35. 最悪な日 1
杖を手に入れてから数日。
せっかく手に入れたのに、僕はなかなか練習できずに居た。
だってさ、キャラバンの中で派手な魔法を使うわけにもいかないじゃん。
だから外に行きたくても、なかなか陸地がなくて練習が出来ない。
だから僕は暇つぶしに、雑誌を手に取って時間を潰していた。
雑誌、実はキャラバンのいたるところに積まれている。
年号も種類もバラバラなんだけどね。
でも意外とこれが暇つぶしに有効だったりする。
なになに…。
世界一の医者、ゾーヤさん特集!
これはもう読んだなぁ。
えーと。
これは…。
世界一の医者、ゾーヤさんの人気の秘訣!
あ、これも読んだ。
これは…?
世界一の医者、ゾーヤさんの日常!
これも読んだ。
ゾーヤさん人気すぎない?
どの本をとってもゾーヤさん居るんだけど。
ちなみにこの人は、かの有名は回復の魔法使いの、一番弟子らしい。
その腕は、師匠に並ぶほどなんだとか。
ともあれ、もう何度も呼んだ雑誌だ。
はい次。
えーと、これは…
世界一のヤブ医者、ゾイヤさんの秘訣!
「誰なの!?」
思わず突っ込んでしまった。
そういえば前読んだ時も、突っ込んでしまった気がする。
あぁ…朝なのに疲れた。
僕はソファに寝転がり、天井を見上げた。
木の木目が心地いい、素敵な天井だ。
このまま眠っちゃいたいなぁ…。
なんて思ったその矢先。
ゴゴゴ…。
キャラバンの止まる音が聞こえてきた。
今は依然として海の上。
そんな場所でとまるのなんて、理由は1つしかないよね。
僕は飛び起きて、窓の外を見た。
そこには、広々と広がる島があった!
「島だ!」
次に着いた島では、ユワルと一緒に杖の練習をしよう!っていう約束をしていた。
なんだか昔を思い出すよね。
ということで、僕はさっそく杖を手に取り外に飛び出そうとした!
しかし。
ガツンッ
「あれ?」
何かがひっかかって、僕は外に出られない。
なんでだろう?
ガツンッ!
僕は再び挑戦してみるもダメ。
「キャラバンから出れないんだけど!?」
何故かキャラバンから出れなくて焦る僕。
どうやら僕は、外に出られない呪いにかかってしまったらしい。
そんな情けない姿を、テライは呆れながら見ていた。
「マリン、何をしてるんだ?」
「一大事だよテライ! 僕、キャラバンから出れないんだけど!」
「上を見ろ」
「え…?」
僕は彼の言葉どおり、上を見上げてみた。
すると、なんと長すぎる杖が扉に当たっていた。
恥ずかしすぎる!
「やだ! 見ないでテライ!!」
「ユワルのドジが移ったんじゃないのか?」
「もうっ! うるさいな!!」
朝から災難だ。
僕は口をへの字にまげて、今すぐ外に出ようとした。
しかし、テライに止められてしまう。
「待て」
「何? 僕いま機嫌悪いの! ぷんぷん!」
「お昼には帰ってこい」
「ぷんぷん!」
「必ずな」
「ぷん!」
僕は不貞腐れながら外に出た。
今日のお昼…何かあったっけ。
まぁいっか。
僕は少しの心配と不安を感じつつも、そんなことはすぐに忘れ去った。
それから、相棒と共に外へと出る。
そこは、それなりに広い砂浜の広がる場所だった。
人が住んでる場所は島の裏側で、こちら側は無人らしい。
だから周りの被害は気にせず練習ができちゃうんだ!
