第5話
ワイズマンとクリストフはしばらく歩いた、
羊の群れが見える丘、
雨の匂いと草の匂いがする。
この丘からは海が見える。
霧のせいで全貌は見えないが、内陸が見える。
陽炎のように船が見えるのだ。
「兄ちゃん、覚えてる?」
「どうしたクリストフ」
「ここら辺でさ、内陸の花火を見たこと」
ワイズマンは覚えていた。
「初めて見たよあんな綺麗なもの」
変わったものはここに父と母がいないこと。
雨が強く降り始めた。
「あそこ、行ってみるかい」
クリストフは真剣な表情で、私にいう。
「亡くし人(びと)呼んでくれる泉」
しばらく歩いた先にあるそんな場所、
島民には有名な場所である。
いつ昔の皇族が、
行方不明になった王妃を探している途中、
この泉を見つけた。
ここで彼は唱えたのだという。
彼女が迎えにくるようにと。
祈り、祈り続けた。
すると驚いたことに
一晩で王妃は戻ってきたのだという。
「いこう」
私達は歩みを進めてその場所へ向かうのだ。
カンカンカンと音が聞こえる。
鐘が鳴る音だ。
アナウンスが鳴り始める。
『高潮警報、高潮警報、夕方までに
高台に避難してください』
月に一度ほどこういったタイミングが来る。
「準備始めないと」
ワイズマンは言う。
「泉に早いうちに行って、家に戻ろう」
海が荒く、怪物が泣くような声がした。
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