34. 僕だけの杖を見つけたい 1

ユワルの泳いだ視線の先。

そこにはなんと、僕の3倍の長さはあるだろう、すごく長い杖があった!

あんな物をほしいだなんて、余程の変人しかいない。

そう、僕の事だ!


「僕、あれにする!」


「マリンのおばか!」


「あれだけは止めた方がいいわよ、マリン!?」


僕の言葉に、2人は全力で止めてくる。

そんな彼女らの肩に、僕は手を乗せた。


「ごめん、ユワル、トーニャ。 僕の憧れは止められないんだ」


「やめなよ…」


「そうよ! なめなさいって!」


「…でも、ごめん。 僕は運命を感じちゃったんだ。 あの杖と共に強くなる!」


「おばか!おばか!おばか!」


「はぁ…もう。 呆れたわよ…」


女性陣からの目線が痛い。

ふふ。

そんなの、憧れの前では無意味!


「待ってて、今すぐ買ってくる!」


「マリン…!」


「ちょっと待ちなさいマリン!!」


「もう無理なんだよトーニャ。 私達にマリンは止められないの」


「んもう…ほんと子供ね」


僕の後ろ姿を見ながら、呆れる2人。

でも僕は、振り返りもせずに走っていった。


そして例の杖に到着。


「おぉ…」


目の前にしてみると、本当に迫力がすごい。

ベルよりも背が高いのは、一目見て分かった。

でもやっぱり、大きいだけあって値段は張るよね。

それに装飾も凝ってるみたいだし、仕方無いところはある。


でも大丈夫!

こんな事もあろうかと、お金はベルから多めに貰ったから心配いらない。

どこから稼いでるのかは知らないけど、キャラバンはお金がたんまりあるらしいんだ。


ふふっ。

ここから、僕の伝説が始まるんだ!

この杖と共に!


「お兄さん! これ欲しい!」


僕は露店に居る店主に声をかけた。


「おう嬢ちゃん、杖コレクターか? 幼いのに渋いねぇ」


「違うよ。 ちゃんと使うもん」


「可愛いねぇ。 俺もこんな時期あったっけ」


「本気だから、 茶化さないで!」


「…真面目に言ってるのか? これ、ミガ族の中でも高身長が使う用だぞ? 」


「僕だって使えるもん!」


「本気か!? なかなか売れなくて、祖父の代からずっとここにあるんだぞ?」


「本気だよ。 僕に譲って欲しい」


「…本気ねぇ。 …分かったよ嬢ちゃん。 それじゃあ質問をさせてくれ」


そういうと、店主は僕の顔を覗き込んだ。

思わず緊張が走る。


「お前にこの杖が愛せるのか?」


「既に相思相愛だから!」


僕の一言に、店主がニヤっと笑った。


「お前みたいにぶっ飛んでるヤツは好きだぜ!」


そう言うと店主は、すごく長い杖を僕に手渡してきた。


この無駄に長いフォルム…

ああロマン!!


「ほれ、持ってみろ!」


「うん!」


僕は宝物を触るみたいに、優しく杖を受け取った。

しかし。


「…重ッ!?」


持った瞬間、あまりのバランスの悪さにひっくり返りそうになる!

なにこの杖!?

実用性とか考えてないじゃん!


「おっと、気をつけろよ」


店主は僕を支えてくれて、なんとか杖を落とさずにすんだ。

でも、僕の想像以上に実用性が無いらしい。


元から実用性が無いのは分かり切っていたけれど、それでも持つ程度なら出来ると思ってた。

でも、それすらさせてくれないんだよ!?

これじゃあ、魔法を使うどうこう以前の問題じゃん!


