33. 僕だけの杖を見つけたい 1
魚釣りから帰る時の事だ。
「もう絶対にベルの誘いには乗らないからね?」
「ははは! そんな悲しいこと言わないでおくれよ! ただ君たちの実力を見たかっただけさ」
「だからあんな場所で釣りしてたの!?」
「あぁ、もちろんさ! でも楽しかっただろう?」
僕はその言葉を聞いて、ベルを睨みつけた。
この人、確信犯だ。
魔物が出ると分かっていて、僕らをここまで誘き寄せたんだよ。
「…」
「どうしたんだいマリンちゃん? そんな恐ろしい顔して!」
「…ふん!」
「ははは! ちょっとした出来心だったのさ~!」
ベルは、全く悪びれた様子もなく笑う。
この人って、勇者というよりも魔王の方が近いよね。
僕はさらに、鋭く彼を睨みつけた。
そんな僕とは対照的に、ハルは楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。
「わたしはまた行きたい!! 楽しかった!!」
彼女は、満面の笑みでそう言い放った。
僕は思わず、ため息を吐いてしまう。
「はぁ…僕もハルになりたいよ…」
「おう! 仲間だな!」
「うぅ…ハルが眩しい…」
「眩しいだろう!! くらえ!!」
ピカッ!
そして、本当に光りだすハル。
これもネクロマンサーの謎の魔法の1つなのかな。
使いどころは分からないけど、とにかく眩しい!
「ちょっとハル! 本当に光らないで! 眩しい!」
「ネクロマンサーの謎の魔法だ!!」
「どこで使うのこんな魔法!?」
「寂しい時!!!」
さらに眩く光だすハル。
もう眩しすぎて、僕は彼女から目を逸らした。
それから3人で、キャラバンを目指して歩いていく。
ベルとハルは、なにやら楽し気に会話していた。
でも僕は、さっきの戦闘での反省の嵐だった。
まだまだ、僕の至らないところが浮彫になったよね。
僕はまだまだ、未熟なままなんだ。
「浮かない顔してるね、マリンちゃん。 せっかく勝ったのに嬉しくないのかい?」
そんな僕に、ベルが話しかけてきた。
「うん。 僕はまだまだ、努力が足りないなって」
「そうかい? 君は努力家じゃないか」
「急に恥ずかしいこと言うのやめてよ!」
「恥ずかしいことでも何でも無いと思うけどね~!」
ベルはカラっと笑った。
そして続ける。
「でも何が不満なんだい? 君の魔法には十分に強みがあるじゃないか」
「そうだけど…でも精度がね…。 今のままじゃ、近い距離しか対応できなくて…」
「ははは! 素手で戦っておいて、精度を求めるつもりかい?」
「素手って…これが普通じゃないの?」
「何を行ってるんだい、マリンちゃん。 精密な魔法には、杖が必須なのは常識だろう」
「え? そうなの?」
「そうだとも! 学び舎をサボっていた弊害が出たようだね~」
「うっ…。 それを言われると…弱い…」
「ははは! ひとまず杖を持ってみたらどうだい? 格段に魔法が扱いやすくなるはずだよ」
「杖かぁ。 でも僕、あんまり使ってる人を見た事ないんだけど」
「そんなことないだろう? ハルちゃんを見てみるといいさ。 可愛い杖をもっているだろう?」
「あ。 そういえば」
僕とベルは、ハルへと視線を移した。
それに気が付いたのか、ハルは懐に手を忍ばせる。
「お! これの事か!?」
それから彼女は、装飾の施された小さな杖を持ち上げた。
「わたし専用! お粗末な杖! ちっちゃいんだぞー!」
「あ、それ気になってた」
「逆にきくけどな、マリンは杖を持ってなかったのか!?」
「うん…。 僕の身近な人は持ってなかったから…。 てっきりファッションの一部かと…」
僕のその言葉に、ベルは笑顔を浮かべる。
「そうだろうね~。 杖はマウ族とは少し相性が悪いのさ」
「そうなの?」
「そうだとも。 マウ族の得意な土属性は、大胆な使い方が多いからね~。
繊細な杖とは水と油なのさ。 その点、マリンちゃんにはピッタリなんじゃないかな?」
「僕に…ぴったり!?」
「そうだとも。 君の魔法は、杖の性能に大きく左右されるだろうね~」
「え!」
「杖を持つだけで、見違えるほどに強くなってしまうかもしれないね~!」
「ベル! 僕も杖が欲しい! 買って!」
「もちろん良いとも! この先に大きな島があるから、そこで買ってあげようか」
「ベルぅ! 大好き!」
「マリンちゃんは現金な子だねぇ」
…。
そこから1か月くらいたったのかな。
僕らは今まで通り、トロン大陸を目指して進行中だった。
地図を見ると、トロン大陸まで早くも中間地点まで来ているみたい。
初めての大陸…すごいワクワクする!
