ。

 俺は無意識のうちに『解毒』には回復効果もついているものだと勘違いしていた。


 危なかった。今この事実に気がついてなかったらいつか毒で死んでいたかもしれない。


 この体調不良は教訓として甘んじて受け入れよう。


 それにしても食事革命はまだお預けか……。


 若干の体調不良を感じつつ、俺は岩の隠れ家へと戻っていき、またマナの制御の訓練を始めた。

 翌日には体調不良は改善していた。


 それから一週間ほどマナの訓練をしていると、俺はとあることに思い至った。


 もしかして、マナって押さえつけて制御するのとは違うんじゃないか?

 しばらくマナの制御の訓練をした結果、マナを身体の外に出さないようにするために押さえつける、というのは何かが違う気がする。


 マナは押させつけるようなものじゃなくて、もっとこう自由にさせるものって感じがする。

 行き渡らせるというか、広がらせるというか、流れに身を任せるというか……。


 あ、そうか。

 押さえつけるんじゃなくて、『循環』なんだ。


 それも体内の中だけで行う「閉じた循環」。

 マナは基本的に押さえつけない性質だ。だけど循環させるなら押さえ付ける必要はない。


 試しに俺は体内でマナを循環させてみる。

 もちろん、最初はマナを動かすのは難しかった。


 しかし時間を体中にマナを行き渡らせ、それを循環させる。

 するとすんなりとマナは外に漏れ出なくなった。


(よしっ!! これでちゃんを身を隠せるようになった!)


 これからは漏れ出るマナでバレないように行動することができる。

 ということはつまり、自分からも動物を狩りに行けるようになるということだ。


 今までは漏れ出るマナを抑える方法がなかったから、魔物に近づいたら必ずマナに気づかれていたので、落とし穴か俺のマナに釣られた魔物を殺すくらいしか狩りの方法がなかった。


 だけど、それはすごく危険だ。

 なぜならこの一帯にはあの巨大グモがいる。


 マナを放出し続けていると巨大グモに見つかる可能性がかなりあるのだ。

 その証拠にマナの制御の訓練をしているときも何回か巨大グモに遭遇しかけた。


 その度に地中に潜ってなんとか事なきを得ていたが、正直外に出ている限りあの巨大グモに狙われ続けるというのはストレスが凄い。

 だが、これでもうあの巨大グモに怯え続ける必要がなくなるというわけだ。


 早速外に出て獲物を見つけに行く。

 マナを身体の中で循環させて外へと漏れ出ないようにしながら。


 そこら辺を飛んでいると、早速目の前に魔物が現れた。

 頭が二股に分かれているヘビの魔物だ。


 ヘビの魔物は俺の目の前を通っているが、どうやら気がついている様子はない。

 俺がマナを循環させて気配を消しているからだ。


 今、あのヘビの魔物にとって俺はただのハエと変わりない。

 ヘビの魔物が俺の前を通り過ぎ、その無防備な背中をさらしているところに……土の槍を生やした。


 すると真後ろからそんなものが生えてくるなんて微塵も考えていなかったのか、あっさりとヘビの二股の頭は串刺しになった。


 やっぱり、ハエに擬態する戦法は狩りに最適だな。

 と言っても元から俺はハエなのだが。


 ヘビの上から土を被せてマナが漏れないようにすると、俺はヘビのマナを吸収していった。


 ヘビの魔物のマナは数時間で終わった。


 体感的にホーンラビット以上、ゴブリン以下といったくらいだ。

 マナを吸収し終えると丁度あたりが暗くなってきたので俺は岩の家へと戻った。


 一度休息を挟んで翌日。

 今日もまた俺は狩りにでかけることにした。


 一応落とし穴のところを確認したが、獲物はかかっていなかった。

 もっと強くなるためにマナが欲しい。


 マナがあれば特殊能力がたくさん使えるようになるし、単純な身体能力も上がっていく。

 そして魔物を探して森の中を彷徨っていると、魔物が出てきた。


 その魔物は俺が今まで出会ってきた魔物よりも一回り大きかった。

 体毛に覆われたその巨体は歩くだけで周囲に振動が伝わり、そして額には第三の目がついている。


 ──クマの魔物。


 それが俺の目の前に出てきた魔物だった。


(こいつは……倒せるのか?)

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