第2話 『土石』の特殊能力


 ステータスを開くと、俺が持ってる特殊能力を見ることができた。

 そこに書かれていたのは『マナ吸収』と『ステータス管理』。


(まず、『ステータス管理』についてはなんとなくわかる。つまりはこれがあるからステータスが見れるわけだ)


 ちなみにステータスの画面は人間サイズじゃなくて、ちゃんとハエサイズになっている。


 多分自動で調整してくれる機能があるっぽい。

 人間サイズだと絶対にデカすぎて管理するのが大変だったはずなので、自動調整機能に感謝だ。


 そして種族はやっぱりハエ。

 なんとも矮小な存在に俺は転生してしまったようだ。


 だが名前は鈴木透のままだ。

 ちなみに、ステータスの画面は念じることで消したり開いたりができた。


 俺はもう一度ステータスを開いて考える。


(『ステータス管理』ついてはなんとなく分かるが……『マナ吸収』ってのはなんなんだ? そもそもどういう能力なんだ、これ?)


 特殊能力の名前から察するにマナってものがあるのだろうが……となると、ここはもしかして俺が元いた世界とは違うのか?


 マナなんて非現実的だとは思うが、そもそも俺はハエに転生してしまっているのだ。

 非現実的なことなんて今更だろう。


(とりあえず『マナ吸収』については現状は置いとくとして……生き残るためには食べ物と寝るところを探さないとな)


 と、食べ物のことを考えていたらハエの身体に変化が現れた。


(なんだから腹が減ってきたな……)


 空腹を感じるようになってきたのだ。

 食事は生き残るうえで欠かせないものだ。


 今のうちに見つけておいたほうがいいだろう。

 まずは喉も乾いてきていたのでとりあえずさっき落ちてきた水滴を飲んでおく。


 うまいかどうかは……分からない。

 だが喉は潤った。


 さて、次は食べ物だが……そもそも、ハエって何を食べてるんだ?

 生ゴミとか、動物の死体に群がっているのは知っているが……。


 いやいやいやいや。

 流石に死肉は食べたくないぞ。


 なにか他の食べ物は無いのか? と考えてみるが……まったく思いつかない。


 まさか、動物の死体を食べるしか無いのか?

 いや……いやいやいや。流石にそれは元人間としてどうなんだ。いくら腹が減っとるとはいえ死体を食べるのは人間としての最後の砦を失ってしまうような気がする。


 人間としての矜持を守れるような食事を探そう。

 俺はそう決意してプゥーン、と音を立てて飛び立った。



***



 結果として、それからいくら探しても食べ物は見つからなかった。

 そこら辺に落ちてる木の実でも食べてみようかと持ったが、固くて無理だった。


 人間のときと同じようには噛み砕けないことにあとから気がついたのだ。

 きのこ類は見たこともないやつばかりで、大抵が食べる前から身体が「食べるな!」と信号を発していたので無理だった。


 というか、森の中を飛び回っていたせいで腹が更に減って、力が出なくなってきた。

 とりあえず一旦休憩しよう……。


 手頃な草の上に降りて、そこで休もうとする。

 ハエくらい軽い身体なら草の上で休める、というのもハエの身体になった利点だ。


 まあ、だからといってハエに転生してよかった、とは一ミリも思わないが。

 草の上で休憩していると。


(ん? なんだ? 目の前の草がガサゴソ揺れて……)


 ぴょん、と目の前にやってきたのは──巨大な緑色カエル。

 で、でかい……。


 人間だったときは自分より遥かに小さい存在だったのに、ハエになった俺にはまるで山のように大きく見える。

 ギョロ、とカエルが草の上に止まっている俺を見る。


 なんだ? どうして俺をじっと見ているんだ……?

 カエルはしばらくじっと見つめていた後、おもむろに口を開けた。


 その大口から出ていたピンク色の何かが、高速で俺へ──ッ!?


 シュンッ……ベトッ!!


(危っ……!? 食べられるとこだったぞ……!!)


