18. 未知との遭遇 1

「はぁ…」


「マリン君。 朝からため息?」


「うん…ちょっとね…」


クララ、マルコと別れて数日。

僕はフワリとの魔法の練習を再開していた。


「実はね…。 作れる水の量がぜんぜん増えなくて…」


「ふーん。 見せて」


「うん」


ゴポポッ……!


僕はフワリに促されるまま、今できる最大限の水を作って見せた。

こう見ると、意外と量があるようにも見える。

しかしフワリは辛口な評価を下した。


「うん。 2年前とあんまり変わってないね」


「だよね…」


分かってはいたけど、ションボリしちゃうな。


実は学び舎に、僕よりもたくさんの水を作れる生徒が居るんだ。

彼は別に、水を飛ばすとかは出来なかったけどさ。

それでも水を生成するという、僕の努力が1つ否定されたような気がして卑屈になっちゃったんだ僕。


「僕って…本当に水の単属性なのかな…」


僕は、そんな泣き言を呟いた。

するとフワリは、海を眺めながらにっこり笑う。


「じゃあ、マリン君。 その水撃ってみて」


「え?」


「いいから撃ってみてよ」


「う…うん…」


突然の彼女の提案に僕は少し戸惑いつつも、海の方へと手を向けた。

それに連動するように、生成された水も海へと向かう。


「ふぅ…」


集中して。

それを…。

思いっきりぶっぱなす!


パンッ!!!


耳をつんざく破裂音。

同時に水弾が海にぶつかり、大きく爆ぜた。


あぁ、なんかスッキリした。

今日も頑張れそう。

僕はさっきとうって変わって、清々しい気分だった。


フワリはそんな僕を見て、微笑む。


「心配いらないよ。 あんな威力、マリン君しか出せないから」


「でも僕、水があんまり作れないよ?」


「それが何?」


「何って…。 僕、水属性なのに水があんまり作れないんだよ? 本末転倒じゃない?」


「マリン君はおばかだね」


「ちょっとフワリ! 僕まじめな話してるんだよ?」


「ふふっ、ごめんなさいね。 でも君は、大きな勘違いしてるみたいだからさ」


「勘違い?」


「うん。 とっても大きな勘違い」


フワリはふふっと笑う。

それは彼女の美しさと、不敵さが妙に合わさった不思議な笑みだった。

そして、言葉を続ける。


「私がいつ、水属性は水を作る魔法だって言ったかな?」


「へ…? ど…どういうこと…?」


「あのね、マリン君。 よく聞いて」


「うん」


「水を作るのは、金属性の魔法だよ」


「ごめんフワリ、よく聞こえなかった」


「もう1回言うね。 水を作るのは、金属性の魔法だよ」


「きん…ぞく…せい…?」


「そう、金属性」


「ええ!?」


「金属性はね、物を作る魔法なのは知ってるかな?」


「うん…それはもちろん…」


金属性というのは、0から物を作れる属性なんだ。

例えば名前にある通り、金を作れたり、他にも石や鉄、ガラスなんかもできちゃうんだ。

ちなみに木属性はその反対に、生物を作ることが出来る。

木属性と金属性のどちらを持っていれば、なんでも作れちゃうって言われてるんだ。


そこでフワリは僕を覗き込む。


「それじゃあ、マリン君に問題」


「うん!」


「水は物だと思う? それとも生物だと思う?」


「…え」


なんだか、迷う問題だよね。

どっちなんだろう。

僕はすこし悩んだあと、1つの答えを導き出した。


「どっちかと言うと…物かな」


「正解。 水は物だね。 つまり、金属性の範囲内という訳だよ」


「言われてみれば…」


「ようやく分かってくれたね、マリン君。 水属性では、水は作れないことを」


「じゃ…じゃあ水属性って何なの? ただ水を動かせるだけってこと!?」


「マリン君がそう思うなら、そうなんじゃないかな」


「ねぇ…見捨てないでよ…フワリ!」


「マリン君」


彼女は、僕の肩をがっしり掴む。


「君はね、この世界で初めての水の単属性なの」


「…うん」


「前例なんてないの。 だから全部、マリン君が探していかないといけない」


「…う」


「私と最初に約束したでしょ?」


「した。 でも…心細いよ…」


「んー、今日のマリン君は弱気だね!」


フワリはニコっと笑う。

それから、僕を慰めるように頭を撫でた。


ゆっくり。


優しく。


…。


そしてフワリがぽつりと呟く。


「これは独り言ね」


「…?」


「水属性に、水なんて関係ないの」


「どういう事?」


「独り言。 これは、誰も聞いてないの」


「…」


僕は無言で頷いた。


水は、関係ないだってさ。

水属性なんて名前なのに?

正直よく分かんない。


でも、分かりそうな気もする。

本質は水とは関係ない所にあるってこと…?

水の形とか?

流れその物とか…?


え?

