第九話 サーバー【コー・ラシー】
「今、なんと言った――!?」
ゴウザエモンがヨロヨロと立ち上がる。
回復魔法を使うかと思いきや、どうやら自動回復のスキルを習得しているようだ。
怪我を負った足も治っているらしく、人間離れした肉体はある意味魔物以上に恐ろしいもんだ。
だが、それよりも恐ろしいのは今のミキナだ。
>プログラムランチャーによる緊急起動オン
>禁忌領域解除
>アポカリプスアームズリクエスト
>アームズコード:オード
ミキナが意味ありげな言葉を機械的に並べていく。
「こ、この寒気はなんじゃ……」
「とっておきの武器を呼び出すんだってさ」
俺も単語の意味は分からないが、いずれにせよこれからとんでもないことが起こるのは理解している。
「何を、しているんだ――!?」
ゴウザエモンは叫びを上げていると、ミキナの声とはまた違った声が来る。
<この度はリクエストありがとうございます
<ご使用前に、以下の条件に当てはまらないかご確認ください
「アテラよ。何を言っておるのじゃ?」
「えっと、あまりにも凶悪なので、使用前の警告かな」
「警告、とな。お節介なものじゃの」
確かに余計なお世話かもしれない。
だが、俺からすればこういった処置を取らざるを得ないのだろう。
世の中には、説明書など読みもせずに機械の電源スイッチを入れる輩は山のようにいる。
そして、いざ事故を起こすと、自分の愚行を棚に上げて抗議の電話を入れるのだから。
「させるかっ!」
ゴウザエモンは息を荒げてミキナへと襲いかかる。
豪腕による拳の一撃は見るからに重く、まさに一撃必殺といったところか。
だが――。
「ぬっ――!?」
ミキナに拳が直撃する寸前、ゴウザエモンは拳を引っ込める。
本能的に危機を察知したのだろうか。
奴は背筋を伝う悪寒に耐えているようで、眉をしかめたその顔からは不自然なほどの量の冷や汗が流れ出ていた。
<
<過去に
「ひぇ……」
何だかよく分からないが、精神を攻撃する類いの武器を呼び出すようだ。
「のう、アテラよ。ミキナの周囲からこの世のものとは思えぬ悪意を感じるのじゃが」
「悪意?」
「そう、膨大な悪意が渦巻いておる――。よもや、こんな事象に出会えるとはの」
セリーニはくつくつと笑っている。
どこか不思議な笑みだった。
何と例えればいいのだろうか。想定外のトラブルと出会ってしまったということに感謝しているかのように見えてしまう。
>リクエストを続行
<了解
<代替元素:誤差40.88%
<本来のルイパが発揮出来ません
<それでもよろしいですか?
「るいぱ、とな? 妙な言葉ばかりで頭が痛いのう」
「あ、ああ……」
ルイパという単語の意味について、ミキナにも尋ねてみたが彼女は教えてくれなかった。
>続行する
<了解。転送中――
<*エラー*
<通信に乱れが生じております
<転送先座標の再計算及び回線の再設定してください
>回線を
<了解。再転送中――
「止めぬかっ――!」
ゴウザエモンはどうにかミキナの動きを止めようとするも、彼女の周辺の空間が不自然に歪んでいる。
俺の知ることも出来ない別の次元から呼び寄せているのだろうか。
陽炎のごとく揺らめく世界を見ていると、誰もがこう思うだろう。
迂闊に手を出していいものか――。
苦虫を噛み潰したような奴の顔を見ていると、気の毒だなと同情してしまいそうだ。
<転送完了
>システムオールグリーン
>今こそ、この地この場この時において
>我が手に来たれり
>
――耳鳴りがする。
まるでこの世の終わりの訪れを暗示しているかのようだ。
「何を呼び出すというのじゃ?」
「アポカリプスアームズ――これからミキナは
「何ともまあ物騒な代物を呼び出すのじゃな……」
セリーニはそう口に出しているものの、期待しているのか尻尾をぶんぶんと振っている。
ミキナが呼び出した『皆狂いの歌唱者』とは一体どんな武器なのか。
やがて、ミキナの手元に音も無く何かが出現したのが見える。
もしかすると、俺の身にも危険が及ぶかもしれない。
だが、そんなことが気にならなくなるほど、俺は興奮していた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます