第2話

自宅に急足で戻る。

雨はバケツを

ひっくり返したほどの水溜りを作る。

濡れてしまった、と片手に持った

その手紙を見練たらしく開いた。

シャルという人物は、女性なのか、

それとも男性なのか。

そんなことを考えているうちに

ある声が聞こえてきた。

「よ、おかえり兄ちゃん」

弟のクリストフだ。

くるくるとした天然パーマが

目立つ茶髪の弟だ。

「ただいま」

「どうしたの浮かない顔して」

ワイズマンは悩んだ末に、こう言った。

「かくれんぼ、得意か?」

溌剌とした顔でクリストフはうんと頷く。


「雨だから傘持って」

「風邪ひいたらお父に怒られちまうよ」

「よし、火は消したか」

「うん」

準備は整った。

その時、思いもよらない訪問者が。

「おうワイズマンくん」

あれは今朝、講演会を開催した市長だ。

あの背丈の高さといい、

傲慢な態度は間違いない。

「市長、どうして」

「君に注意喚起を」

「注意喚起?」

「2度と漁をしないでくれ」

「それは何故?」

「私は魚が憎い」

「家を支えるためです、

止めることはできません」

「それでは、家を焼き払おう」

どきりとした。彼は

かなり過激な人間であることは承知していた。しかし、ここまでとは。

「えへ、冗談だ。

注意喚起をしたぞ?じゃあな」

彼は背を向けて家の前から消えた。

「なんだあいつ」とクリストフが言う。

「なあ、クリストフ」

「どうした、兄ちゃん?」

「お母の魚料理が食べたいか?」

「うん、でもお母は亡くなったよ」

「いや、クリストフ。

もしお母さんが生きてるとしたら」

「この手紙を送った人がお母さんってこと?」

「ああ、そうだとしたら」

「でもこんなことしたら、

あいつに何をされるか」

「構わないさ、みんな魚を食べたがってる。

探しに行こう」

まだ見ぬシャルを探しに家の扉を閉めた。

雨は少しながら止んだように思えた。

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