第七話 嘘と真 ②
——で、そういう訳で、ファミレス。
私の友人達は文句を言いながらも渋々とファミレスに集まってくれた。
やはり持つべき者は友人だよね。もっと欲を言うと、文句を言わない友人——であるといいのだけれど。
「勝手気ままで飽きっぽい那月の癖に、まだ諦めてないなんてねぇ」
「む、なんか聞き捨てならないなぁ」
まだバイト中に突撃したことを根に持ってるのか、星奈は席につくなりにチクリと言葉を刺してくる。
ちなみに佐竹は、席につくなりハンバーグセットを注文した後、私の話を聞かずにドリンクバーに飲み物を注ぎに行ってしまっている。
私の真剣な相談をなんだと思っているのだろうか。
「いや、何度目だよ。お前の相談」
「ちゃんと相談に乗ってくれないから続くんだよ?」
「え、結構真面目にアドバイスしてるけど」
うん。
真面目かどうかは置いておいて、きちんとアドバイスは貰っている。
「でも結果が出てないからねぇ」
「うわ、なんてアドバイスし甲斐のない言葉」
「て事で、今日も相談よろしく」
保科はげんなりした顔で頼んだフライドポテトを口に投げ入れる。
「ふふん、私は今日はスゴイ情報、持ってるよ」
いつの間にかコーラ片手に席へと戻って来た佐竹がドヤ顔で告げる。
「星香はああ見えて……」
「ああ見えて……?」
「実は——……」
「じ、実は……?」
某クイズ番組の司会の如く、佐竹はたっぷりと勿体ぶって言葉を溜める。
思わず乗り出して、佐竹の言葉を待つ私。視界の端に映るのは、私と佐竹のそんな茶番を冷めた目で見ている保科の姿。
「水族館デートに憧れてる」
ああ見えて?
いや、水族館デートに憧れてるって一目で分かる印象ってどんな感じなの?
と一人突っ込んでみたい気持ちもあるが、それはそれとして、佐竹の情報はかなり有益だ。
褒め称えてあげたい。
「ちなみに、情報源は?」
「本人。バイト中の雑談で、そんなこと言ってた」
バイト中の雑談!
するりと当たり前のように出てくる、なんて羨ましいワード。
なんて羨ましい状況。
同じバイト先で毎日のように顔を合わせているかと思うと、佐竹が友人じゃなかったら嫉妬に狂ってた程だ。
「水族館ねぇ……。なんかあったか?近くに」
「遠出すればいいよ。その方がデートらしいし」
「それだ!佐竹ナイス!」
うむうむ。
確かに近場よりも少し足のを伸ばした方が、それっぽいよね。
「となると、鎌倉辺りか?ここからなら電車で一時間くらいだし、丁度いいんじゃないか?」
「うーん、鎌倉なら他にもいい感じの場所あるよねぇ」
早速スマホで辺りを検索してみる。
流石日本でも有数の観光地。出るわ出るわで、結局調べきれない。
「やっぱしらす丼でしょ」
というのは佐竹の案。
「鎌倉パスタっていうのは食ってみたいよな」
これは保科の言葉。
というか、二人とも食べ物ばかりだな。
そんな感じでたっぷり二時間もの間作戦を練った私達だったが、そろそろファミレスも深夜料金に変わり始めるのでそろそろ帰るか、となんとなく思った矢先、ふと保科が思い出したように言う。
「で、どうやって誘うの?」
「どう、やって……?」
しまった!
全くもってそんなこと考えていなかった!
「二人で出かけるなんて仲じゃないしね。いきなり二人で鎌倉行こうなんて言われても、困るんじゃない?」
「私だったら、断る」
佐竹の追撃のような言葉が胸に刺さる。
「でも、最初からデートって言えば?それでOKなら告白する必要なく勝ち目があるし、逆なら無いし」
「告白ってサプライズ的にするものでしょ!?こう、なんていうかなぁ。それまでそういう対象じゃなかったのに、告白されてドキドキしちゃうみたいなさ」
「那月の癖に乙女だよなぁ」
「少女漫画の見過ぎ」
二人して厳しい言葉を頂く。
そりゃまぁ、確かにそんな不意打ち的な告白、私が好きじゃ無い人にされたら嫌だけどさ。
でも、好きな人にされたらこれはかなり嬉しいと思う。
「そして、星香は私のことが好きな可能性がある!」
「え、どういう思考回路?」
「那月は頭の中で考えてることを途中から口に出す癖あるからなぁ……」
「兎に角!なんとかして星香と二人きりで鎌倉に行ける作戦を考えないと!」
「ったく……。じゃあ、もー今日は那月の家で泊まるってことにして、移動するか」
「約束通り、那月がドリンクバー代奢ってね」
「ふふん、恩にきってよね」
「それ、私たちのセリフな」
言いながらレジに向かう二人の背中を見て、少し笑みを浮かべる。
紗夜先輩が言う、星香は私のことを好きにならない、という言葉はきっと正しく無い。
星香が嫌いな星香を、私は好きだ。
だから、変わろうとする星香は、変わる前の自分が好きな人を好きにならない。
そんな理論、正しく無い。
言葉には出来ないけど、きっと全部が変わるわけじゃないから。
私は自分を鼓舞するように、そう言い聞かせていた。
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