え? シュカ大陸だって?
知らない子です。
そんな時。
「みんな、次の島が見えてきたよ。 あそこで物資調達といこうじゃないか」
ベルは眼鏡をカチャカチャいじりながら言う。
あの眼鏡、意外と便利な機能付きらしい。
「それと、マリンちゃんのも買いに行こうね」
「…僕の何を?」
「忘れちゃったのかい? 杖だよ杖」
「あ!杖!」
一か月も待たされたんだ。
高いヤツを買ってやろう!
という事で僕は、ユワルとトーニャを連れてショッピングに出かけていた。
本日の暇人達だ。
他の皆はいつものように食糧調達中。
「2人とも、杖ってどんな物がいいの?」
僕は2人に質問をしてみる。
「人それぞれかな。 私は使いやすければ何でも良いと思うの」
ユワルが教えてくれる。
それ続いて、トーニャも僕の顔を見た。
「ユワルのいう通りね! 私はドワーフ族だから身長低いし、小さめの杖使ってるわよ。
マリンも私と同じくらいだし、小さめでいいんじゃないかしら?」
「小さいのか~…」
「何よ。 不満?」
そう言うとトーニャは、小さい杖を取り出した。
小さいには小さいけど、身長と比べるとそこまで小さいわけでも無い。
でも、一か所気になるところがある。
「これ…クマ?」
杖にまきつく、ちっちゃなクマのぬいぐるみ!
アクセサリーかな?
「そ! クマちゃんよ! 可愛いのよね~」
「可愛いね! トーニャが作ったの?」
「もちろん! 物作りは金属性の特権なのよ!」
「へ~! 僕の杖決まったら、トーニャにアレンジしてもらおうかな!」
「任せて頂戴!」
トーニャの可愛い杖は、僕の興味をさらって行った。
ユワルはそれを見て、少し頬を膨らませる。
対抗して彼女は、変な形の杖を取り出した!
「私の杖はこれ。 かわいいでしょ?」
「かわ…いい…?」
ユワルのそれは、可愛いというにはあまりに攻撃的すぎる見た目をしていた。
金属で出来ていて、先端には人を殺せそうな殺意の高い突起が付いている。
「ユワルの杖って変な形してるよね」
「は?」
「可愛いです! すごく可愛いです!」
「でしょ! この先端のトゲトゲがお気に入りなの!」
ユワルはそう言うと、先端のトゲトゲにふれる。
けっこう重そうで、当たれば簡単に頭が砕けてしまいそうだ。
正直、可愛くは無い。
そもそも、魔法が本当に使えるかすら怪しい形状だ。
「ユワル。 それ使いずらくないの?」
「んーん? 私は魔法が得意じゃないから。 これでぶん殴ってやるんだよ!」
「ははっ…ご冗談を」
「嘘じゃないんだよ!」
「マリン、こう見えてユワルは武闘派よ?」
ユワルの発言を、肯定するトーニャ。
どうやら本当のことらしい。
「…まさか本当にそれで殴るの?」
「うん! どんな相手も杖の錆にしてきたから!」
「杖の錆なんて初めて聞いたんだけど!?」
杖をぶんぶん振り始めるユワル。
そういえば僕が無人島で特訓してた時、隣で素振りしてたっけ。
あれ大真面目だったんだ…。
そんな僕らが会話をしていると、トーニャが立ち止まる。
「到着したわ。 ここが市場よ!」
「…おお!」
僕の目の前には、どこまでも果てしなく続く露店が広がっていた。
どうやらここは魔道具のエリアらしく、メジャーな杖はもちろんの事、薬や薬草や怪しい粉、
それに魔法補助具や魔道具、オカルト的な物までなんでもござれだった。
