第2話 幻想の灯
ろうそくの炎が、部屋の闇に淡い光を落としている。揺れる光と影が壁に映り込み、まるで生き物のように形を変えながら踊っている。その中で、彼女は深く息を吐き、目を閉じた。
瞼の裏に広がる暗闇に、ゆっくりと記憶の断片が浮かび上がってくる。幼い頃に見た夜空、初めて恋を知った時のときめき、忘れたはずの傷ついた出来事。ひとつひとつの記憶が、揺れる炎に導かれるようにして彼女の心に蘇ってくる。
炎の前で裸になった彼女は、冷たい床の感触に身を沈め、静かにその記憶の流れに身を委ねた。彼女の心の中では、現実と過去、夢と幻想が曖昧に混ざり合い、まるで一つの物語のように流れていく。
ふと、彼女の目の前に、見知らぬ影が立ち現れた。それは、ろうそくの灯りが作り出した幻影なのか、それとも彼女の内なる欲望が具現化したものなのか、わからない。しかし、その影は、彼女に向かって手を差し伸べ、優しく微笑んでいるように見えた。
「あなたは……誰?」
彼女が囁くように問いかけると、影はそっと指で彼女の頬に触れるように、静かに近づいてくる。その触れ方は、まるで彼女の奥底に潜む孤独や渇望を知っているかのようだった。彼女はその優しい感触に引き寄せられ、無意識のうちにその影に身を委ねていた。
影は彼女を優しく抱きしめ、ゆっくりと揺れる炎のリズムに合わせて共に揺れ始めた。現実の時間も場所も忘れ、彼女はその瞬間にすべてを感じることができた。彼女の肌は火に温められ、心は次第に深い快楽と共に沈んでいく。
その中で、彼女は次第に自分自身を失っていく感覚に囚われていく。現実と幻想の境界が溶け、すべてがひとつになったその瞬間、彼女は心の奥底に隠されていた欲望と向き合う。
それは甘く、危うい快楽の世界。彼女はその中で自らの心を解放し、すべての感覚が研ぎ澄まされ、現実の枠を越えて新たな世界へと入っていく。その世界には、終わりも、制限もなく、ただ無限に続く揺れる炎と、心の奥に秘めた自分自身が待っていた。
そして彼女は気づく。揺れる火が彼女に見せたのは、彼女自身の深層に隠されていたもの。
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