第七話 手加減

 ミキナは感情の起伏が少なく、普段はぼんやりとしていることが多い。

 まあ、喋る時はそれこそ機関銃のような勢いで喋り出すのだが。

 一見気弱な性格にも見えるが、そんなことは決してない。

 能ある鷹は爪を隠すというが、彼女の場合は自分を抑え込んでいるようにしか見えない。


「なにっ!?」


 ゴウザエモンは驚きの声を上げる。

 彼の渾身の一撃は確かにミキナを捉えていた。

 だが、空をも裂く大剣の一閃だったのだが、ミキナは――。


「どうしたの?」


 何と片手で大剣を受け止めていた。

 圧倒的な体格差だというのに、ミキナは平然としている。

 まるで、子どもの遊びに付き合ってあげているかのようだ。


「なっ!? どうなって――」

「えい」


 ミキナが剣を掴んでいた自身の右手をねじる。

 すると、何の抵抗もなく剣の刀身が――曲がった。

 金属製の刀身が飴細工のようにぐにゃり、と。

 ゴウザエモンの声なき悲鳴が聞こえたような気がした。


「てい」


 そして、ミキナは反撃としてローキックを放つ。

 怒って蹴り返したというような印象だが、その動きには一切の容赦が無かった。


「がはっ――!?」


 敵の足を刈り取るような、凄まじい蹴りだ。

 ゴウザエモンの鎧の脛当すねあてを蹴り砕き、奴は苦悶の声を上げて体勢を崩した。


「見事じゃの。追撃で奴の脛にもう一発お見舞いしてやれば完璧かの」


 セリーニが拍手と共にそんなアドバイスを言う。

 これ以上、ミキナに妙なことを吹き込まないでくれと思わず言い返しそうになってしまう。


「お、おのれ……」

「えっと、降参してくれる?」


 苦痛の声を上げるゴウザエモンに対し、ミキナが語りかける。

 口調は優しいものの、先程折り曲げた大剣を放り捨てている動作を見ていると、これ以上の『おいた』を許すつもりはないようだ。


「悪いが、降参した方がいい。いや、本当に」

「ど、どうしてだ?」

「ミキナは、これでも手加減をしてくれているんだ」


 俺の一言に対し、ゴウザエモンは突如笑い出す。

 くぐもった声は、自虐的な笑みにも聞こえてしまう。

 刑事ドラマで犯人が追い詰められたシーンを思い出してしまう。

 ここが崖っぷちならば、今すぐにでも崖下へダイブしそうな心情なのだろうか。

 ややあって、奴の笑い声が止まった。

 そして――。


「面白い――」

「へ?」


 ゴウザエモンはすくとその場から立ち上がると、こんなことを言い出した。


「こんな強敵がいるとは――。ならば、俺も本気でお相手しよう!」


 あ、そういう展開か。

 やれやれと思っていると、ゴウザエモンの身体が徐々に――膨れ上がっていった。

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