揺れる火

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 誘いの炎

深夜、静寂に包まれた部屋の中。窓の外には街灯がぼんやりと光り、わずかな風に揺れている。その部屋の一角、ベッドサイドのテーブルに座り、彼女はチャッカマンを手に取った。カチッという軽い音と共に、小さな炎が瞬く。


その火は、まるで彼女を見つめ返すようにゆらゆらと揺れている。彼女はその炎を見つめながら、ふと心の奥底が温かく解けていくような感覚を覚えた。日々の喧騒に押し流され、心の中に押し込めていた感情が、この揺れる火を見つめることで、ゆっくりと解放されていくような気がした。


「なんて綺麗……」


彼女は小さくつぶやき、指でそっと火に触れようとする。しかし、熱さを感じて指を引っ込める。そのわずかな痛みさえも、今は心地よい刺激のように思えた。


ゆっくりとチャッカマンの火をろうそくの芯へと移すと、炎が大きくなり、ろうそく全体が揺れる光で包まれた。柔らかなオレンジ色の光が、部屋中に影を落とし、彼女の輪郭を優しく浮かび上がらせる。


彼女は、揺れる火のリズムに合わせて体をゆっくりと揺らし始めた。静かに、意識することなく、まるで炎が彼女を導いているかのように。そのままの姿勢で、彼女は少しずつ服を脱ぎ捨て、薄布のようにさらりと床に落とした。肌が露わになり、揺れる炎の温もりがじんわりと体に広がっていく。


「ただ、揺れる火を見ていたい……」


彼女の視線は、目の前で揺らめく炎に固定され、頭の中が白く、静かになっていく。何も考えず、ただ炎のリズムに心を預ける。炎が導くままに、彼女の心と体は未知の快楽へと向かっていく。


それは、現実とも幻想ともつかない、どこか別の世界への入り口のようだった。

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