やっぱり分かんない…。

でも、希望が見えた気がする。

暗闇の中に、一筋の明かりが照らされた気分だ。


「ありがとうフワリ。 諦めず頑張ってみる」


「うん、その調子。 クララちゃんを守れるよう、頑張ってね」


「もう!」


僕はそっぽを向いた。

でもフワリのおかげで、また頑張ろうって気になれた。


今まではさ、水の量ばかり気にして来た僕だけど、視点を変えてみようかな。

例えば威力だったり、速度だったり、精度だったり。

このあたりを深く練習してみたい。

その中で、本当の水属性を解明していこう。


目標が定まったね。

僕が挑むのは未開拓の魔法。

水属性!

まだ誰も知らない領域。

それってすごくワクワクしない?


「それじゃあマリン君。 私は仕事があるから、そろそろ戻るよ。 頑張ってね」


「ありがとう! フワリも頑張って」


彼女はニコっと笑って、去っていった。


…。


よし、頑張ろう。


僕はフワリと別れた後も、1人海岸に残って練習に励む。

今までみたいな撃ち込みの練習じゃなくて、研究も兼ねた多角的な練習が始まった。


時々亀が通るので、その時は休憩。

だって、直撃でもしたらとんでもないもん。

苦情で済めばまだマシ、最悪 島流しにでもされるかもしれない。


ザアァッ…!!


なんて思っていたら、ちょうど亀が来た。


休憩休憩!

僕は浜辺に腰を降ろした。


ふぅ…。


一息付こう。

そう思った矢先、なぜだか亀が目の前の海岸に止まった。

誰か来るのかな?


僕は気になって、亀の様子を見つめていた。

すると、人が降りて来る。

誰だろう。


…あ!


それは、長い黒髪を持った白い肌の女性。

雰囲気はフワリに似ているけども、彼女よりもずっと幼くて、身長は僕より少し大きい程度の子。


ユワルだ。

僕が学び舎に通う前、一度だけフワリの家で会ったよね。


久しぶりに会うけど、ぜんぜん見た目が変わってない。

…まぁ、それは僕もなんだけどね。

僕は変わらずずっと、小さいまま。


ユワルは僕の事を見つけるや否や、控え目に手を振った。

ふわっといい香りがする。


「久しぶりだね、マリン」


「久しぶり!」


「きょう平日だよ? 学び舎には行かなくていいの?」


再会して一番、痛い所を聞いてくる彼女。

僕はその言葉に、苦笑いを返した。


「実は…ずっとさぼり気味かな」


「あ、私知ってるよ! ふとーこーってやつでしょ」


「違うよ! 自主休学! ユワルこそ学び舎は行かないの?」


「私は良いんです~。 旅人だもの」


「あ、ずるい! じゃあ僕だって行かなくていいもん!」


「子供は行くんだよ!」


「ユワルだってまだ大人じゃ無いじゃん!」


「ぐぬう」


ちょっと悔しそうな顔をするユワル。

でも世界中を旅する彼女が学び舎に通うのは、すごく難しいことだよね。

だから仕方ないのかもしれない。


「ところで、今日はフワリに会いに来たの?」


僕は彼女に、訪ねてきた理由を聞いた。


「半分はそうかな」


「もう半分は?」


「えっとね……ちょっとお誘いに…」


「お誘い?」


「うん」


ユワルは少しモジモジした。

それでも自分のほっぺをぴしっと叩いて、シャキっとする!

そして、僕の目を見つめた。


「マリン。 私たちと一緒に終末止めにいかない?」


「…言われる気はしてたよ」


「あの…楽しいよ! すっごくいっぱい楽しいの!」


「…んー」


「それと! アットホーム! うち、すごくアットホームなんだから!」


「…えー」


「やりがいあるから! どう?! 来ないと後悔するよ?!」


「……」


すごく詰め寄ってくるユワル。

その目はキラキラしていた!


でもユワルには申し訳ないけど、断ろうと思う。

だって僕にはクララが居るから。

先にしてある約束を、断るわけにはいかない。


「ごめんユワル。 先約があるから、いけないんだ」


「…そっか。 ……うん。 …そう……だよね……」


「ごめんね」


「いいの。 全然いいの」


口ではそう言うけど、彼女は少しいじけたみたい。

砂浜に座り込んで、変な呪文を書き始めた。

なんだかそれは青白い光を帯び始め、何か良くないことをしてるのは分かる。


「あの…ユワルさん?」


「いいの。 大丈夫だから」


「あの…」


「いいのいいの。 私気にしてないから。 でも夜道には気を付けてね」


「怖いって!」


「冗談だよマリン。 …でもすごく残念だよ」


「うん。本当に残念だね~。  私達しばらくこの島に居るから、

もし気が変わるようなことがあれば、声を掛けておくれ~」


「…!?」


突然聞こえてくる渋い声。

僕は驚いて、声のする方向を振り向いた。

そこには。


「誰ですか!?」


「やぁやぁ」


そこには知らないオジサンが居た。

彼は髭の似合う、渋くてセクシーなオジサンだった。

どこかで見たような、ヘンテコな眼鏡を掛けているのが印象に残る。

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