「マリン、遅い!」
すると、先に外で待っていたユワルがぷんすかしていた。
キャラバンにはいくつも外へと通じる扉があって、先を越されちゃったみたいだね。
「ごめんね、朝から災難でさ」
「へ~。 何があったか教えて欲しいな」
「教えな~い」
「ふんふん。 杖、大きいもんね」
「…もしかして見てた?」
「ふふふ~」
「絶対見てたよね!?」
どうやら今日は、災難続きらしい。
それから僕らは、キャラバンから少し離れた場所へと向かった。
万が一キャラバンに直撃でもしたら、恐ろしいからね。
「マリン、この辺りにしよ」
「うん、そうだね」
練習に最適な場所を見つけたところで、僕はさっそく杖を使ってみる事にした。
基本的に魔法は、手の先から発生する。
ちなみに足からも出せるみたいだし、僕なんかは触角とか、触手なんかからも出せる。
精度はさらに悪くなるんだけどね。
そして杖は、それらを一点にまとめる事で、精密な制御ができる仕組みらしい。
だから基本的に先端の石から、魔法が飛んで行くとか行かないとか。
「じゃ、マリン! あいつ狙ってみてよ!」
ユワルは、遠くに生える1本の木を指さした。
見たところ、かなりの距離がある。
それに木だから、あたり判定もなかなかに狭い。
「あんなに遠いの当たるかな?」
「当てたら、私からご褒美あげる」
「ご褒美!?」
「うん。 すっごいのあげる!」
「頑張っちゃう!」
ご褒美が何かは分からないけど、僕はやる気に満ち溢れた。
あの距離、以前までの僕だったらまず当たらない。
きっとあらぬ方向に飛んで行って、関係の無い別の物を壊しちゃうに違いない。
でも、それは以前までの話。
今の僕には、コイツが居る!
そう、このながーいながーい杖がね!
「マリンとマリンの力を見せてあげる!」
「ややこしいよ!?」
「しょうがないじゃん! じゃあ、やるねユワル」
「うん!」
ヒュッ!
僕は、かっこよく杖を振り下げた。
しかし。
こつーん。
勢いよく振り下がる杖を抑えきれずに、そのまま砂浜にぶつかってしまった。
カッコ悪い!
僕はそこから気を取り直して、杖を再び持ち上げた。
そして、冷静に遠くにそびえたつ的へと杖を向ける。
…でもね、杖が長すぎて上手く狙えないの!
微調整をしようとすると、杖が思ったよりも大きく動いてしまう。
それからやっと狙いを定められたかと思えば、今度は風に揺られたり、手の震えで揺られたり。
結局、魔法の精度以前に、そもそも杖の狙いが定められない問題が発生した。
見かねたユワルが、僕に近づいてくる。
「まーりーんー? だから私、その杖だけは止めなって言ったでしょ?」
「はひ…」
「どうするのこれ? 高かったんでしょ?」
「はひぃ…」
「でも買っちゃったのなら、頑張るしかないんだよ。 ファイトだよマリン!」
「…うん。 でも、どうしたら良いんだろう」
「触手も使ってみたら? 手より長いんでしょ、それ?」
そう言うと彼女は、僕の首から伸びる2本の触手を指さした。
思えば、使いどころがなくて全然使って無かった。
「触手……確かに。 やってみる!」
僕は首から生える触手を杖にからめた。
じつはこれ、伸縮自在なんだ。
最大限まで伸ばせば、手よりも長い範囲まで楽々届いちゃう。
そのおかげもあって、長い杖を手、触手の4点で支えることが出来た。
ぴったりと動きを止める杖。
これなら、冷静に落ち着いて狙えることが出来る。
しかし…!
「重いいい! 肩はずれるぅぅぅぅ」
この触手、びっくりするくらい非力なんだ。
僕の体はただでさえ周りの皆よりも非力なのに、この触手はさらに非力なんだ。
あくまで、補助的な物でしかない。
「ううううううう…」
「頑張るのマリン! ご褒美のためだよ!」
「…うん。 頑張る…!」
ロマンを使うのは想像以上に大変。
僕はそれを、身をもって体験した。
それから、全力で触手に力を入れて杖を持ち上げる。
「ぅぅぅぅぅぅぅう…ぐううう…」
それから、やっとの思いで照準を合わせた。
「ふぅ…ふぅ…。 ユワル…撃つね」
「うん! 見せて!」
それから僕は、魔力を練り上げた。
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