第3話 能力の検証と魔物との戦闘
ステータス
名前:鈴木透
種族:ハエ
称号:なし
特殊能力:『マナ吸収』『ステータス管理』『
(『
俺はステータスの欄に増えていた特殊能力の名前を心のなかで呟く。
新たに特殊能力が増えていたことに俺は混乱していた。
なんで勝手に特殊能力が増えたんだ?
いや、原因は一つしか無い。
俺がゴブリンのマナを吸収したことだ。
マナを吸収したことで身体が進化して特殊能力を覚えたのだろうか?
でも、それなら何で『土石』の特殊能力なんだ? そもそもどういう基準で覚える特殊能力が決まってるんだ?
うーん、と唸ってみても分からない。
だけど『土石』の能力については名前から大体分かる。
土や石を操ることができる特殊能力なんだろう。
土で槍を作って攻撃したり、逆に盾を作って守ったりする事ができる。
そう言えば、ゴブリンの死体を発見する前に、なんか同じようなものを見た。
そこで俺はハッと気がついた。
(もしかして、これはゴブリンの持っていた特殊能力なんじゃないのか……!?)
さっき俺が見た土の槍は、ゴブリンの激しい抵抗の証なんじゃあないだろうか。
ゴブリンは強い『何か』と戦っていて、それに対抗するためにあの土の槍を何本も作った。
しかしそれでもその『何か』に負けてしまい、殺された。
そして、その特殊能力を持ったゴブリンのマナを吸収したから、俺が『土石』を覚えたんじゃないだろうか。
(もしかして、『マナ吸収』には吸収した相手の特殊能力も一緒に習得できる能力があるのか?)
いや、きっとそうだ。
マナ吸収には、「特殊能力を吸収する」という能力もあるんだ。
それはそうと、まずは手に入れた特殊能力を試してみたいな。
試しに『土石』の特殊能力を使ってみる。
すると身体の中からごっそりとマナが減るような感覚があり……それと同時にボコッ、と目の前の土が円錐状に盛り上がった。
おぉ……! これが『土石』の特殊能力か!
でもこの円錐……もとい土の槍を一つ作るだけで、かなりのマナを持っていかれた。
それにハエの身体からこの土の槍も大きく見えるが、人間基準で見ればそれほど大きいわけじゃない。
作れるのもあと四、五回と言ったところだろう。
ゴブリンのマナだとそれが限界なんだな。
土の槍を増やしたり大技を使うためには、もっとマナを増やしたりする必要がありそうだ。
まあ、ゴブリンを襲った『何か』には全く通用しなかったみたいだが。
(だけど、これでひとまずは自衛できる手段を手に入れたぞ)
今までの俺はカエルにすら食べられてしまうようなただのハエだった。
だけど今は反撃もできるハエだ。
せっかく手に入れた能力なので、もう少し使ってみたいと思った。
ちょうどその時大きな岩を見つけた。
(ふむ、そう言えば土『石』なんだよな……?)
とあることを思いついた俺は試しに岩に近づいて、穴を空けてみる。
するとスイスイと面白いように岩に小さな穴が空いた。
やっぱり俺の予想通りだ。
『土石』の能力は地面や岩に穴を掘ったりすることも可能らしい。
もっと『土石』の能力を確認したくなってきた俺は、土に対して柔らかくなるように『土石』を使う。
するとさっき見たのと同じように、地面が泥の沼が作られた。
これは罠や敵の足止めをするのに使えるだろう。
そして最後に、無から土や石を作れるのか試してみた。
(ふんっ……)
マナを使うと目の前から土がパラパラ……と生まれて落ちていく。
石も同じく作ることができた。
結果は成功。しかし無から作り出すよりは今あるものを使うほうがマナの効率は遥かにいい。
土も石も岩もそこら辺に沢山あるので利用するのには困らないだろう。
さて、特殊能力の検証は大体終わった。
次はもっと特殊能力が使えるようにマナを増やしていくだけだ。
この調子でいろんな特殊能力を手に入れることができれば、貧弱なハエであっても生存する確率が格段に上がっていくはず。
そう考えたらさっきまでは嫌だった死肉漁りも、特殊能力を習得したりマナを増やしたりするためなら嫌じゃなくなってきた。
そこら辺に転がってる動物とか魔物の死体を探すか。
また飛び立ったとき。
ガサガサ……ゴソッ。
目の前の草むらから動物が飛び出してきた。
出てきたのは一本角が生えているウサギ。
ウサギの魔物だ。
そのウサギの魔物は凶暴な表情でこっちを見ながら唸り声を上げている。
(え、俺?)
