“超カッコいい男たち” 〈友情の翼〉
というわけで、〈友情の翼〉です。
大学図書館になぜか1本だけVHSがあった。
時は第二次世界大戦。アイルランドに不時着した連合軍パイロット(アメリカかイギリスか忘れたけど、服装から察するに多分アメリカ? だがこの時期の米軍パイロットは平気で英軍の装備をもらって着ていることがあるからな…どっちかわからん)が、捕虜収容所でドイツ空軍パイロットと出会う。
連合軍と独軍が何で一緒に収容所に入ってんだよ、と思われるでしょうが、当時アイルランドは中立の立場をとっており、それで二人は同じ収容所に放り込まれる。あ、もちろん収容棟は別々です。殺し合いするといけないから。
実際、連合軍の彼が連行されてきたのを目にした、ドイツ海軍の若い水兵が、故郷(ハンブルクかドレスデン)を無差別爆撃したといって半狂乱になって彼をなじり、有刺鉄線を乗り越えてつかみかかろうとする。
で、後ろにいた独軍のパイロットがそれを羽交い絞めにして止めるんですが、その止め方が…棘が刺さった、まだ子供みたいな水兵の指を、鉄条網から一本一本そっと外していくんですよ。
「ああ、この人が上官の部下は幸運だ」と思いました。
詳細は忘れましたが、喧嘩さえしなければ、捕虜といっても割と自由に出歩けるようで、二人はある若いアイルランド人女性と知り合いになる(実は俳優さんの本職はアイリッシュ・ダンサーで、劇中のダンスは鳥肌が立つくらい見事)。
この映画の好きなところは、主要登場人物が精神的に自立していてサバサバしているところで、彼女も、気持ち的には連合軍パイロットの方に惹かれているようなのですが、ドイツ軍パイロットの彼とも節度を保っておつきあいをしている。
特に、二人が女性の厩舎で鉢合わせして(遠乗りの約束をしていた)、彼女が独軍の彼に「今日は外してほしい」みたいなことを言うと、彼が何も言わずに、ブーツの踵をカチッと打ち合わせて会釈して去るシーンは必見…!(VHSしかなくて再販未定だけど)
何を隠そうこの独軍パイロットは貴族の出身なんです。だから当然のように馬に乗れる。
黒髪で、いつもきちっとした格好をしていて、非常に紳士。好きすぎて、ドイツ軍パイロットのイメージというと最初にこの映画が出てくる。拙作〈GOD's in his HEAVEN〉のモデルにしたのもこの人。
…ま、いつの時代も、女が選ぶのはそういう安パイではなくて、“ちょっぴり危険な香りのする男”の方なんですけどね…。
ここまで独軍の方ばかり書いてきましたが、連合軍の彼も気持ちのいい奴で。自然体で、嫌味なところがまるでない。同じ女性を巡るライバルではあるんですが、相手にも奇妙な友情を感じていて、お互いを貶めるようなことは一切しない。
ところがある日、連合軍側の方は脱走に成功して戦線に復帰。片や独軍側は終戦まで収容所に留め置かれるんですが…その間に連合軍パイロットは戦死。
戦後、彼の子を産んだアイルランド女性と、その傍らに寄り添うドイツ人の彼の姿が描かれて映画は終わり。
ね、みごとに〈パール・ハーバー〉と一緒でしょ。
男が、死んだ親友の子供を自分の子供として育てる(名前も同じ)という図式は、何か男たちを惹きつけるものがあるのか…?
BL的にうがった見方をすれば、男はどうしたって子供を産めないので、女性を介して生まれた子供を「あいつと俺の子」と認識している可能性もありますが…私、過去にはそんなこと考えたこともなかったな。単に友情と父性と責任感の話だと思ってた。
あと、最初は悪印象だが後にそれが覆されるパターンと、最初は好印象だが後に逆転した場合とでは、後者の方が印象が悪いという心理学もありましたね。
それでいくと、味方同士で女を奪い合うのは避けた方がいい(争うなら、自分と共通項のある敵と)ということになるのでしょうか。
ところでこの映画、原題が〈THE BRYLCREAM BOYS〉といいます。邦題といっこもかぶってない。それを言うなら〈ランボー〉だって〈
英和辞書をひいても載っていないので、大学のカナダ人の英語講師に「BRYLCREAM BOYってどういう意味ですか」と聞きました。
そうしたら、「すごくカッコいい男の子っていう意味だよ」という答えが。
ブライルクリームというのは整髪料で、当時それを使っていた若くておしゃれな男の子たちがそう呼ばれていた、いわゆる俗語です。後に本当に使われていた一節を発見。
思えばこの一件が、私がスラングに興味を持つようになったきっかけかも。
ええ…でもこの言葉いつから使われてたのか知らないけど、外国語教師ってそんなことまで知ってないといけないの…? てことは日本語教師してて、生徒に「“当たり前田のクラッカー”ってどういう意味ですか」とか聞かれたら、時代背景からギャグまで説明しなきゃいけないの…? 難儀な仕事だなあ…。
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