第2話 第三王女と辺境地

 マモルたちを召喚した国の名はエドガルム王国。国王、ブライ·エドガルムが治めている国である。


 王太子ヤサグ·エドガルム(二十歳)、第一王女レイラ(十八歳)、第二王女ミランダ(十六歳)、そしてマモルとセイナの前にいる第三王女マイナ(十五歳)の四人の子供がいる。

 

 王国内の各領地を治める貴族として、二公爵、五侯爵、七伯爵、十子爵、十七男爵、二十五準男爵がいるそうだ。


「私は成人したのでエドガルムの辺境地であるスーラムの地を開拓、治めるようにと父から言われて向かう事になりました。その際に召喚された勇者様が同行して下さるようにするとも聞いておりました。マモル様とセイナ様は召喚された勇者様で間違いないのは私には分かりますが、何故、私に同行して下さる事に同意されたのでしょうか?」


 マイナ王女の言葉にマモルもセイナも戸惑いを隠せなかった。けれども正直にこの場にいる理由をマイナに告げる事にした。


「あの、マイナ様、」


「勇者様、私は王族ではありますが勇者様は私たち王族よりも立場が上と決まっております。ですのでどうかマイナと呼び捨てにして下さい」


 呼びかけるとそのように言われて思わず侍女の方を見ると頷いてマイナに同意している。しかしマモルは女性を呼び捨てにするのには抵抗があった。幼い頃から知っているセイナは別だが、初対面の女性を呼び捨てには出来ない。なので、


「えっとそれじゃマイナちゃん。年下だからそう呼ばせて貰うよ。僕とセイナがこの馬車に乗っているのは召喚されて直ぐに水晶に手を置かされて、表示された職業が役に立たないって言われて、王さまからマイナちゃんと共に行けと言われたからなんだ……」


 マモルが正直にそう言うとマイナの顔が驚きに満ちていた。


「まあ!! そうなんですか? 可怪しいわ、私の目にはマモル様もセイナ様もとても強いオーラを出しておられるのが見えるのですが…… マモル様もセイナ様もステータスと唱えてみて下さいませんか? あの水晶では詳細なステータスは出てまいりません。ご自身のステータスを確認するにはステータスと唱えれば出てまいりますので」


 マイナに言われてステータスと唱える二人。そして……


【名前】マモル

【年齢】十七歳

【性別】男性

【種族】人

【状態】良好

【職業】自宅警備員·守護者

位階レベル】六級

【能力】

 体力∶15,000

 気力∶38,000

 魔力∶9,000

技能スキル

 鞘式しょうしき(守護術·生存術)

 ストレージ(容量大)

 言語理解

 精神強靭

 鉄壁

 


【名前】セイナ

【年齢】十六歳

【性別】女性

【種族】人

【状態】良好

【職業】お嫁さん·攻破者

位階レベル】六級

【能力】

 体力∶28,000

 気力∶12,000

 魔力∶30,000

技能スキル

 鞘式しょうしき(攻破術·生存術)

 ストレージ(容量極大)

 言語理解

 精神強靭

 剣聖技


 二人の目の前に出てきた半透明の空中に浮かぶディスプレイのような物体には詳しいステータスが現れていた。マイナもステータスと唱える。


【名前】マイナ

【年齢】十五歳

【性別】女性

【種族】人

【状態】良好

【職業】辺境開拓者·元第三王女

位階レベル】四級

【能力】

 体力∶2,500

 気力∶8,000

 魔力∶10,500

技能スキル

 霊視

 ストレージ(容量中)

 治癒魔法

 強い精心

 剣技


 

「マモル様、セイナ様、私のステータスも開示しますので、お二人のステータスも開示していただけますか? オープンと言えば私にもお二人のステータスが見えるようになります。オープン!」


 そう言うとマイナは自分のステータスが二人に見えるようにオープンと唱えた。マモルもセイナもオープンと唱える。そして二人のステータスを見たマイナと侍女が驚愕する。


「なっ!? えっ!? お二人ともレベル六級ですよね?」

「マイナ様! この数値はどうなっているのですか? 私の目が可怪おかしいのでしょうか!?」


 マイナと侍女の言葉にマモルもセイナも困惑してしまう。


「あの、やっぱり僕たちの能力が低すぎるのかな?」


 不安にかられ思わずそう聞いたマモルに二人は突っ込んだ。


「逆ですっ!!」

「マイナ様のステータスと比べてみて下さいっ!!」


 二人に叫ばれてマイナのステータスを見ると、


「えっと…… マイナちゃんはレベルが四級って言う事は僕らよりも低いって事なんだよね?」


 マモルはレベルとは数字が大きい方が高いという認識だったのでそう聞いた。しかしマイナからは違う答えが返ってきた。


「違いますよ、マモル様。レベルは六級からはじまり、五級、四級、三級、二級、一級、特級、初段、二段、三段、四段、五段、六段、七段、八段、九段、十段、名人、達人、極人きわみびとと上がって行きます。極人の上もあると言われてますが、名人以上になった人は今までに居ないので、名人の上の達人からは伝説だとも言われてます」