俺は思わず首を傾げた。
普通に考えてただのハエの俺に、ウサギの魔物が威嚇してくる意味がわからなかったからだ。
ウサギの魔物からすればハエの俺なんて、それこそ気にかけるほどの価値もない存在なはずなんだが。
もしかして威嚇しているのは俺じゃないのか? と周囲を見渡してみる。
しかし周囲に動物はいないし、ウサギの魔物は完全に俺を見て威嚇している。
やっぱり俺……なのか?
「ギュイッ!!」
そのときウサギの魔物が俺の方へと一本角で突進してきた。
(危っ……!?)
持ち前のハエの反射神経で俺はそれを避ける。
そこで俺はあることに気がついた。
なんか、さっきよりも飛ぶのが早くなってないか?
飛行スピードが明らかに先程よりも早くなっている。
一瞬ちゃんと食べ物を食べたからかと思ったが、そうじゃない。
身体能力が向上しているのだ。
(もしや……ゴブリンのマナを吸収したから?)
マナを吸収したことで力が上がっているんだ。
「ギュイッ!」
ウサギの魔物が方向転換して、また俺の方へと突進を釜してくる。
今度はそれを余裕を持って躱した。
間違いない。
俺は明らかにウサギの魔物に狙われている。
どうしてかは気になるが……今はそれを考えるときじゃない。
俺は別に敵対する意思はなかったが……あちらがそういうつもりなら、俺も戦わないといけない。
そこで俺は……覚悟を決めた。
このウサギの魔物を──殺す。
「ギュウゥゥゥッ!!」
突進を二度躱されたウサギの魔物が俺に対して威嚇する。
そして角をこちらへと向けて──突進してきた。
ウサギの魔物が眼前へと迫る。
(今だ──ッ!!)
その瞬間、『土石』の能力を発動した。
「ギュイッ!?」
自分の真下から生えてくる土の槍に驚くウサギだが……もう遅い。
全速力で突っ込んできた身体は慣性の法則により、すぐには方向転換ができない。
地面から伸びてきた土の槍が一直線に突っ込んできたウサギの魔物を串刺しにする。
一撃でウサギは絶命した。
これに関してはただのまぐれだったが、運良く土の槍はウサギの魔物の心臓を突き刺していたらしい。
土の槍解除すると地面にウサギの魔物がドサッ、と落ちてくる。
その死体を見つめながら俺は心のなかで呟いた。
(なんで俺はコイツに狙われたんだ? ただのハエなんて普通に考えて気にするような存在じゃないだろ。ゴブリンとかならまだしも……ってまさか、そういうことか?)
俺がウサギの魔物に狙われた理由。
それはゴブリンのマナを吸収したからかもしれない。
俺の力が上がるのと同時に、オーラのようなものまで増えていると考えたら辻褄が合う。
つまり今の俺は、ゴブリンと同等レベルの存在感があるハエだということだ。
(まさか……! 生きるためにゴブリンを食べたのに、そのせいでこれからコイツみたいなのに狙われるってことか?)
迂闊にゴブリンを食べてしまったことを俺は一瞬後悔したが、すぐに気を取り直す。
吸収してしまったものは仕方がない。
ウジウジ悩むより、先に進んだほうが良い。
他の魔物から狙われるかもしれれないなら、もっとマナを吸収して……強くなるしかない。
最低限、どんな魔物からも逃げれるようにはなっておかないと。
となると、今俺がやるべきなのは目の前のウサギの魔物を食べて、マナを吸収することだ。
(どんどんマナを吸収して……強くなるしか無い)
俺は地面に落ちているウサギの魔物の死体の傷口の近くに降り立つ。
(いただきます)
そして手を合わせると少しずつウサギの魔物のマナを吸収していった。
それからしばらくマナを吸収していたところで問題が起こった。
マナを吸収したことでマナを感知できるようになった俺の感覚が、背筋が凍るような怖気を訴えてきた。
何かが、来る。
ウサギの魔物やゴブリンなんか比較にもならないような、圧倒的なマナの塊が、こっちへと向かってきている。
(まずいまずいまずい──!)
俺は全速力で逃げ始めた。
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