嘘だ…。

そんな。

こんなのって…。


「どうするよ? これでも気は変わらないか?」


僕の表情の変化に、店主は再び言葉を重ねてくる。

僕はその言葉に、ニコっと笑顔を作った。


「最高だよ!!」


「よし来た! 俺が加工してやるから少し待ってろ! 久しぶりに腕がなるぜぇ~!!!」


そう言うと店主は、奥へと入っていった。


簡単に使えたら、それはロマンなんかじゃない。

難しければ難しい程良いんだ。

あんな強情な杖、最高に燃えてくるとは思わない?


しばらくして、店主が戻ってきた。

両手いっぱいに綺麗な宝玉を抱えている。

きっと、杖の先端に付ける石なのかな。


「嬢ちゃん、この中から好き石選びな。 どれを選んでも、きっとコイツに合うはずだ」


そう言うと店主は宝玉を机に並べた。

宝玉とは言え、形は様々、色も様々な物が揃っている。

思わず迷いそうになるけれど、僕は不思議とすぐに決まった。


一瞬で目を惹かれた石があったから。


それは雫の形をした、一組の小さな石。

小さいながらも、他のどれよりも透き通っていた。

それでいて、海のように鮮やかな水色に輝いている。


「これにする」


「ほぅ、迷わないんだな」


「うん、なんだか呼ばれてる気がして」


「きっと、石に選ばれたんだな」


この言葉お世辞なのか何なのか。

どうであれ、すごくうれしかった。

その後すぐに店主が加工をしてくれる。


しばらく待って。


「またせたな、嬢ちゃん」


店主が杖を持って出てきた。


「すごい…綺麗…」


その杖は、とても上品にまとまっていた。

杖の上と下に埋め込まれた小さな宝玉。

それは決して目立つような物ではないけれど、確かな存在感を放っていた。


そして何より綺麗なんだ。

まるで深海に迷い込んだ星のよう。


「そんなに喜んでくれたら、俺も頑張ったかいがあったぜ。 ほれ、受け取れ」


「うん…」


僕は恐る恐る杖を受け取った。

今度はバランスを崩さないように。


…!


僕は杖を持った瞬間、目を丸くした。

なんと、さっきは持つことすら出来なかったこの杖が、素直に僕の手に収まってくれたんだ!

それでもまだまだ重くて、扱いには苦労しそう。

でも魔法が扱えるスタート地点には立たせてくれた、そんな気がした。


「すごい! 何このバランス!」


「だろ? 嬢ちゃんが持ちやすいように、頭とお尻に宝玉をつけたんだ。

普通、こんな事しねぇ。 でも嬢ちゃんは特別だ」


「ありがとう! 大切にする!!」


「おう! 信じてるぜ!!」


僕は店主と別れを告げ、外で待っている2人の元へと戻った。


「ごめん! おまたせ!」


「うわ。 それどうやって使うつもりなのよ?」


「気合で!」


「それで出来たら苦労しないわよ!」


僕の杖を見て思わず驚くトーニャ。

対照的に、ユワルはニヤニヤ笑ってる。

そして彼女は、杖の先端にはめ込まれた石を指さした。


「この石、マリンが選んだの?」


「うん!」


「ふふふ。 マリンらしいね」


「え…?」


「あら、そうね。 私も知ってるわ。 この石のこと」


ユワルの言葉に続くように、トーニャも頷く。

なにやら、2人は何かを知っているみたいだった。

それが気になったので、僕は聞いてみる。


「何か変な石なの? どういうこと?」


「あのね、マリン」


「うん」


「その石の名前は…」


2人は顔を見合わせて言った。


「「マリン」」


「どうしたの!? 急に僕の名前なんか呼んじゃって」


「えっとね…。 この石の名前がマリンなの」


「本当にマリンらしいわね!」


「へぇ! マリンって言うんだ。 マリン! よろしくマリン!!」


どうやら、最高の杖に出会えたみたい。


後で聞いたんだけど、マリンには【水の神の涙】なんて逸話があるらしい。

水の神が放った魔法が、地上に落ちて宝石に姿を変えたものなんだとか。


それを聞いてもっと好きになった。

これからよろしくね!

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