第三話 星に手を伸ばす ②
星香の親友だという畑中真矢が保科とデュエットしているのを聞いていると、私も星香と何か一緒に歌おうと選曲用のタブレットを持って彼女の方へと少し移動する。
だが、星香は何故か佐竹に懐いているらしい。二人で一つのタブレットを覗き込んで何やら談笑していた。
「あれ……?おかしいな」
何でこうなった?
そもそも、私と星香二人でカラオケに来るはずじゃなかったのか?
まぁ、そこは百歩譲って良いとしても、何で私より佐竹の方に懐いてしまっているんだろうか。
そして、
「いぇーい!那月ちゃん、私達も一緒に歌おうよ!これなら歌えるっしょ!?」
何で紗夜先輩まで来てるんだろうか。と、紗夜先輩が勝手に歌う曲を入力した姿を見ながらそう思う。
あとみんなが知ってる曲イコールみんなが歌える曲だとは限らないです、紗夜先輩。英語の成績が壊滅してる私に洋楽が歌えると思ってるんだろうか。
初めての星香と二人きりのお出かけだったはずなのに、何故こうなったのかというと、話は今日の授業終わりにまで話は遡る。
◇
「まず、星香は見た感じ大人しいからあんまりグイグイいかないこと」
これから星香とカラオケだ!
と鼻息荒く星香のホームルームが終わるのを待っていると、佐竹が釘を刺す。
「星香が嫌がってるのに、それに気付かないで話進めそうだよねぇ、那月は」
そんな佐竹の言葉に同調して今度は保科が言う。
なんて失礼な!
憤慨しつつも、機嫌の良い私は真摯にその助言を受け止めることにする。
ふふん、私ってば大人になったものよ。
「あー、なんかあんまり聞いてなさそう。こりゃ、ダメかもな」
「聞いてるよ!でも心配ご無用。私は星香第一に考えてるからね」
「それが不安だって言ってんだよ」
と、佐竹が呆れながらそんな事を言っていると、教室のドアが開く。
星香がホームルームを終わらせて来たのかな?とドアの方を見ると、想定と少し違う光景がそこにあった。
星香はいる。そりゃそうだ、約束したもんね。
だけど、その横には見たことのない子と、そしてその後ろにはにこやかに手を振る紗夜先輩。
もう嫌な予感しかしない。
「いやーごめんね那月ちゃん。ウチの妹、ちょっと引っ込み思案だからさ、いきなり先輩と二人きりでカラオケは怖かったみたい」
悪びれもせず笑い飛ばすように紗夜先輩はそう言うと、ズカズカと私の近くへと歩いて来て私の両手をとった。
「それに!私那月ちゃんとカラオケ行きたかったんだよね!ねぇねぇ、何歌う?」
「えーっと、え?」
状況が理解出来ない。一度冷静になってみよう。
星香の隣に居た子は、彼女の親友らしい。那月先輩に絡まらてる私を横目に保科と佐竹の二人は星香達と楽しげに話していた。
というか、ウザ絡みされている間に何だか保科達もカラオケに行くことが決定したらしい。
せめて私も星香と話しさせて欲しい。
◇
とこんな感じだ。
私の横には紗夜先輩が座ってるし、テーブルの向かいにいる星香は何故か佐竹と仲良さげにしている。
ついでに言うと、星香の友人である真矢ちゃんは保科と気が合うのかこっちはこっちで実に楽しげに雑談に花を開かせている。
紗夜先輩を適当にあしらいながら、佐竹にアイコンタクトを送る。
ふふん、友人歴5年になる私達の間にはこういうテレパシーじみたことも出来るのだ!
……出来るよね?
目をシパシパさせて、佐竹に席を変わるように伝える。
「……?」
佐竹と目が合うが、無表情で私を数秒眺めた後、何も分かってなさそうな表情をした。
やっぱ伝わらんか。
と落胆していると、紗夜先輩が肩辺りを揺する。
「みんなもうジュース無いじゃん!那月ちゃん、みんなの分、ドリンクバーまで取りに行こ」
「え、あ、はい。みんな、何がいい?」
と、各自のドリンクを聞いてから紗夜先輩と一度部屋を出てドリンクバーへと向かう。
保科の分のアイスコーヒーを注いでいると、鼻歌混じりに上機嫌だった紗夜先輩が、多分真矢ちゃんの分のオレンジジュースを入れながら、不意に尋ねた。
「ねぇ、那月ちゃん。もしかして、星香のこと、好きなの?」
「え!?急に何ですか?」
「ふふ。那月ちゃんは分かりやすいからね。でも、那月ちゃんが誰かに恋するなんて意外だったなぁ」
最早紗夜先輩の中で、私が星香を好き、という図式は確信しているらしい。それを前提に話を進めるので、渋々私は黙しながら認める。
「でもね、ダメだよ」
いつも楽しそうに笑う彼女は、初めてその笑みを消して私を見ていた。
「え?」
私はそんな紗夜先輩に少し驚いた。なんとなく、応援でもしてくれそうな気がしていたからだ。
「星香はね、君に恋しない。君を好きにならない。星香のお姉ちゃんだから、分かるんだよ。星香は那月ちゃんのことを、きっと好きにならない」
那月ちゃんが傷つくのを、私は見たくないからね。
と、いつものようにヘラヘラ笑う彼女に戻って、そう言うとトレーにドリンクを乗せてスタスタと戻り始めた。
いつもの私なら自信満々に否定する筈なのに。
出来た筈なのに。
不思議と私は、紗夜先輩の言葉をすんなりと否定するこが出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます