書く習慣SSまとめ

AkeQvaf

第1話 紅茶の香り

退職祝いに紅茶を頂いた。


ふらふらの状態でなんとか暗い自宅まで辿り着き、ようやく一息ついて頂いた紅茶の缶を見る。

このようなものとはとんと縁がない。

困り果てる。


とりあえず開けてみる。

缶の上を止めている明るい色のテープを爪でカリカリと剥がし、封を切る。

乾燥ひじきが詰まっていた。

乾燥ひじきじゃないか?

てっきりティーバッグが入っているものと思いこんでいた。動揺する。久しぶりに見た、いい紅茶だ。いい紅茶は缶に直に詰まっている。そうだ。


はっとしてキッチンを振り返る、全く生活感のないそこに何かあったっけ。何か紅茶を淹れるための器具が。

茶漉しなんてものはない、最後に見たのは実家かな、給湯室にすら縁がなかったし。


とりあえずヤカンを火にかけてしまう。

まずお湯が必要だ。

お湯が沸くまで数分。

何を入れているか定かではない引き出しを開けてみる、なぜか入ってる電池、輪ゴム、ピーラー、ここには役に立つものなど何もない。戸棚を開ける。水切り用のネット、新品。漉せる、これは茶を漉せるがさすがにどうなのか。ギリギリアウトというやつではないだろうか。融点、プラスチック、体への影響、衛生。


スマホをサッとタップする。


紅茶 茶漉し ない


沸き出したやかんに気が気でなくなりながら検索結果を流し見る。


ザル、それだ。ザルならある。なんだかんだほとんど使っていないし。穴も茶葉が逃げていくほどの大きさではない、はず。やってみないと分からないけど。

適当なマグカップの上にガチャっとザルを置いてみる、だめですね。確定大惨事。


これならと置きっぱなしのミルクパンの上にセット。いいじゃないですか。

違うな、どちらかというと茶葉を鍋で煮て、茶汁を出して、最後にザルで濾す。

これが最適解ではなかろうか。

とりあえずミルクパンにスプーンで二杯ほど。ざっくり目分量、職場からの頂き物だ、豪快に行こう。

ヤカンのお湯を注いで煮込む。

こんなことしちゃっていいんだ。


だんだんと狭い部屋に暖かい紅茶の香りが立ち込めていく気がする。

沸騰手前ほどで火をとめる。

小鍋に見るも鮮やかな、大量の紅茶がなみなみと出来上がった。

完成しても困る、どうやって濾そう、ザル。


新品みたいなうどんどんぶりを受け皿にしてとりあえず鍋から出す。

こぼさないようにマグカップへと紅茶をそそぐ。完成だ。多分。多少こぼしても関係ないくらいまだ鍋にある。良かった。



そういえばまだカーテンも閉めていなかった。

せまいダイニングの椅子にこしかけてぼんやり外を眺めながらゆっくりと啜る。美味しい。

そうだ、明日はゆっくり起きて紅茶を淹れる何か、何かを買いに行こう。


やっと、肩の力が抜けた気がした。

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