第七話 結成!歴史研究部

旗で首を切り落とされ、塵となった《カイム》を見届けた後、アンナはこちらへ走ってきた。向かってくる途中で、変身が解ける。その視線の先には橙花の姿があった。橙花が光に包まれ、変身が解ける。それと同時に倒れかけるのを、アンナは抱き止めた。戌亥が空を見上げると元の晴天に戻りつつある。


「おいアンナ。周りが元に戻り始めてる。ここにいたら目立つぞ。倒れた会長も心配だし、一旦保健室行くぞ」


と、言うわけで橙花を背負った戌亥とその隣を歩くアンナは無言のまま保健室に到着した。背負われていた橙花をベッドに寝かせ、二人は話し始める。


「さて・・・と、これで2体目の悪魔を倒したわけだが・・・敵は今の所俺の知ってる悪魔・・・即ち、ソロモン72柱の悪魔達だ。コイツらは有名どころだから俺も知ってるがいずれわかんないやつが出てくるかもしれんな」

「そうね・・・今回みたいに相手の能力がわかっていても対処が難しい奴もいるしね・・・。それにしても、まさかこんなに苦労するとは思わなかったわ・・・結局生徒会長さんのおかげで倒せた様なものだし・・・。あ、そうそう。生徒会長さんの記憶を呼び起こしてくれてありがとう。おかげで助かったわ。流石ね、戌亥君」


「う・・・うぅん・・・?」


「お、気づいたみたいだな。気分はどうです?体に違和感とかはありませんか?会長」


ベッドから半身を起こし、眠たそうに目を擦る橙花を見て、話しかける。


「あ、あぁ。君達か。うん。特にこれと言って体に違和感はないよ。むしろ調子が良いくらいだ。今まで押さえつけられていたモヤモヤしたものが一気に晴れてスッとした気分だよ」

「そっか。それは良かったです。と、挨拶もほどほどまでに、説明を始めても良いですか?」


と、言うわけでアンナはこれまでの事を事細かに説明した。橙花は黙って聞いていた。


「--------と、言うわけなんです。何か質問はありますか?」


少し考え込み、口を開いた。


「そうだな。今までの経緯は理解した。2つほど質問があるからそれを聞くとしよう。まず、私はアンナ君と同じかつての偉人の生まれ変わりというやつで間違いないのだろうな?」

「えぇ。現に先程生徒会長さんは先程、校庭で楊貴妃としての特性、『傾城傾国』を発動できていましたし、何より変身ができていましたから」


「あのー・・・一つ良いっすか?会長が楊貴妃ってのはわかったんですけど『傾城傾国』ってどんな能力なんです?実は目を瞑ってて見てなかったもので・・・」


恥ずかしそうに途中で口を挟む。その疑問に答えたのはアンナではなく橙花だった。


「そうだな・・・さっき初めて変身した時に特性?の使い方が情報として頭の中に流れ込んできたんだ。だからどんな能力かは理解している。『傾城傾国』・・・と、書いて《国墜とし》と読むんだが、この能力は魅了能力の様だ。いや、魅了と言うよりかは洗脳に近いのだが。相手が私の目を見るか私が相手の目を見ることで発動することができるみたいだな。大抵の相手は魅了し、洗脳できる上に相手は魅了にかかっている事を自覚できないみたいだ」


なるほど・・・と、頷く戌亥を他所に続けてアンナは聞いた。


「それが一つ目の疑問ですね?じゃあ、2つ目の疑問は何でしょうか?」

「わかった。次の疑問だが、あの空間は何だったんだ?我々以外の人達がいなくなっていた。これはつまり、あの中には私や君みたいな生まれ変わった者達が入れるのだろう。だが、君だ。戌亥君。君は生まれ変わりではないのだろう?何故君はあの空間にいれたのだ?」


その言葉を聞いて二人は顔を見合わせる。確かに言われてみればそうだ。と、戌亥は頭を捻った。確かに自分は生まれ変わりではなく、言っちゃえば昨日アンナに巻き込まれただけなのだ。それなのに昨日はともかく、今日までも悪魔と遭遇できたのはおかしいだろう。ウンウンと唸りなんとか考えるも何もわからない。それを見ながら橙花は少し笑って話を続けた。


「その様子だと、わからないみたいだな。なら大丈夫だ。いずれわかる事もあるからな。さて、今のところ聞きたいのはこれだけだ。ところで、今君達は物凄く困っているんだろう?」


そう聞かれて二人は顔を見合わせる。確かに、二人は困っていた。何をかって?それは朝話していた部活の事だ。それを正直に話すと橙花は笑いながら答えた。


「なるほどな。そういうことなら、私がその部に入ろう。これで三人。条件の最低人数は達成だし、生徒会への申請書の問題もクリアだ。最後の問題の顧問だが・・・」

「あぁ、それなら問題ないです。うちの担任の朱子崎先生が今暇してるそうなのでお願いしようかなと。それにあの人、口が硬いことで有名ですから」


あぁ、それが心あたりかぁ、と、心の中で思いながらアンナはスッと立ち上げる。


「それじゃあ!ここに新たな部活を設立します!名前は・・・名前はー・・・ねぇ、何かない?」

「そうだね・・・いずれ、かつての偉人達が(と言っても生まりだが)集まるのなら、『歴史研究部』というのはどうだろう?」

「良いと思うっすよ。言われてみればこれ以上ない完璧な名前ですね。流石会長」

「はい!じゃあこれで、今ここに!『歴史研究部』が設立しました!」


これからもっと楽しくなりそうだ。そう思った戌亥は笑いながら、橙花と一緒に小さな拍手をした。

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