自宅警備員だった僕の最強スキルは守護に徹していた!

しょうわな人

第1話 デビュー失敗と召喚

 中鎧なかがい護衛まもるは困惑していた。


『こんな筈じゃ無かったのに……』


 今日は誰も自分を知らない高校に入学した筈だった日。


「おいおい、俺を見て何でそんなに嫌そうな顔をするんだよ、マモルよ〜」


 目の前にいるのは小中と自分をイジメていた相手、晃牙こうか力也りょくやだった……


『何で? リョクヤの学力じゃ絶対に入学出来ない筈なのに……』


「何でって顔してるなマモルよ〜。俺だって勉強すりゃこの程度の学校は余裕で受かるんだよ〜。お前の背中を追いかけてたからなぁ」


 口ではそう言うと皆には見えないようにマモルの腹を殴る。


「グッ、グエッ、グハッ、ウエェーッ! ゲボッ、ゲホッ、ゲホッ!?」


 リョクヤの顔を見て精神的にまいっていた上に腹を殴られて吐き気を覚えたマモルはクラスメートが見守る中で吐瀉してしまう。


「おいっ、大丈夫か? マモル? 『テメェ、俺の制服にゲボ吐きやがって! 明日から覚えとけよっ!!』」


 口に大きく出してはマモルを心配するような事を言いながらもマモルにしか聞こえないように明日から地獄の日々がまた始まると告げるリョクヤに、マモルは高校デビューに失敗したと悟ったのだった……


 翌日は入学したばかりの高校を休んだマモル。両親は高校入学をとても喜んでいたマモルの態度の急変に驚いていたが、何も言わずにマモルのしたいようにさせてくれた。


 そんな両親に心配をかけさせまいと、一日休んだだけで学校へと向かったマモルは、既にクラスに自分の居場所が無い事を悟った。


「マモルくん、あまり近くに寄らないでね」


 隣の席に座る女子に先ずそう言われ、男子たちからも遠巻きにされたマモルは、ニヤニヤと笑うリョクヤを見て、


『ああ、やっぱりか……』


 と諦めを感じてしまった…… 


 それでも、一年の間は歯を食いしばって学校へと通ったのだが……


 二年に進級してそのままクラス替えもなく、リョクヤと同じクラスになると知った時に、マモルの気力は尽きてしまった……


「父さん、母さん、ごめん。僕、学校に行きたくないんだ……」


 家の食卓でそう両親に話したマモルは自分が情けなくて、俯いて涙を流していた。そんなマモルを見て父のまさるはこう言った。


「良いんじゃないか? 護衛まもるが行きたくないなら行かなけりゃ良い。でも、父さん的には高校ぐらいは卒業しといて欲しいから、休学届を出しておこう。な〜に、一年ぐらい人より遅れても直ぐに取り戻せるさ、な、母さん」


「そうね、護衛まもる。ちゃんと話してくれて有難う。母さんも父さんに賛成だし、護衛まもるのしたいようにすれば良いと思うわ。でも、家でも勉強はしておきなさいね。いつかきっと役に立つから」


 母の優子ゆうこからもそう言われてマモルはこの両親の元に生まれた事を感謝した。


 さっそく翌日には両親が揃って学校に行きマモルの休学届を出してきた。私立である学校は、休学は二年間まで有効で、二年以上だと退学させられる事になる。

 マモルはそれまでに心と身体を鍛えてリョクヤのイジメなんかに負けない自分になるんだと心に誓った。


 月曜日〜土曜日の午前七時から午後十二時までは学校の教科書で勉学に励み、十三時からは家から徒歩三分にあるジムに通いトレーニングに励んだ。


 そして、日曜日は隣家のつるぎ家のお祖父さんに武術を教えて貰う。

 隣家の剣家には一つ下の女の子、聖音せいなが居て、幼い頃からマモルをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれていた。

 そんなセイナは子供の頃からお祖父さんに武術を教わっていたらしく、マモルが家に来たセイナに変わりたいんだと相談したら、お祖父さんに話をしてくれたのだ。


「ホッホッ、マモルくんや。その心意気は良し。それにジムにも行って身体を鍛えておるようじゃな…… マモルくんは性根が優しい子じゃ…… そうじゃな、ワシで良ければ守護の技をいくつか教えてやろう」


 そう言ってセイナの祖父、武術界では知らない者が居ないと言われる古流総合武術【鞘式しょうしき】の先代老師、つるぎ聖将せいしょうから、守護の技と生存術を中心に教わる事になった。教わり始めて一月後にはマモルはジム通いを止めて、その時間も教えを受けるようになった。


 そして、高校二年の冬休みも終わり、マモルの飲み込みが早かった所為で、教えようと思っていた以上の技の数々を聖将から教わった頃、あと一月ひとつきでクラスメートたちが三年に進級するという時に、その出来事は起こってしまった。


「マモル兄さん」


 高校一年になったセイナはマモルの事をお兄ちゃんではなく兄さんと呼ぶようになった。


「明後日の日曜日はお祖父ちゃんもお出かけするって言ってたから、一緒に買い物に行こう! ダメかな?」


 休学してから自宅警備員として家に居るマモルにいつもこうして話に来てくれるセイナの事を好きなマモルは、本当は買い物なんかに行けばリョクヤに出会うかも知れないと恐怖を感じていたが、好きなセイナの喜ぶ顔が見たいからと、