 マイナからそう聞いてマモルは小学校の頃に学んでいた珠算を思い出した。この世界のレベルの表示はそうなんだと納得した。


 そうなると、マモルとセイナの能力値は高いと言えるものだと認識したのだが。ならば何故二人は追放されたのだろうか?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。マイナの侍女であるミアーナが答えを教えてくれた。

 この時に、名前の最後にナがつく子が多い(セイナ、マイナ、ミアーナ)なと密かにマモルは思っていたが。


「エドガルム王国の王侯貴族は職業至上主義でございます。なので、ステータス水晶にも名前、年齢、性別、職業しか表示されないようになっております。そして、その表示された職業によって役に立つ、立たないを決めるのです。能力の数値や技能スキルはあまり重要視しません」


 続けてマイナも教えてくれる。


「マモル様とセイナ様の数値の高さは既にレベル特級を超えております。その数値ならば辺境地にいる魔物が相手でも簡単に倒せると思います」


 そう聞いてマモルもセイナも安堵の顔をする。辺境地という話だったので、日本で読んでいたラノベならばとんでもなく強い魔物がいるのではと心配していたからだ。 


「それと、お父様が勇者様方に魔族の事を敵だとお話したようですが、私の見解は違います。むしろ魔族の方が私たちを侵略者として見ているでしょう…… エドガルム王国は領土拡大の為に魔族領を攻め落とすと五年前に決定し、自国の軍にて魔族領を一方的に攻めました。その際に他の国々には魔族たちが領土侵犯をしたと嘘の宣言を出しております。よって、各国はその嘘を信じて魔族との戦争中はエドガルム王国と戦端を開かないと契約しております。が、全ては己の欲望の為に魔族領を手に入れようとしているお父様やお兄様、お姉様の自分勝手な行動なのです。私はお父様から役立たずと言われて成人したと同時に魔族領との境スーラムの地に送られる事となりました。けれども私はお父様の言うような開拓はするつもりはありません。むしろ魔族の方たちと話合いエドガルム王国の侵攻を止める為の街づくりをしようと考えております…… なので、マモル様とセイナ様のお二人はスーラムに着く前に隣国であるカーナンに一番近い街、トックでお別れしようと考えております」


 マイナの決意を聞いてセイナがマモルを見る。マイナはこの四人の中で一番年下でありながら、周りをよく見て自分の中での最適解を実行しようと考えている。


「あの、マイナちゃん、一つ聞きたいのだけど僕たちが元の世界に戻る方法ってあるのかな?」


 マモルは一番に気になっている事を先ずはマイナに確認してみた。


「申し訳ございません、マモル様、セイナ様…… ぶだけんでおいて…… わが国には元の世界にお戻しする方法がございません…… また他の国でも無いと私は考えております。実際に他の国でもこれまでに勇者召喚を行った事がございますが、召喚された勇者様たちはこの世界で生涯を終えられております…… 可能性があるとしたなら魔族を統べる魔王様ならば或いはその方法をご存じかも知れません。それと勘違いなさらないように申しておきますと、魔族と呼ばれる人たちは魔力が私たちよりも多く、魔法のことわりを深く理解した人たちだという事です。その強大な魔法の力を恐れた人々が彼らを魔族と呼び、その当時には何の価値もないと思われていた土地へと追いやりました。その際に他にも迫害されていた種族の人たちが一緒に着いていき、魔族領が出来上がったのです。魔王様はその魔族の人たちの中でも最も魔力が多くて、最も魔法のことわりを理解された方なのです。ですので魔王様ならば或いはと私は考えております……」


 マイナの説明を聞いて理解したマモルはセイナの目を見る。セイナはマモルの意図を読んで頷く。


「うん、それじゃマイナちゃん。僕たち二人もマイナちゃんの開拓の手伝いをさせて貰えるかな? ひょっとしたら元の世界に帰れるかも知れないなら、その可能性を潰したくは無いからね」


 マモルがそう言うとマイナは


「ですが…… それではマモル様もセイナ様も他の勇者様がたと戦う事になるかも知れません…… それはよろしいのですか?」


 心配そうに二人に問いかける。


「ああ、確かにそれはあるかも知れないけど、防御に徹すれば大丈夫だと思うんだ。僕の職業は守護者らしいからね。レベルが上がれば色々な防御系のスキルが芽生えると思ってるよ。それでマイナちゃんの作る開拓村、又は街と魔族領を守ろうと思う」


 実際にマモルは自分をイジメていたリョクヤや、それを見て見ぬふりをしたクラスメートたちに何の思いも持っていない。なので、ここは正直に話をしてくれて、またマモルたちの安全を考えてくれたマイナの為に得た力を使おうと考えたのだった。


 そうして馬車の旅は順調に進み途中で立ち寄った街や村で開拓に必要だと思われる物資を購入しながら遂にスーラムの地にたどり着いた……

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