第三話 乱入者
セリーニとミキナを宥めながらも先へと進んでいった先には外へと続く門があった。
神殿の門だけあって、その造りは重々しく荘厳だ。
セリーニを模した彫刻が施されているのもポイントが高く、時代が時代ならば写真を撮ってSNSにアップされまくっているだろう。
「うむ、正規の手順で封印が解かれておるようだの。流石、余の施した封印魔法じゃ」
「正規の手順って、強引に破壊したんだよ?」
ミキナがこてんと首を傾げている。
彼女の力が無ければ、神殿の門を開けるのは不可能だった。
最初は封印を解く手段がどこかにあるはずだと色々調べてみたものの、手がかりの糸口すら掴めなかった。
――仕方ない、後世の誰かさんならばきっと開け方を見つけてくれるだろう。
……というような時間は俺達にはなかった。
そんなわけで仕方なく強行突破せざるを得なかったのだが、それが正攻法とは……。
「この門を壊せぬ程度では、余と相対する資格はないということじゃ」
「な、なんじゃそりゃあ……」
眠り姫とご対面するには呪いを解かなければならない。
まあ、王子様役がイケメンであれば、呪いなんざ顔パスで通れるだろうが、生憎俺のルックスは平凡なもんだ。
軽い頭痛を覚えていると、ミキナが喋り始めた。
「セリーニはどうして、自分を封印してたの?」
「退屈だったのじゃ」
「退屈?」
「左様。余が黎焔帝としてヴァーミガルドの魔物達の頂点に君臨した時、敵はどこにもおらんかった」
ふと、俺の背中から重みが消える。
セリーニが俺の背中から降りたらしい。
ゆっくりと二本足でその場から立ち上がると、セリーニが声を掛けてくる。
「見事な歩みであった。褒めて遣わそう」
「ど、どうも……」
それほど酷い目に遭わされても、強要された訳でもない。
彼女に恐怖を覚えているわけでは無いのだが、本人を前にするとその圧倒的なカリスマにどうにも辟易してしまう。
「話を戻すかの。余よりも強い存在がおらんかった上に、誰も余に戦いを挑んでも来なかったのじゃ」
セリーニは淡々と話す。
そんな彼女は尻尾の先で、俺のヘルメットをクルクルと回している。
見た目は少女なのだが、その過去を懐かしむ様子を見ていると長い年月を生きてきたのだろうか。
「それで、強い人を待っていたんだね」
「よもや、助力を求められるとは思わなんだ。まあ、それもよしとするかの」
上機嫌に笑っているセリーニを見ると、不思議と彼女の気持ちが理解できてしまう。
昔、遊んだゲームの一つを思い出す。
よくあるロールプレイングゲームだった。
やり込みにやり込んで、レベルをマックスにしただけでなく、最強の装備に最強のステータスにし、裏ボスをも楽に勝てるぐらいまでに強くした。
そこに達成感はあったかと聞かれると――正直無かった。
昔のゲームだったため新規ボス追加のアップデートがされる訳もなく、虚しい時間を過ごしてしまったという後悔がしばらくの間残り続けた。
どんなに強力な力があろうとも、その力を振るう場所と機会が無ければ、持て余すだけだ。
「期待してて。強い敵が一杯いるから」
「それは楽しみじゃの」
セリーニは上機嫌に笑い出す。
俺としては強敵が出てくるだけでうんざりしてくるのだが。
いずれにせよ、頼もしい味方が出来たものだ。
そして、踊るような足取りのセリーニを追いかけるように、神殿の外へと出た瞬間だった。
「あ……」
神殿の門前は庭が広がっていた。
昔は管理されていたのか、植え込みや花壇、それに木製ベンチらしきものの名残が見える。
セリーニを
庭の中央には彼女を象った銅像が置かれている。
綺麗なのは勿論なのだが、バストサイズを盛りに盛っているのは――まあ置いておくとしよう。
しかし、長い年月の経過で後世に管理が引き継がれなかったのか、草木は荒れ放題で心が休まる場所でも無かった。
どちらかというと不気味な雰囲気を醸し出しており、生半可な気持ちで来た者を追い返す効果があったのかもしれないが、今気にするのはそんなことではない。
何故なら、目の前には望んでもいない大軍が待ち構えていたからだ。
「エオニア
大きな声で叫んだのは
兜に金色の羽根飾りが飾られており、あれは確か隊長の証だったか。
背丈よりも大きな剣を手にしており、取り巻きの兵士達を巻き込みそうで見ていて不安になってくる。
「エオニア神聖救世帝国、とな? それが、ぬし達の敵かの?」
「うん。転生神エオニアが立ち上げた帝国」
「転生神エオニア――。聞いたことのない名前じゃの」
「まあ、自称転生神だからな……」
巨大な帝国に立ち向かうという構図は格好いいのだが、実際にやってみるとかなり無謀なものだ。
その証拠と言わんばかりに、人員が豊富であるようで目の前に居るのもかなりの大軍だ。
どいつもこいつも、お揃いの銀色の兜と鎧を身につけており、胸には蛇と一輪の花に盾の飾られた紋章が刻まれている。
それが忌々しいエオニア神聖救世帝国の紋章であり、後方にいる旗持ちがデカデカと紋章の描かれた旗を掲げていた。
俺とミキナがセリーニの封印を解くためこの神殿へ向かった時に、帝国は
神殿内でそいつらを追い返したら、まさか
今の今まで帝国の主戦力を打ち負かして来たせいか、相当恨みは買っているのは分かっているがここまで嫌われているとは思ってもいなかった。
「自称とな。しかし、デウス・エクス・マキナのご令嬢が苦戦する相手となると、侮れない存在という訳じゃの」
「う、うん……」
セリーニは鋭い視線をミキナと俺へと向けてくる。
流石に黎焔帝様だけあって、並外れた洞察力をお持ちのようだ。
「ほれ」
その一言と共に、セリーニは俺に何かを放ってくる。
とっさにキャッチすると、それは俺のヘルメットだった。
「まずはぬし達の実力を見せてくれんかの? 何度も言うが、余は疑り深くての。流石に雑兵相手に苦戦はせんであろう?」
セリーニはクスクスと笑っている。
どうやら、俺とミキナの戦いを見たいようだ。
「しかし、それを被ると視界が悪くならんかの?」
「いや、大丈夫だ」
言われながらも、ヘルメットを眺めてみる。
まあ、そんなことをしたら、露出した顔面へ向かって矢や魔法を撃ち込まれるが。
しかし、このパワードスーツはデウス・エクス・マキナの娘お手製の装備だ。
視界の弱点は克服してある。
「やれやれ、ミキナ。頑張るか」
「うん」
ミキナのにこやかな笑みを見ると、どこか安心してしまう。
そう思いながらも、俺はヘルメットを頭から被って戦闘体勢に入った――。
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