「うん。そうだね、セイナ。僕も久しぶりに遊びに行きたいから、行こう」


 勇気を出す事にしてそう返事をしたのだった。その直後だった。


 マモルの部屋に光が溢れて二人とも目が見えなくなり、思わずお互いに手を繋ぎあって目をギュッと瞑ると浮遊感があり……


 それが治まって恐る恐る目を開けると……


 目の前に同じように戸惑っているクラスメートたちが居たのだった……


 私服のマモルと違う高校の制服を着たセイナがその場に現れた事にクラスメートたちだけでなく、周りにいた大人も戸惑いを持っていたようだ。


「フム…… 勇者様方より数十分遅れて現れたそなた達は何者じゃな?」

 

 中でも真正面の豪華な椅子に座る口ひげをたくわえた男性からもっともな質問がマモルとセイナに向けられた。


 その質問にマモルが答えようとする前に、リョクヤが前に出て、その男性に向かって叫んだ。


「王さま! コイツは俺たちのクラスメートではあるが、心が弱くて学校に来れなかった臆病者だ! 一緒にいる女子は俺たちも知らない者だな」


 リョクヤの言葉に王とリョクヤに言われた男性は口ひげをしごきながら側にいた女性に命じた。


「フム、例え臆病者でも勇者様方の仲間であるならステータスを調べてみねばなるまい。レイラよ」


「はい、お父様」


 言われた女性は水晶を手に持ちマモルとセイナの前にやって来た。


「こちらの水晶に手を置いていただけますか。あなた方のステータスを私たちに教えて下さい」


 拒否出来るような雰囲気では無かったので仕方なく水晶に手を置くマモル。


 そして壁に現れたマモルのステータス(名前、年齢、性別、職業)の職業欄を見て、クラスメートたちから爆笑が起こった。


「ブワーッハッハッハ!! まんまじゃん!!」

「【自宅警備員】って職業だったのね! アハハハッ!!」


 男子からも女子からもそう笑われているがマモルの目の前の女性は困惑しているし、王も困惑している。


「リョクヤ殿、余にも分かるようにこの者の職業について説明をしてくれぬか?」


 王に言われてリョクヤは自宅警備員について説明をした。リョクヤの説明が続くにつれ、王とマモルの目の前にいる女性の目が馬鹿にしたようになる。


「レイラよ、ついでにその女性も見てみよ」


 王に言われてセイナの前に水晶を出すレイラ。


 セイナはマモルを見て頷いたのを確認してから水晶に手を置いた。

 その職業欄に書かれている事を見てまたクラスメートたちから爆笑が起こる。


「ドワーッハッハッハッー、マモルと一緒に現れたからまさかと思ったけど!」

「まさかの【お嫁さん】!! 既にマモルの嫁ってかー? ワーハッハッハッー」


 セイナはそう言われて顔を真っ赤にしているが、その表情は何故か少し嬉しそうに見えた。そんなセイナを見てリョクヤが王に言う。


「王さまよ〜、俺はあの女が欲しい! 俺にくれ!!」


 セイナは身長百五十五センチ、体重四十キロ、上から八十二、五十、八十というプロポーションだ。顔はアイドル顔負けの可愛さを誇る。

 そんなセイナに下心丸出しでリョクヤが頼むが、王は却下した。


「ならぬ、リョクヤ殿。役立たずは辺境地へと追放されねばならぬのだ。わが国ではそう決まっておる! でなくては魔王討伐が失敗してしまうという伝説まであるのだ。そなたら、マモルとセイナか? そなたら二人は我が娘である第三王女と共に、魔王領との境にある辺境地へと追放する! その地にて第三王女と共に邪悪なる魔族どもを駆逐して開拓を推し進めておくのだ。こちらの勇者様方が戦えるレベルとなれば直ぐに魔族領を攻められる様に準備をしておくが良い! レイラよ直ぐに準備せよ! マイナを連れて行く馬車にこの二人も乗せるのだっ! 支度金として五十金を二人に渡しておけ」


「はい、お父様」


 こうして、わけの分からぬままにマモルとセイナはこの場から追放される事となった。


 マモルは内心でホッとしていた。もしも王がリョクヤの要求をのんでいたらと思うと体が今更ながら震えてしまう。


 そんなマモルを心配そうに見ながらもセイナは小声でマモルに言った。


「大丈夫、マモル兄さんは私が守るから」


 セイナからそう言われてハッとするマモル。何のために自分は武術を学んだのかと……


「いいや、僕がセイナを護るよ」


 決意を秘めてセイナにそう言ってマモルは兵士たちの案内で馬車へと乗り込んだ。そこに居たのは


「はじめまして勇者様。私と一緒に辺境地へと出向いてくださる事に感謝いたします」


 マモルたちとそう年の変わらない女の子であった。この子が第三王女のマイナさんなんだろうとマモルとセイナは思った。

 

 二人が乗り込むと馬車は直ぐに出発した。馭者は老人で、マイナの他には侍女が一人乗っているだけであった。


「勇者様、先は長いのでこの国の事をお話いたしますね」


 そう言ってこの国の第三王女であるマイナの話が始まったのだった……

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