第20話
「……、」
ちょっと警戒しながら、足早に公園を出ようと、その人の横を通り過ぎようとした時、
「っわ、」
何もないところで所で、いや、地面の窪みのせいで足を取られてしまい、そのまま倒れこもうとしたら、
ガシッーー、
お腹辺りにしっかりとした腕が回ったおかげで、地面に激突することはなかった。
た、助かったー、
ヒヤリと冷や汗をかき、心拍数の音が耳の後ろで響く。
「あ、ありがとうござい…っ」
お礼を言おうと、顔を上げたら、相手と目が合い、手に持っていた缶を落とした。
街灯に照らされた漆黒の黒髪に、切れ長な二重と、形のいい唇。澄んだ黒い瞳がとても綺麗。
どくん。と一つ心臓が震えた。
お腹から上に這い上がる痺れを感じた。
「……っ」
そのまま固まる私にその人は気にすることなく、身体を離すと、少しかがんで落とした缶を拾ってくれた。
ふわっと微かだが、ライムの様な柑橘の匂いがした。
「ほら。」
「え、あ、すみません……」
缶を受け取り、ペコッと頭を下げた。
「何もない所で転けるなんて、狙ってんのか?」
小バカにされた言い方に、一瞬で現実に戻る私。
「なっ、違います!たまたま躓いただけです!」
ムッとなり、その男を睨みつける。背が高いせいで見上げなければならない。
あっそ。と興味なさげに言われ、さらにムムッと眉を顰める。
「それはどーも失礼しました!さよーなら!」
フンッとそっぽを向き、立ち去ろうと歩き出す。
「おい。」
「はいぃ⁉︎」
まだ何か言いたいのか!と半ば逆ギレ気味のまま振り返ると、
「気をつけて帰れよ。」
「………っ」
口角を上げて、笑うこの人に、また一つ心臓が震えた。
頷くことで精一杯だった私は今度こそ足早に家に向かったのだった。
「まさかの2年ぶりの再会ってか?」
面白そうに笑いながら言う男の言葉に、もちろん気付くことはなかった。
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