第八話 回想

こうして、保健室に集まった歴史研究部は、戌亥とアンナの担任、朱子崎響子の了承を得ることができ、(当の本人は「私の自由時間が消えてしまう」と、悪態を吐きながらも)生徒会長である姫夜麻橙花の権限で(後輩二人から渋い顔をされながらも)無理やり申請書を通して無事結成された。その結成から一週間後。本日は第一回部活動の日。これまた生徒会長権限で強引に開けた文化部部室棟南側3階の1番日当たりの良い最奥の教室に三人は集まっていた。窓際に一際大きいテーブルと椅子に橙花、その前に向かい合う様に机が並べられており、向かい合う様に戌亥とアンナが座っている。


「さて、じゃあ第一回部活動を始めようか。部長は一応私、姫夜麻橙花が務めさせてもらおう。だが、奴ら・・・悪魔については君の方が知っているだろうからそっちはまかせるよ。アンナ君」

「わかりました。・・・それじゃあ、今のところ出現している悪魔を改めましょうか」


そう言って立ち上がり、ホワイトボードをドアの前に持ってきて見やすい位置に置き、何か書き始める。橙花はテーブルからアンナが座っていた机に座り、戌亥は体を起こしホワイトボードを見つめる。アンナが書き終え、横へ移動すると書かれた内容がよく見えた。


「さて、今のところ、確認された悪魔は四体です」

「ちょい待ち、2体じゃなかったのか?」

「えぇ。少なくとも、私が確認しているのは四体よ。まず、最初に出現したのは四年前、私が13歳の時でした。そいつは私の前に現れました。当時は戦う前に逃げ出しましたが姿と名前、それと足元の紋様は覚えてます。」


ホワイトボードを見る。そこには、紋様が書かれていた。


「奴はこの紋様と共に現れました。姿は良くわかりません。と、言うのもあいつは黒い霧の中にいて紋様だけが輝いていたので。そいつは自分のことを『偉大なる王にお仕えする悪魔が一柱。ヴァサゴだ』と、言っていました。その時に私は、ジャンヌ・ダルクの記憶と【信託の乙女】を自覚しました」


そう言うとアンナは戌亥の方を向いた。続いて橙花も戌亥の方を向く。二人が何を言いたいかを理解した戌亥は話し始めた。


「その紋様と姿、名前なら間違いないと思う。そいつが言った通り、おそらくはソロモン72柱の中の一柱。序列3位の地獄の君主だな。コイツの能力としては、過去・現在・未来の出来事に関して詳しく、その内容を教えると言うのがある。だから、アンナがヴァサゴに遭って偉人の記憶を得たのは不思議なことではない。と、思う」

「一つ良いか?何故その悪魔(ヴァサゴと言ったか)はそんな事を教えたんだい?私みたいに覚醒前に奪えば良かったものを」

「ヴァサゴは慈善な性格をしているとされます。その性格が作用しているかと」


なるほどなと頷いた橙花を見て、アンナは次にホワイトボードを裏返して書き始める。そこには先程とは違う紋様と特徴が書いてあった。


「次に遭遇した悪魔は二年前。私が15の時。ここで初めて私は悪魔と戦いました。そいつの名は《アロケス》。この紋様と共に現れました。姿は立派な馬に跨っていて、燃える様な目をしていて、ライオンの頭を持つ人間、って感じだったわね。どう?戌亥君」

「うん。なら間違いないな。それもソロモン72柱の一柱。序列52位の公爵だ。その能力は眼を見た相手の死に様を見せてショックで視力をなくす、とかだったか」

「つまり、アンナ君が視力を失っていないと言うことは自分の死に様を見なかったってことか。良かった良かった」


橙花は笑いながら続きを促す。それを見て頷いたアンナはホワイトボードに続きを書く。それは戌亥は見た、即ち戌亥が最初に遭遇した悪魔の情報だった。


「三体目は先週。私が転校してきて、戌亥君と一緒に帰ってる途中で遭遇しました。人型で老若男女の顔が体中にあり、手には本を持ってました。私は一度聞いたけど、戌亥君、一応生徒会長さんに説明を」

「OK。そいつの名前は《ダンタリオン》。ソロモン72柱の一柱で、序列は71位の公爵。能力は考えを読み取り、秘密を暴くことができます」

「・・・・・・そういえば、あいつ最後、今際の際に何か言っていたのよね。何だったかしら・・・えっと、確か『k・・rd・・・omeh・・・ain・・・obrel』だったかしら。まぁ、意味わからないから気にしなくて良いと思うのだけれど」


アンナの言葉を聞いて橙花は少し考えこむ様子を見せる。二人が顔を見合わせて何かと思っていたら、顔を上げて続きを促した。若干の心残りはあるが、アンナは続けた。


「はい。そして最後。これが丁度一週間前、校庭で遭遇した悪魔です」


そう言うとホワイトボードに書いていく。


「この紋様と共に現れたそいつの名前は《カイム》。鋭い剣を持ち、鳥の姿で現れる悪魔だ。ソロモン72柱の一柱で、序列は53位。能力は、『未来を予告する』だな」


戌亥の説明を聞いて橙花は頷く。これは橙花自身が目撃した悪魔であり、己の覚醒のきっかけになった悪魔であるゆえに、記憶に新しく残っていることだろう。再び少し考えこんでいた橙花が口を開こうとした時、


     キーンコーンカーンコーン


下校を告げるチャイムが鳴った。慌てて時計を見ると、17:25分。ちなみに、最終下校時間は17:30分である。つまり残り5分。大慌てでホワイトボードを片付け、外に出て鍵を閉める。そのまま玄関を出て校門を出る。戌亥とアンナは右へ、橙花は左へ分かれた。橙花は途中で立ち止まり振り返る。二人は仲良く会話しながら歩いていた。二人の後ろ姿を見ながら呟いた。


「戌亥君は言っていなかったが・・・ダンタリオンにはもう一つ特殊な能力がある・・・もしかしたら、今際の際の言葉は・・・もしそうだとしたならアンナ君は悪魔に・・・・・・いや、よそう」


今度こそ、二人から眼を離し、家へ向かって歩き始めた。

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