16. 不良三人組

天使の一件以来、僕らは一緒にいる時間がさらに増えた。

あのことを忘れられるくらい、いい思い出を作ろうって約束したもんね。

お昼はもちろん、休日も毎回集まって遊んだ。

休日どころか、授業がある日も遊んで回った。


僕とクララは元から魔法ができる分、先生からは多少は大目に見て貰えてる。

マルコもマルコで、引っ越しちゃうし、授業は受ける気ないらしい。

そう、だから僕らは自由の権化!

誰も僕らを止められない!


3人の時間を、思う存分楽しんだ。


そんな僕らを、先生はこう呼ぶ。

不良3人組と。


「あいつらの様にはなるな」が口癖らしい。

別にサボり以外、問題はおこしてないし、この呼び方は不本意なんだけどね。

ちなみに今日もサボりだよ。


「またサボって私の所に来たの?」


フワリが笑いながら言う。


「授業なんかより、フワリさんから話聞く方が面白いからな」


「マルコ君は嬉しい事言ってくれるね」


「いいや、本心だぜ?」


「ふふっ。 私なんかより、他の若い人口説いたらどうかな?」


「いいや。 フワリさんほど美しい人は、俺は見たことがねぇ」


最近は、皆でフワリの家にお邪魔するのがブームだった。

というのも、マルコが行こうって言って聞かないんだ。

そんなマルコとフワリの話を聞き流しながら、僕とクララは一緒にコーヒーを飲んでいた。


クララの前だと、何故だかカッコつけたいって気持ちが湧いてくるんだ。

だから我慢をして、コーヒーを飲んでみたりする。


「うげっ」


でもちょっぴち苦手。

僕は下をぴっと出した。

それを見たクララが、砂糖を僕の前までずらしてくれる。


「見栄っ張りマリン」


「むぅ…」


「無理せず入れな?」


「…うん」


僕は黙りながら、砂糖をたくさん投入した。

それはそれは心配になるくらい。


「また砂糖いれちゃったなぁ」


「私も砂糖たくさん入れてるからさ。 お揃いだよ、マリン」


「…うん。 なんか僕ってカッコ悪いよね」


「そんな事ないって、マリンはカッコいいよ」


「クララ…!」


「…あ…ぇと。 ち…違うから…。 違くはないんだけど…」


クララは段々と、顔を赤らめて黙ってしまう。

それを見ていると僕もなんだか恥ずかしくって、真っ赤になる。

顔が真っ赤な所までお揃いみたい。


うるさいなぁ。


そんな僕らを見て、マルコがふっきれた笑顔をする。


「フワリさん、最近の2人ずっとこうなんだ」


「ふふ、微笑ましいね」


二人が暖かい目線を送ってくる。


「マルコ、私たちの事からかわないで!」


「んー」


「ははは、だって面白いからな!」


今日も平和。

そんな中で、フワリが思い出したかのように話しかける。


「ところで3人とも。 今日こそは山に行くんじゃなかったのかな?」


「あ…そうだった!」


「早くしないと日が暮れるよ」


「みんな、早く行かないと!」


「そ、そうだね。 ほらマルコもはやく支度して」


「あ! お前ら話題変えやがったな!」


「か…変えてないもん!」


「…私たちは…別に…」


「お前らまた顔真っ赤だぞ?」


「「うるさい!!」」


「ははは! いい気味たぜ!」


マルコは大きく笑った。


それから僕らは、山に行く準備をする。

山と入っても、この島にある小さな山のことだけどね。

だから僕らは、いつも通りの軽装を身にまとっている。

そんな僕らの元に、フワリがランチボックスを持って来る。


「はい、どうぞ。 上でお食べ」


「ありがとうフワリ!」


「今日はなんだろ」


「おいおいクララ。 開けるのは上にしてからにしようぜ?」


そんなやり取りに、フワリは苦笑いする。


「大した物ではないよ」


「またまたそう言って。 フワリさんの料理はいつでも最高だぜ!」


「ふふっ。 ありがとねマルコ君」


それから僕らはお礼を言って、フワリ宅を後にした。


今は午前。

山はそこまで大きくない。

今から出発しても、お昼ごろには山頂に到着してるかな。


ちなみにその道中には、あの忌々しい場所がある。

そう、魔物が出るところだね。

そんな場所を前に、クララは嫌そうな顔をした。


「ここ何? すごく不気味だけど」


「魔物が出る場所だよ。 僕が殺されかけた場所!」


「前に言ってたヤツか。 マリンでそれなら、魔物って本当に強いんだな」


「うん、強いよ。 でも森に入らなければ襲っては来ないし、意外と平気なんだけどね」


「そういうとこが逆に不気味だよな」


