32. 自由人 2

僕はハルに手を引かれ、うねうね動く魔物の前まで躍り出た。

相手の体格は、森で出会ったアイツよりも一回りほど大きい。

恐らく、ヤツよりも強い気がする。

簡単に勝てる相手では無さそうだ。


「ハルは何属性? 戦う前に知っておきたい」


僕は彼女に確認をした。

彼女の属性次第では戦い方が工夫が出来るし、お互いの邪魔にならないように合わせられる。

だから、把握しておきたかった。

しかし。


「詳しいのはわたしも分かんない!」


「ええ!?」


「言ったでしょ? わたしは記憶が曖昧なんだ!」


「で…でも! 火属性とか、水属性とか…いろいろあるでしょ!?」


「ネクロマンサーにそんなものはねぇ!! あるのは変な魔法だけだ!」


彼女は、曖昧な返事をする。

それを補足するように、後ろで見ていたベルが言葉を付け足した。


「マリンちゃん。 ネクロマンサーに属性はないのさ」


「どういうこと?」


「ミガ族のような物だと思えばいいだろうね。 ネクロマンサー固有の魔法があるのさ」


「そんなぁ…」


これじゃ、作戦をたてようにも無駄らしい。

こうなったら、道は1つだけ。


「ハル、作戦が決まったよ」


「なんだ!」


「頑張る! 以上!」


「おう! 名案だ!」


ハルはそれを聞いて空中に飛んでいった。

いったい、どこに行ったんだか。

ともあれ、僕は僕でやることをやろう。


グググ…!


僕は水を海から引っ張りだし、いくつもの水弾を作り出した。

それを魔物にむけて撃とうとした時…。


ゴゴゴ…!!


魔物も対抗するように、地面にころがる岩をいくつも引っ張りだした。

それを宙に浮かせ、僕を狙ってくる。


「あれは…魔法…? 魔物も魔法を使えるの…?」


魔法を使う魔物。

僕はその光景に、すこし恐怖を感じた。

緊張感が走り、手が震える。


しかしヤツにとっては、僕の気持ちなんてお構い無しだ。

無慈悲にも、僕へ向かって攻撃を始めた。


ジュンー…!


いくつもの石が飛んでくる。

それは僕の飛ばす水弾と比べれば、お粗末な速度だったけど、無視はできない威力だ。


作戦変更。


ビシャッ!!


僕は空中に浮かせていた水弾を、一か所にまとめあげた。

それを使って、氷の壁を創り上げる。


パキッ!!


その壁に向かって突き刺さっていく、魔物の放ったいしつぶて。

かなり分厚く壁を作ったつもりだったのに、かろうじて防げている程度だった。


ピキ…パキ…。


徐々に氷の壁にヒビが入り始めてくる。

このままじゃ、じり貧だ。

どこかタイミングを見計らって、僕の方からも攻撃をしかけたい。

僕は氷を見透かしながら、そう考えていた。

その時。


「はるはるどきどきあたーっく!!!」


なんと魔物の上空から、ハルがダイブしてきた!

彼女は足を魔物へ向け、まるでキックするような体勢になっていた。

どうやら彼女は僕が時間を稼いでいるあいだに、強烈な一撃をお見舞いしようと計画したらしい。

しかし。


ツルンッ!


ハルは魔物を蹴ろうとするも、足が滑って空中でくるくる回転をしだした。


「んにゃあああ!!!」


それもそのはず。

彼女の足は、幽霊みたいな大根足だ。

見るからに滑りやすそうだし、そもそも実体があるかどうかすら怪しい見た目をしている。


バチンッ!!


そして、あっけなく魔物にはたき落とされるハル。

彼女はそのまま、勢いあまって僕の隣まで転がってきた。


「いたあああい!!!! 肩いたあああい!!!!」


「んもう、おバカ!」


「まりんたすけてえええ!!!」


「ちょっと待ってて!」


パキッ!!


僕は周りに、氷のドームを生成した。

かなり厚めに作ったので、しばらくは魔物の攻撃を耐え凌いでくれそうだ。

それから、ハルの方へと目を向ける。


「ハル。 大丈夫?」


「いてて…でも大丈夫だ!!」


「嘘じゃん。 無理しないで」


よく見ると、彼女の肩は変な方向へ曲がっている。

見るからに骨折しているというのは、あまり知識の無い僕でも分かる。

僕は彼女の患部に、両手を当てた。


「待っててハル。 応急処置くらいの治癒魔法ならできるから」


「…治癒魔法!?」


「うん。 痛み止めくらいならできるから。 あとで戻ったら、テライにちゃんと直してもらって」


「おいおいちょっとマリン…!?」


「遠慮なんかしないで!」


僕は遠慮する彼女に、治癒魔法をかけた。

と言っても、最底辺レベルの微弱なものなんだけど。

でも無いよりはマシだ。

しかしその瞬間、彼女は叫びだした。


「痛い痛い!! 止めて! それ止めて! ネクロマンサーに治癒かけたら逆効果!!!」


「わ、ごめん!」


「もう!! マリンは女の子の扱い方が無いってないぞ!?」


「でもその傷なんとかしないと! 僕…どうしたらいい!?」


「もう、わたしの事は気にしてなくて大丈夫だから!」


「で…でも!」


「いいから私を信じろ!!!!!!」


彼女は僕に強く言葉を放った。

それを聞いて、僕は思わず手をひっこめる。

それから彼女のことを信じて、じっと見つめていた。

すると…。


バキバキッ!


恐ろしい音をたてながら、ハルの肩が再生していく。

気がつけば、いつものスベスベお肌に元通りだった!


