第16話 次の手がかり

 真っ黒、真っ赤が広がるバレンシアの奴らを、町の警察たちが片付けている。


「真っ当に仕事してるだけだ。壊れた機械や車を修理してる」

「そちらのお嬢さんも?」

「そうよ、店長に弟子入りしてる。疑ってるなら私のおじいちゃんに聞いてみてよ。『公認整備オートリパー』よ」


 警察官は鍔を掴み、ダニエラ・ブルエッタの揺るがない前のめりな姿勢に、怯んでいた。


「ギャングのせいで商売がろくにできない。あんたら、理不尽な検挙よりギャングをもっと取り締まってくれよ。こっちは被害者なんだ」


 ホットドッグを食らいながら、被害者を強調するビッグ・J。

 確かに、ビッグ・Jとダニエラは被害者だろう。


「公平な判断をしているのです。とにかく、この、焼け焦げたギャングのこと、知らないんですね」

「ちっとも知らない」

「知らない」


 警察は特に調べることなく、撮影して証拠品と遺体を片付けたら、さっさと切り上げて行ってしまう。

 遺体を布袋で包んで、どんどんバンに詰め込む様。この世界で、この国の町でギャングの扱いがどういうものか、見せつけられてしまった。

 バスの後部座席で隠れていたわけだが、警察は全く気にも留めず、ビッグ・Jとダニエラに軽く話を聞いて終わり。

 こんな奴らに、町の治安を託してるなんてな。


「はは、最高だぜこの町の警察モドキは」

「お前があんなもん使うからだろ」

「焦ったぁ……」


 マルコを起こし、さっきまで銃撃戦があった工場地区を見渡す。

 地面や工場の壁を大きく焦がし出来上がった煤の模様。

 血もあちこちに飛び散っていて、かなり、残ってる。


「つーか、あの宝石、アルは大丈夫か?」


 アルはバトラー法人事務所の理事長だ。偉い人間が持っていて何かあったら、大変な騒ぎになるだろう。


「はは」


 なんてことない、と笑うロック。


「誰も所持していない状況を作ればいいのさ」

「そんな単純なもんかよ?」

「よく考えてみろ、教会に置いてあったのに、誰にも不幸が起きなかったんだぜ? なら、装置の中で保管したって一緒さ。装置の中なら色々試すこともできるしな」

「あー……女神の加護、じゃねぇのか?」

「残念ながら覆されたのさ、呪いの果ての正解は『ただの獣になる』、アンタは見たんだろ」


 すっかり信心深さがなくなったようだ。


「さてさて、解明されるまで別件といこうか。マルコ坊や、バレンシアの勢力ってどんなもんだい?」

「その呼び方やめろよ、オッサン」

「はは、そういうとこが坊やさ。んで、マルコ少年さっきの質問だ」


 坊やが少年という呼び方に変わっただけ。

 口を下に曲げて、眉がこれでもかと歪んでる。 


「オレ、よく知らない。つるんだの最近だし」

「宝石のことは?」

「なんか、母に捧げるって言ってる奴と、大金でクスリを買うって言ってる奴が半々……」

「母に捧げる? なんじゃそりゃ」


 宗教的なギャングなんだろうか。

 ロックは傾げるだけで、俺もマルコも知らない。


「リチャード先生の家に残ってないのかぁ?」


 一体何本目のホットドッグか知らないが、まだ食ってるビッグ・Jが訊ねてきた。


「え、じいちゃんのこと知ってんの?」

「ハイスクールで歴史の授業やってた先生だろぉ、俺も受けたことあるぞー。色々な事に詳しい先生。引退して、10年前ぐらいから姿見せなくなって、行方不明」

「ほぉ、先輩獣人だったのか」

「お前はいつから獣人になった?」

「あーいつだったか忘れちまったぜ」


 とぼけやがって、絶対覚えてるだろ。


「5年前」

「へーい! ビッグ・J、なかなかの記憶力だ」

「ったく、それぐらい普通に答えやがれ」

「はは、秘密は多い方が魅力的なのさ。よし、次の目的が決まったぜ、リチャードセンセの家に行って、バレンシアの秘密を探ろうじゃないか」


 曇る表情を浮かべるマルコのことなど気にしちゃいない。

 戻ったところであの家はブルドーザーでぶっ壊されて、酷い状態だ。手がかりが見つかるなんて思えない。


「マルコ、行けそうか?」

「うっせ、平気。じいちゃんの言う通りにする」


 リチャードの言いつけを守り、俺の後をついてくる。

 縛りにならきゃいいが……——。

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