「凄い! こんなに広いんだ!」
僕が入り口で見つめていると、トーニャが僕の背中を押していく。
「ほら、見てないでさっさと入りましょ。 日が暮れるわよ」
「うん!」
それから、3人で露店街の中へと入っていく。
「マリンはどんな杖が使いたいの?」
ユワルが僕に質問をする。
僕はその質問に、曖昧な返事を返した。
「う~ん、まだ迷ってるかな」
「そっか。 この場所は杖が多すぎるし、多少は絞った方がいいと思うの」
「そのとおりね。 片っ端から探してちゃ、日が暮れるわ」
「そっかぁ…。 でも迷うなぁ」
「ほら、男なんだからちゃっちゃと選びなさいよ」
僕はトーニャに急かされた。
確かに2人のいう通り、ここには1日じゃ到底見きれない量の杖が揃ってる。
ここは、僕の欲しい機能に絞って探すのが得策だよね。
どんな杖が使いたいのか。
それはもちろん、精度を高くしてくれる杖だ。
できることなら、極限まで精度を高めてほしい。
僕はそんな希望を胸に抱いて、2人に聞いてみた。
「ね、2人とも。 精度高くするのって、どんな杖なの?」
「長い杖かな。 長ければ長いほど、精度は安定するの」
僕の質問に、ユワルが答えた。
長いヤツ…。
どれくらい長ければいいんだろう?
僕が迷っていると、トーニャが声をかける。
「大丈夫よマリン。 身長と比べての話だから、私はこの長さでも十分安定するわ」
「そっか! それなら、幅が広がるね!」
「えぇ。 でも、あんまり長いものを選ぶと大変なのよ? 持ち運びとか」
「ぐぅ…確かに」
「だから、身の丈にあったものが一番いいのよ! 変な意地は張らないこと!」
「分かった! とりあえず僕は長いヤツにする!」
「私の話聞いてた!?」
「うん! 大丈夫! 任せてよ!」
「マリン、変なの選びそうで怖いわ」
「大丈夫、大丈夫!」
トーニャの心配を振り切り、僕は露店に並ぶ大量の杖達を物色を始めた。
小さい物から大き物まで様々な品揃え。
特に大きい物は、ベルの身長くらいはあるい大きさだ。
自分の身長より長い杖だなんて、憧れちゃうよね。
扱えるかは別として。
…でもやっぱり憧れは捨てられない!
せっかくだし、この市場で1番長いやつにしよう!
「よ~し」
「うわ…。 マリンが悪い顔してるんだよ…」
「ほんと身の丈にあった物がいいわよ?」
「分かってるって!」
「程々にね、マリン。 ……あっ」
ユワルは、何か見つけてしまったらしい。
一瞬だけ顔を驚かせるも、あわてて平静を装った。
さては何か見つけたな?
「ユ~ワル!」
「ふぇ…ぇ…」
「僕は分かってるよ?」
「ぇ~っと…」
僕は彼女の見つけた物を聞き出すために、可愛らしくおめ目を見つめた。
すると徐々に、ユワルの目が泳ぎ始める。
この子、僕には弱いんだよね。
そして何週か目線をぐるぐるした後、ある一点で止まった。
いったい何があるんだろう。
僕はそちらに目を向けてみた。
すると…。
「ええ!?」
なんとそこにはなんと、僕の身長の3倍はあるだろう、すごく長い杖があった!
思わずその頭の悪さに、驚きの声が出てしまう。
あんなの見るからに、実用的じゃない。
あんな杖を使うのなんて、一部の変態だけなものだよ。
そう。
僕のことだ!
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