「な? 言っただろ? これがネクロマンサーなんだ!!」


「…えぇ…? なんか怖ぃ…」


「おいいい!! わたしをなんだと思ってんだ!?」


「ごめん…。 でも…よかった…」


僕は安心して地面にへたりこんだ。

その瞬間。


ズドンッ!!


魔物が、ドームを突き破ってくる!


「ええ!? 今来るのか!?」


「仕方ない魔物だから! ハル、動ける!?」


「おう! バッチリ!」


僕とハルは、意気揚々と立ち上がった。

それからハルが、魔物の方を向いたまま、僕に声をかける。


「マリン、わたしがアイツの気を引く! だからマリンは、アイツに攻撃をしてほしい!」


「ほんとに大丈夫? またさっきみたいにならない?」


「わからん!! でも大丈夫だ!」


「信じるよ、その言葉!」


「おうよ!!」


ハルは掛け声を張り上げた。

そして、懐から小さな杖を取り出す。

それをくるくると回し…。


「いっけー! わたしのしもべー!」


どろろんッ!


彼女がそう言うと、地面から2体の幽霊が飛び出してきた。

そいつらは魔物の周りをふよふよまわり、ヤツの気を逸らしてくれる。


でも見ていると、その幽霊たちには実体が無いらしい。

魔物に攻撃するわけでもなく、されるわけでもない。

ただ魔物の周りを飛び回って、気をそらしてくれるだけ。

それでも、今の僕には十分だった!


「ハル、行くよ!」


「任せた!」


カチカチ…。


僕は即座に氷を生成。

距離は近いし、的も大きい。

これなら外す訳がない!


「当たれ!!!」


僕は、思いっきり氷弾を撃ち込んだ。


スパアンッ!!!


それは魔物を貫き、ヘドロとなって飛び散らせる。

周りに散らばったヘドロはびくとも動かなくなり、活動を停止。

どうやら僕らは、ベルの無茶ぶりをやりきったらしい。


僕はハルと目を見合った!

そして、お互いの手を握りあって喜びあう!


「ハル! すごかったよ!」


「マリンもすごかったぞ!!!」


「僕たちいいコンビかもね!」


「おう! コンビって何だ!?」


「あれだよあれ!」


「おう、あれか!!」


なかなか締まらない僕らだけど、お互いに喜んで褒め合った。

そんな僕らを前に、ベルが拍手をしている。


「ははは! お疲れ様だね~」


「ベル…。 もう、ほんと酷い目にあったよぅ…」


「そうだぞ!! わたし痛かったんだぞ!?」


「いやぁ私も鬼じゃない。 途中で助けに入るつもりだったんだけどね~。 まさか倒すとは」


「ほんとに助ける気あった?」


「あぁ、本当だとも!」


「嘘だぁ。 だってハルが攻撃受けたとき、ぜんぜん動かなかったじゃん」


「そうだぞ!! わたしの痛みを知れー!」


「ちょっとちょっと!」


ハルがやり返しとばかりに、ベルにとびかかった。

顔の周りにまとわりついて、ぽこぽこ殴ってる。

でもベルにはダメージが入っていないみたいで、ただただ平和な光景だった。

そんな時。


ごぽっ…


海から謎の音が聞こえた気がした。

僕は気になって、みんなに聞いてみる。


「今の音、聞こえた?」


「あぁ、聞こえたとも。 私にもばっちりね~」


ベルはニヤリとした表情を浮かべ、そう言った。

そして、海の方へと体を向ける。


「あの類の魔物はね、集団で居る事が多いんだよ~」


「…つまりどういう事?」


その瞬間。


ザバアンッ!!


轟音と共に海から這い出してくる無数の魔物達。

身体中をうねうねと動かしながら、不気味な音を奏でている。


「つまりこういう事さ~」


魔物の大群を前に、ベルは満面の笑みを浮かべた。

彼はとっても嬉しそうだ。

僕はそれと対象的に、青ざめた表情をしたけども。


「無理無理…。 ベル…さすがにこの量は無理だよ…!?」


「ヤダぁ! こいつらキモイ!!!」


「ははっ、そこで見ていいなさい2人とも。 私が美味しく平らげてあげよう」


そう言うと彼は、単騎で魔物の群れへと向かっていく。


ベルの背中。

悔しいけど、カッコよかった。


魔物はベルに襲い掛かる。

その襲い掛かり方は様々だった。

さっきみたいに魔法を扱う者、自ら噛みつこうとする者と多種多様。

でも、お互いがお互いを邪魔しない。

まるで役割があるかのように、順序良く襲い掛かっていく。


しかしベルは、そんな連携をいともたやすく避けていった。

右手に何か、黒いもやのような物をまとわせながら。


「さぁ君たち。 食事の時間だとも…!!」


彼は、口が張り裂けそうなほどに不気味な笑顔を浮かべた。

拳にまとうもやが、徐々に大きくなっていく気がする。

あれって何だろうね。

遠くて良く見えないけど、近寄ったらヤバいことだけは分かる。


そのままベルは、ゆっくりと拳を握った。

そして、近づいてくる魔物に拳を打ちつける。

その瞬間。


ゾワッ!!!


魔物は黒いもやに飲み込まれた!

視界を埋めつくす闇。

ざわめく音。


瞬く間に、彼の身長の倍はありそうな魔物が消え去った。


違う。

食べられた…?

何が起きたかは分からないけど、あれがベルの魔法なんだ。

初めて見たけど、圧巻だった。


「いやぁ、釣りは面白いね。 2人もそう思わないかい?」


砂浜に座り、涼しげな顔をするベル。

あの量の魔物を、呼吸する間もなく倒してしまう。


この人、本当に勇者なんだなって。

僕は、実力で納得させられてしまった。

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