気が狂った映画その2 〈フルメタル・ジャケット〉

 まーたベトナム戦争の映画である。ベトナム戦争の映画ってのは私の中ではキ××イ映画の宝庫なのかしらん。〈ランボー〉もベトナム帰りだったし。


 ごくフツーの一般人の若者が海兵隊に入隊し、新兵訓練を経てベトナムに派遣される…のを、前半は訓練シーン、後半は現地での様子と分けて描いています。


 この訓練シーンが秀逸なんだわぁ…。

 あとで知ったんですが本当に訓練教官をやっていた人がその役で出ていて、軍隊のことなど何も知らない若者たちを、顔面数センチの距離で唾を飛ばして罵倒しまくり、しごきまくる。1960年代で、まだまだ女性には戦闘への門戸が開かれていない時代でしたから、まー劇中歌の下品なこと下品なこと…(笑)。私の書く軍隊モノで、階級が低い下士官兵の登場人物の一人称が下品なのは60%くらいこの映画の影響ですね(笑)。


〈フルメタル・ジャケット〉は何度か観ているのですが、子供の時は「何でこんな理不尽なイジメをするんだろう」と思っていました。特に、現在であれば明らかに境界知能ではないかと思われる“おデブちゃん”に対する軍曹のシゴキなど…(結果的に、彼は教官を射殺した後、同じ銃で自殺する)。


 けれども、社会人になった今ならその理由がわかる。

 練兵係軍曹は根が邪悪なワケでも、気まぐれで意地悪をしているのでもなかった。あれは精神的に無垢な若者たちに、悪意と殺意に対する予防接種をしていたのだと。


 戦場では誰かが自分を殺そうとしているという悪意に晒される――これは対人担当業務カスタマーサービスをはるかに超えるキツさです。訓練教官の絶え間ない悪態は、それの、せめてもの疑似体験、すぐには心が折れないためのワクチンなんです。


 で、訓練の甲斐あって“人殺し予備軍”となった新兵たちは戦場に出て行くわけなんですが…いろいろあって、この映画、狂ってんなーと思うのは、ラストシーンで、夜、燃えている草原くさはらを行進しているところへ、なぜか「ミッキーマウス・マーチ」が流れるんですよね(笑)。みんなお馴染みのアレです。


 戦争×音楽。〈地獄の黙示録〉×「ワルキューレの騎行」といい、そのせいでルイ・アームストロングの「A Wonderful World」が皮肉にしか聞こえない(笑)。

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