第4話 巨大グモの脅威

 全速力で反対方向へと飛ぶ。

 そしてちょうどその時、大きな岩を見つけた。


(っ『土石』──!)


 岩にハエだけが入れるような小さな穴を作り、隠れ家として中に入る。


 こうやって岩の中にいればマナも漏れ出ないし、こちらにやってきた何かだって俺を見つけることはできない……はず。


 そして岩の中でしばらくじっとしていると。

 ドスン、ドスンと地面を伝って振動が伝わってきた。


(一体何が来てるんだ?)


 少し気になった俺は、岩の穴の中から外の様子を窺い見る。


 ──『何か』がやってきた。


 八つの目に八本の足。

 それは、巨大なクモだった。


 木と同じくらいの大きさのクモが、周囲の木をなぎ倒しながら進んでいる。

 その巨大グモの姿を見て確信した。


(あれが、きっとゴブリンを殺した『何か』だ)


 蜘蛛の足の先端には鋭利な爪があった。

 あれでゴブリンの腹にあの大きな穴を開けたんだ。


 牙かなにかだと思ってたが、爪だったのか。


 あれとは、絶対に戦えない。

 圧倒的なマナの密度。


 それに加えて本能が訴えかけてきている。


 「あれとは戦ってはならない」と。


 あれに今見つかったら、確実に俺は死ぬ。


 息を潜めて巨大グモが去っていくのを見守る。

 幸いにも岩の中に隠れていた俺のことを見つけはしなかった。


 必死に息を押し殺して巨大グモのことを見ていると、幸いにも俺には気が付かずに何処かへと去っていった。


 た、助かった……。

 安心したら一気に疲れがどっと来たな。


 ちょうど良さげな家も作れたことだし、今日はこのまま寝ることにしよう。

 俺は土石操作で岩の中に丁度いい部屋を作ると、そこで休眠を取るのだった。



***



 翌日。

 夜が明けて岩の中からのそのそと出てきた俺は、昨日のウサギの魔物のところへと向かった。


 昨日の記憶を頼りに飛んでいると程なくしてウサギの魔物の死体を発見した。

 昨日の夜のうちに動物が食べたのか、かなり肉の部分は減っていたが俺はハエで身体も小さいから肉の部分はそんなに必要ない。


 マナさえ吸収することができれば問題ないのだ。

 俺はまたウサギの魔物の死体に降り立つと、マナを吸収し始めた。


 それから岩に作った家を行き来して、約一日でウサギの魔物のマナをすべて吸収し終えた。

 ウサギの魔物と戦う前よりも明らかに強くなっている手応えがある。


(そう言えば、今回は前よりもマナの吸収が早かったな……)


 ゴブリンのマナを吸収したときよりも格段に早く吸収できた。

 ウサギの魔物のマナの量がゴブリンよりも少なかったからか?


 いや、多分それは違う。

 ウサギの魔物の魔力量はゴブリンと同じくらいだった。


 もしかして、マナを吸収して俺の力が増すごとにマナを吸収する速度も早くなっているのだろうか。

 念のため、新しい特殊能力を会得していないか、ステータスを確認してみる。



ステータス

 名前:鈴木透

 種族:ハエ

 称号:なし

 特殊能力:『マナ吸収』『ステータス管理』『土石』



(今回はスキルの獲得なしか……やっぱりスキルを持ってる魔物って貴重なんだな)


 当然の如く新しい特殊能力は増えていなかった。

 まあ、あのウインドウが目の前に出てきていないんだからそれも当然か。


 先日のゴブリンから『土石』の特殊能力を取れたのは幸運だったということだろう。

 つまり、新たに特殊能力を手に入れるにはもっと多くの魔物を倒して特殊能力を手に入れなければならないのだ。


(マナを大量に吸収して、いろんなスキルを手に入れる事ができれば、昨日見た巨大グモからも逃げれるようになるはずだ)


 俺は新たな決意を胸に魔物を探しにいった。

 それから、しばらくの間魔物を探した。


 といっても、ウサギの魔物の死体のそばで姿を隠していただけだ。

 魔物はこのウサギの魔物の死臭を嗅ぎつけて集まってくるんじゃないか、と気がついたのだ。


 『土石』で天井を半円球状に覆って覗き穴を設けた部屋を作る。

 いわゆるトーチカだ。


 俺のマナの量だと近づいたら待ち伏せしていることがバレるから、この土のトーチカで遮断するのだ。

 そして待つことしばらく。


(やっぱりきた……!)


 茂みの中からオオカミが姿を表した。

 身体は普通のオオカミと同じくらいの大きさだが、角が二本生えていた。


 漏れ出ているマナの量から、明らかにウサギの魔物やゴブリンよりも強いことが分かる。

 二本角のオオカミはウサギの魔物の死体へと近づいていく。


 俺はそれを地面のトーチカの中から見守っていた。

 そしてオオカミがウサギの魔物の死体に口を近づけた瞬間。


(今だ──!)


