ノベライズの方読んでほしい 〈プライベート・ライアン〉

 戦争映画史上最大に「痛い映画」(物理的に)と言われる、史上最大の作戦ノルマンディー上陸作戦(の、裏でのできごと)を描いた映画。


 冒頭の上陸時の戦闘シーンの描き方が痛すぎて、まるで自分が撃たれて腕がもげて脚が吹っ飛び、溺れて死ぬように感じられると友人(♀)も言っていました。私個人の感想は「おお、ローバート・キャパの写真(『ちょっとピンボケ』)と同じだ!」。


 戦闘地域で行方不明になったライアン一等兵プライベート・ライアン本国アメリカに連れて帰るよう命じられたミラー大尉率いる分隊が、気乗りしないその任務を果たすまで…を描いているのですが、私がしょっぱなから驚いたのは、ノルマンディー上陸のシーンでもなく、軍がライアン一等兵を連れ帰るよう命じる理由が、「三人兄弟ですでに上の兄二人が戦死しているから」。


 出征中の兵士がいる家には、青い★が描かれた小さな垂れ布が掲げてあり、戦死すると星が金色に変わる。ライアンさんはもう二人の息子を亡くしているから、この上末っ子まで死なせるわけにはいかない、国内の士気に関わる…! というんですな。


 日本大日本帝国でも、長男はできるだけ兵隊にとらない、みたいな暗黙の了解があったとかなかったとかいう話を小耳に挟んだことがありますけれども、アメリカに好意を抱いたのはこれが大きいですね(笑)。

 士気に関わるからとか理由は何でもいいんですよ。「弾に当たらなきゃ死にゃしないんだから防弾板は極限まで薄くしろ、いっそなくせ」みたいな設計のゼロ戦より、「新しくパイロットを育成する方が金がかかるから防御を厚くする」米軍機の設計の方が、のちのち戦局に効いてきたでしょう。

 自衛隊では知りませんが、米軍は今でも、訓練時に空母から最初に飛ばすのは救難ヘリだそうです。艦載機が発艦に失敗してパイロットが海に落っこちた時用に。

 敵地に不時着したり捕虜になったアメリカ人も、非常な努力をして助け出そうとする。それを描いた映画が他にもありますよね。

「お前(の屍)は必ず回収してやる(から安心して死んでこい)」と言われた方がなんぼか安心できるというものです。

 逆に言うと、そうでも言わないと(しないと)移民国家における国軍というのは結束力がないということなのかもしれませんが…。


 映画の話をしようと思っていたのですが、この話、ノベライズの方が個人的におススメなんですよね。マックス・アラン・コリンズ著『プライベート・ライアン』が新潮文庫から出ています。


 映画ではほとんど注意が払われていないものの、小説版では、ライアンを探すという目的の他に、「大尉の戦争前の仕事は何だ?」というのが下士官兵の間でもう一つの攻略目標(賭けの対象)になっている(笑)。

 この大尉、根っからの職業軍人じゃないんですね。年くってるし、あまり自分のことを語らず、ちょっと謎めいている。


 犠牲を払いつつも何とかライアン一等兵を見つけ出し、終盤でミラー大尉の“平時に就いていた仕事”がわかったあとの最後の一文が…胸にくるものがありすぎて涙も出ない(あ、映画や小説の本当のラストシーンじゃないですよ。その前)。


 平時に何をやってたのかって話は結構興味深くて。

 ドイツ国防軍にヴィルヘルム・バッハという、ドイツ人の見本みたいな名前の人がいまして。

 この人は平時は牧師をしていました。で、ロンメルのアフリカ軍団で、ハルフィヤ峠の防衛をしていた時に連合軍からたてまつられたあだ名が――「煉獄業火の牧師」。

 ハルフィヤと地獄の業火ヘルファイアを掛けている。でもって本人が牧師…。おまけに担っていたのが防衛。

 私はサッカーのゴールキーパーとか、野球でいうと広島東洋カープの菊池とか、いわゆる「守護神」とか「守備職人」と言われるほど防御面が鉄壁な人、軍隊風にいうと「自分のケツを預けられる人」が、他の職種より好きなんですよね。おそらく性格的なもので。


 ロンメル自身も英軍から「砂漠の狐」というあだ名をもらっていますが、ハッキリ言って、バッハ中佐のこの二つ名ほどカッコいいあだ名を、私は聞いたことが無い。


 しかし、どこから牧師ってバレたんでしょうね。士官の釣書でも出回ってるんでしょうか。謎。

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