 俺が今まで留まっていた草にべっとりと張り付いているカエルの舌を見て、俺は戦慄した。

 まだ人間気分で、すっかり失念していた。


 そうだ、人間の頃の俺とは違って……ハエである俺は、いろんな生物から狙われる被捕食者なのだ。


 そう考えると背筋に悪寒が走った。


 カエルに食べられそうになるのをなんとか回避した俺は、なんとか逃げ出す。

 というか、さっきの良く避けれたな俺……。


 そう言えば、ハエの反射神経は人間の4倍くらいある、って動画サイトの縦型動画をスクロールしていたときに見たっけ。

 自分でも無駄な時間だと思っていたのに、あそこで見た知識が今になって役立つとは。


 それにしても、今のは本当に危なかった。

 腹が減っているせいで動きもいつもより遅かったし、もう少し力がなかったらカエルに食べられていたかもしれない。


(…………今のも間一髪だったし、もし動けなくなったらアイツみたいのにすぐに食べれるよな、俺)


 いつかは死ぬのだろうが、食べられるのだけは絶対に嫌だ。

 でも死肉を食べるのは……。


(ん? なんだこれ)


 そこで俺は前方にとあるものを発見した。

 地面から土が円錐状に何本か盛り上がっていたのだ。


 しかしその円錐はなにかにぶつけられたのか、真ん中から折れていた。

 それに、周囲にいくつか泥の水たまりみたいなものがある。


 誰かが土遊びでもしていたのか? いや、こんな森の中でそれはないか……。

 考えても答えは出ない。


 よし、これは一旦置いとこう。

 土は気にしないことにして、俺はまた飛び始めた。


 しばらく行くあてもなく飛んでいると……とあるものに遭遇した。


(こ、これは……!)


 草むらの中に倒れていたのは、人型の動物。


 緑入りの肌に、子どものような体躯。

 そして醜い容姿。


 ──ゴブリンだ。


(ゴブリン……! ここは異世界だったのか……!)


 ゴブリン。

 漫画やアニメで良く出てくる魔物、一番オーソドックスな魔物と言っても過言ではないだろう。


 元の世界にはこんなのはいなかった。

 うすうす分かってはいたが、異世界なんだ、ここは。


 俺はゴブリンの死体を見下ろす。

 死んでから時間が経っているのか、動物に食べられた跡があり、ブンブンと周囲を俺のお仲間が飛んでいる。


 死因は恐らく腹に大きく空いた穴だ。

 多分、大きな動物か何かに襲われたのだろう。


 その時、また強烈な飢餓感が俺を襲った。

 身体が「これを食え」と訴えかけて来ているのだ。


(うっ……これを喰うのか? けど、食べないと動けなくなってまたさっきみたいに……)


 そこで俺は先ほど食べられかけたことを思い出す。

 空腹で動く力がなくなれば、ゆくゆくはアイツラみたいなのに食べられた終わりだ。


 せっかく転生して『次』を得ることができたのに、食べられて終わりは嫌すぎる。


(背に腹は変えられないか……!)


 覚悟を決めた俺は、ゴブリンの死体へと近づいていく。

 そして腐った肉を口へと運んだ。


 その瞬間──肉と同時に何かが俺の身体に流れ込んでくるような感覚があった。


 なんだ、今のは?


 食事の感覚とは違う、明らかに別の力が俺の中へと流れ込んだ感覚があった。

 こんなの、前世の人間だったときにも味わったことはない。


(もしかして……これが、マナか?)


 普通ならあり得ないが……それなら辻褄は合う。

 マナを吸収したら何か効果があるのかはわからないが……とりあえず、全部食べよう。


(マナを吸収していったら、いつか身体に変化が起こったりするかもしれないしな)


 それから俺は、ゴブリンの死体の辺りで活動し始めた。

 これ以外の食事をいつ見つけられるかは分からない。


 たまに動物がやってきたので隠れたり、食べられそうになったりしながら、ゴブリンをできる限り食い続けた。

 そして3日後、俺はそこら辺の野生動物たちと一緒に完全にゴブリンの身体を食い尽くした。

 マナもすべて吸収し尽くした。


 その結果。


(よーし、たくさん食ったな……。さてと、ステータス確認、と……)


 マナを取り込んだことでなにかが変わるとは半分くらい信じていなかったが、俺は一応ステータスを確認した。


 すると……。


(ん? なんか特殊能力が増えてるぞ……?)


 スキルの欄。

 そこに、新しいステータスが増えていたのだ。




ステータス

 名前:鈴木透

 種族:ハエ

 称号:なし

 特殊能力:『マナ吸収』『ステータス管理』『土石』

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