第六話 二人目の覚醒

「この人・・・生徒会長さんは私達の仲間。おそらくは『中国四大美人』の一人であり、『傾国の美女』と呼ばれた玄宗皇帝の寵妃。『楊貴妃』の生まれ変わりよ!」


そう叫んだアンナは戌亥の目をしっかり見た。そのアンナの目を見て、戌亥は頷いた。未だ状況を理解できていない橙花は困惑しながら戌亥を見上げた。


「な、なぁ。つまりどう言うことだ?生まれ変わり?楊貴妃?私にもわかる様に説明してくれ」

「あー・・・すみません会長。今は時間が押してるんで詳しい事は説明できないんですが・・・えっと・・・?」


助けを求める様にアンナを見る。言いたい事を理解したアンナは橙花を見て尋ねた。


「いきなりで申し訳ないのですけれど、生徒会長さん。貴女、物心ついた時には持ってて、常に肌身離さず持ってる物ってありますか?」

「物心ついた時には持ってて常に肌身離さず持ってる物・・・・・・あぁ、あるぞ。これだ」


そう言って指差したのは頭に付いていたライチ形の髪飾りだった。アンナはそれを確認すると、橙花の両肩に手をのせ、目を覗き込んだ。


「生徒会長さん。今から言う事を頭に思い浮かべてください。できるだけ鮮明に。お願いしますね」

「え?あぁ、わかったけど・・・とりあえず、後でちゃんと説明してもらうからな!」


「むぅ・・・よもやこの場で覚醒させるつもりの様だな!そうはさせん!」


悪魔は危機を感じたのか、先程より速い速度でこちらへ向かって駆けてきていた。目を閉じるのを確認したアンナは戌亥に顔を向けた。


「戌亥君。おそらく楊貴妃については私より貴方の方が知っていると思うわ。貴方が生徒会長さんの記憶を呼び起こして。注意点としては会長って言わない様にして。私は・・・あいつの相手をしてるから!」


そう言うと戌亥が何か言い出す前にこちらへ駆けていた悪魔へ突っ込み、再び戦い始めた。可能な限り二人から距離を離しつつ、離れすぎない様に合わせた。戌亥は橙花の方を向き、優しく語りかけた。


「えっと・・・それじゃあ・・・貴女は中国の宮殿の様な場所で、舞いを舞っています。その近くの机には大量のライチが籠に入っています。・・・これでいけるかなぁ?」

「中国の・・・宮殿・・・舞いを舞っていて・・・机の上にライチ・・・・・・何だ・・・何かが思い浮かんでくる・・・懐かしい記憶が呼び起こされてる感じ・・・」


すると、頭のライチの髪飾りが光を帯び、輝き始めた。光が橙花を包み込む。戌亥は数歩ほど後ろへ下がり、成り行きを見守った。光が消えると、そこには髪の毛を結い、数本の金の簪を刺し、チャイナドレスを纏った橙花の姿があった。戌亥は両手を握りしめ、アンナは微笑んだ。


「ヨシっ!」

「流石は戌亥君・・・」


その光景を見て悪魔は歯軋りをした。剣を強く握り強く、速く振った。その勢いに押されるもアンナは旗で受け流し突きを繰り出す。それを全て避けた悪魔は後ろへ跳んで、独り言の様に呟いた。


「おのれぇ・・・まさかこの状況で初の覚醒を決めるとは・・・侮っておったか・・・・・・だが私がやる事に変わりはない。我が王のため。貴様らの命と能力を奪うのみよ・・・!!!」


覚悟を見せた悪魔は剣を突きの様に構える。それは間違いなく、自身の持つ速度を最大限に活かす攻撃手段だ。如何に未来を先読みできようと、僅か15mの距離では、碌に回避ができない。まさに必殺の一撃なのだ。悪魔が駆けた。その切先は空気を食い破り迫ってくる。アンナは動かなかった。残り10m。まだ動かない。戌亥は恐れ、震えた。残り5m。動かない。戌亥は恐怖に当てられ、目を瞑った。残り1m。悪魔はにやけ笑い、アンナは目を閉じた。戌亥は目を閉じていた。が、一切の音がしなくなり、恐る恐る目を開けた。その目に映った光景とは。剣に体を貫かれ、血が飛び散ったアンナの姿----------ではない。悪魔の剣は地面に深く突き刺さっていた。悪魔はアンナの横にいた。一歩も動かず、微動だにせず、立ち止まっていた。驚き、呆気にとられたのも束の間、悪魔の視線の先に目を合わせた。そこには悪魔を指差し、じっと見つめる橙花の姿があった。橙花は言葉を発する。その特性、能力の名を。曰く---------------


        「傾城傾国」

        《国墜とし》


アンナは目を開け、隣で立ち尽くす悪魔にゆっくり近づき背後へ回る。旗の一閃。穂先で首を切り落とした。断末魔を上げることもなく、悪魔は塵となった。

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