お茶会と決闘 2

 エリーヌ・セルリオン公爵令嬢は、わたしと同じ十八歳だ。

 八歳の時に、三つ年上の王太子オディロン殿下と婚約した。

 来年の春に結婚を控える未来の王太子妃であり……何を隠そう、セルリオン公爵は王弟殿下。

 つまり、現ルヴェシウス侯爵の妹が嫁いだ相手であり、エリーヌ様は王太子殿下ともフェヴァン様とも従兄妹の関係である。


 そんな雲の上のお方が、なぜしがない伯爵家の次女であるわたしをお茶会に招待してくれたのだろうか。

 いくつかのパーティーでエリーヌ様をお見かけしたことはあるけれど、一度も話をしたことがないし、視線も合ったことがない。

 わたしという存在がこの国にいることも、つい最近まで認識していなかったのではないかというほど接点がない。


 エリーヌ様のお茶会は招待状が届いた日から十二日後だったので、その間にフェヴァン様にも相談した。

 お断りするなんてできないけれど、せめて納得のいく理由がほしくて、エリーヌ様の従兄妹の彼なら推測が立つのではないかと思ったのだ。

 お休みのときに我が家に来てくれたフェヴァン様は、困った顔になった。


「たぶんだけど……、例の噂のせいだと思うよ。ほら、俺が男が好きだなんて余計なことを言ったやつ。エリーヌ様はまだ気にしているみたいだから。ええっと……俺の相手が、王太子殿下ではないかって」

「要するに、わたしに探りを入れようとなさっているということですか?」

「たぶんね。俺と君がデートをしているのも、たぶん俺が求婚したことも、一部では噂になっている気がするし。だから真相が知りたいんだろう。……俺や王太子殿下に訊ねても、うまく誤魔化されると思ってるんじゃないかな?」

「そんな、困ります! 探りを入れられても、わたし、なんて言っていいのかわからないですよ!」

「俺と付き合っているって、そのまま言えばいいよ。エリーヌ様が知りたいのは、俺と王太子殿下がただならぬ関係なのかそうじゃないのかの一点だけだからね」

「本当にそれでうまくいくんですか……?」

「うまくいくかどうかまでは何とも言えないけど、アドリーヌが弁解しなくてはならない問題じゃないだろう? 君は巻き込まれただけなんだから、堂々としていればいいんだよ」


 わたしたちはそんな会話をしたけれど、わたしの心は今日までちっとも休まらなかった。


「アドリーヌ様、そろそろお時間ですよ」


 鏡の前で身だしなみのチェックをしていると、アリーが声をかける。

 エリーヌ様のお茶会に出かけなければならない時間のようだ。


「ねえアリー、わたし、大丈夫かしら……」

「大丈夫ですよ! 今日のためにフェヴァン様からドレスも頂いたじゃないですか! とっても良くお似合いですよ!」


 そうなのだ。フェヴァン様が、お茶会に行くならと自分の瞳と同じ水色のドレスを贈ってくれたのである。

 彼に買ってもらった赤いフレームの眼鏡もかけて、アリーが時間をかけてお化粧もしてくれた。


 ……これ以上はぐずぐずしても仕方ない。女は度胸!


 欠席できないのならば腹をくくるしかないだろう。

 わたしは自分の頬を軽く叩いて気合を入れると、お茶会と言う名の戦場に向けて出陣した。



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