 地面から土の槍を生やす。

 オオカミは反応する暇もなく脳天を土の槍で貫かれ、死んだ。


(よし、成功!)


 俺は心のなかでガッツポーズを取る。


 オオカミの死体に近づくと、ちゃんと仕留めることができていたようだ。

 土の槍を消すとオオカミの死体が地面に落ちる。


 よし、早速マナの吸収だ。




 オオカミのマナの吸収は半日で終わった。

 やはりマナの吸収が早くなっている。


 ゴブリンやウサギの魔物より明らかにマナの量は多かったはずなのに半日で吸収し終えた


(さて、またこのオオカミとウサギの死体を餌にして別の魔物をおびき寄せるか)


 放置していればまたさっきみたいに釣られた魔物がやってくるはずだ。

 そしたらさっきと同じように土の槍で仕留めて、マナを吸収すれば良い。


 そう考えていたとき。


(っ!!)


 アイツが来る。

 そう確信した。


 身体が凍りつくような圧力、重油みたいに濃いマナ。

 地面から伝わってくる振動。


 あの巨大グモが、こちらへとやってくる。

 やばい……っ!


 もう岩に作った隠れ家まで逃げてる暇はない。

 俺が隠れられるのは地面だけだ。


 急いで『土石』で地面に穴を開けて、地中深くへと潜り込んでいく。

 そして五メートルは潜っただろうか。どんどんと近づいてくる振動は俺がいた真上までやってきた。


 意味があるのかはわからないが、限界まで息を殺す。

 恐らく、俺の真上には今あの巨大グモが居る。


 真上から方向転換をするような振動が伝わってくる。

 そして数十秒ほど何かを探すようにクルクルと辺りを見渡した後、諦めたのかまた大きな振動を立ててどこかへと去っていった。


(あ、危なかった……なんとか今回はバレなかったみたいだな)


 俺は冷や汗を拭いながら地上へと戻って来る。

 ウサギの魔物とオオカミの死体には二つ大きな穴が空いていた。


 一つは俺が土の槍で空けた穴だが、もう一つは俺が作ったものではない。


 あの巨大グモが鋭利な爪で空けていったのだ。


 何のためにこんな穴を?

 死体を弄んでるみたいだ。


 それにしてもあいつがやってきた理由は何だ? どうして俺がいる場所を聞きつけてきたんだ?


(もしかして……ここに二つ死体があったからか? もしくは俺のマナを感じ取ってやって来たのか?)


 もしくはその二つのどちらもか。

 それは十分にあり得る。


 だけど俺のマナに引き寄せられた、という線は少々怪しい。


 遠くからでも俺のマナに引き寄せられた、というのなら今地上に上がってきた俺の下までやって来るはずだ。


 だからまだ流石に俺のマナがアイツに気取られる程に大きくなっているとは思えない。まだ魔物のマナを三体しか吸収してないし。


 だけどこれからはマナに関しても対策を立てていく必要があるな。

 そうなる取れる対策も分かってくる。


 俺自身のマナに関しては、漏れ出ているマナの制御を上手くなって漏れ出るマナを最小限にすること。


 そして魔物の死体については土石操作を使って土でドーム状に覆って、気取られないようにすれば問題ないはずだ。実際俺も土の中に隠れてマナを隠すことができているわけだし。


 当面の目標を立てた俺は岩の隠れ家へと戻っていった。



***



 次の日、岩の隠れ家で休眠を取った俺は外に出ると、ここから離れることにした。

 ここらへんはもうすでに巨大グモにマークされているかもしれない。


 これ以上ここで狩りをするのは危険だ。

 ということで、最後にオオカミの死体を食べて空腹を満たすと、俺はここら辺一体から離れた。


 二日過ごした岩の隠れ家ともお別れた。

 結構住みやすかったんだが、こればっかりは仕方がない。


 とりあえず最後に巨大グモが進んでいった方向とは反対側を目指して飛んでいく。


 しばらく飛んでいると、ハエの嗅覚が何かを察知した。


(ん? これは……料理の匂いか?)


 ちょっと木の実の匂いや薬草臭が強かったりするが、れっきとした料理の匂いだ。

 ということは、近くに人里があるということ。


(マジか……こんなところで人間と会えるなんて……!)


 転生してから俺はずっと一人だった。

 だから遠目から見るだけでもいい。無性に人に会いたかった。


 感動しながら匂いのもとを辿って高速で飛んでいく。

 マナで強化されたハエの体により、あまり時間はかからなかった。


 そして料理の匂いのもとに近づいてくると、木々の隙間に人工物が見えてきた。


(あれが村か……!)


 もう少し近づいてみると木々がない、少し開けた場所へと出てきた。


 草を編んで作られた、小さなテントが数個点在していて、テントの真ん中には調理場と思われる焚き火と、何かを煮込んでいる鍋が焚き火の上に設置されていた。


 そして鍋の周りには何人かの人間が居る。


(え……?)


 その人間を見て、俺は驚いた。


(エ、エルフ……?)


 なぜならそこにいたのは、漫画やアニメでよく見るエルフだったからだ。

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