そんな会話をしつつ、先へと向かった。

そして、山に付いたのはすぐだった。


「ここだよ!」


「…ありゃ。 思ったより小さいな」


「ね。 フワリさんの家から見た時は、もっと大きく見えたのに」


なんて小言を漏らす2人。


「しょーがないじゃん。 ここにくるまでに半分は登っちゃったんだから」


「え? そうだったのか?」


「うん。 さっきの森の所も、一応は山のふもとなんだよね」


「おいおい、それを言ってくれよ! なんか面食らった気分じゃねぇか」


「でも大丈夫だって。 これからがキツイ所なんだから」


そう。

この山、傾斜が急にきつくなるんだ。

それはもう、絵に書いたみたいなほどに。


「ほら、置いてくよマルコ?」


「はやく来なよ。 あんたの分の弁当無くなるよ?」


「ちょっと待てって! 俺はお前らと違って体力ねーんだって!」


僕は慣れているから、すいすい山を登っていける。

クララもクララで、けっこう筋肉質だ。

魔法も駆使しながら、ひょひょいと登ってこれた。

しかしマルコはそうでもない。


「うわ、この道ほとんど垂直じゃんねぇか」


「マルコの垂直の定義、ゆるゆるすぎない?」


「いやいや、これは誰が見たって垂直だろ。 これどうやって登るんだ?」


「えーと。 この岩に足をかけて…」


「待て待て! 俺の聞いてた話と違うって! もっとゆるっとした登山を想像してたのによぉ…」


マルコはついに音を上げた。

とは言え、彼は音を上げながらもなんとか山を登り切った。

そこから程なくして、山頂へと到着。


「ほら、ここが山頂だよ」


マルコは地面にへたり込んだ。


「うへー、やっと着いた」


「ふぅ。 …思ったよりきつかったね。 でもすごい綺麗な場所だ」


「でしょ? 僕のお気に入りの場所なんだ!」


山頂は高く、島全体を見渡す事ができた。

それどころか、遠くの島も良く見える。


ぐう…


そして丁度良い所で、クララのお腹が鳴ったみたい。

そっか、もうお昼過ぎてたもんね。


「ね、マリン、マルコ。 フワリから貰ったお弁当食べよ」


クララは提案をする。

すると僕もマルコも、その案に乗った。


「そうだな、俺ももうお腹ペコペコだぜ!」


「だね! 今日は何っかなぁ~」


僕らの視線が集まる中、クララがランチボックスを開く。

すると中から、小麦の焼けた良い香りが漂ってきた。

その他に、食欲をそそるスパイスの香りを混じって、思わず


「あ、サンドイッチ。 私、フワリさんの焼くパンが大好きなんだ」


そうして、みんなで景色を眺めながらサンドイッチを頬張った。

ちゃんと3人が喧嘩しないように、


「先生ね…」


クララは少し、溜めを作るように言った。


「どうかした、クララ?」


「えっとね…」


「うん」


「私さ、卒業したらしばらくの間。 土属性の先生の所で修行しようと思う」


「へ…? 僕との冒険は…?」


「安心してマリン。 私の方が先に卒業するでしょ?」


「うん」

 

「そうなると2年間暇だからさ。 冒険に向けて、準備しようかなって」


「えっ…嫌だよ…」


「でも何もしないのも違うかなって、私思ってさ」


「うん…そうだよね…」


「大丈夫、すぐ戻ってくるから」


「でも2年でしょ?」


「2年」


「…寂しいよ」


「別に…マリンがどうしてもダメっていうなら居るけど…」


「でも、クララは行きたいんでしょ?」


「行きたい。 マリンと旅をするためにも、私もっと強くならないとさ」


「…そっか」


2年後、彼女はきっと見違えるほどに強くなってるのかな。

そうなると、僕が悩んでる時間なんて無い。

肩を並べられるように、努力しなきゃ。

より一層、頑張らなきゃね。


「クララ、待ってるよ。 一緒に強くなってまた会おうね」


「うん。 約束ね、マリン」


僕らはハグではないものの、それに近しいスキンシップを取った。

そんな中…。


「俺もさ…すごい人になれるよう頑張るぜ」


一人仲間外れだったマルコが宣言する。


「マルコの目標なんだか曖昧」


「ふふっ。 でも、それがマルコっぽいよね」


「おいおい、俺の事何だと思ってるんだよ」


みんなで笑い合う。


…。


こうして、1日、また1日と、別れの日が迫ってくる。

大切にかみしめようとすればするほど、時間が早まっていく。

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