15. 天使の素顔を見てみよう 2
今日は天使が来る日。
そして僕らが天使の素顔を暴く、偉大なる日なんだ!
そうして翌朝、僕はさっそく裏門に向かって急いでいた。
でも、なかなか進めない。
なぜかって?
今日は新入生が入る日でもあるから!
初めて見る生徒がわんさか居るし、それを見ようと上級生も集まる。
結果、すごい人だかりが出来て前に進みずらいんだ。
「んんんん!! 通らせて!! 超悪ガキのマリンが通るよ!!」
そんな事を呟いても、新入生の多いこの場所では無意味だった!
だって大半が、僕のことを知らないんだもん。
「通ります!! 通らせて!!」
だから必死に人を避けていく。
そして、やっとの思いで開けた場所にでれた。
ほんと、朝から災厄だよ。
…。
あれ?
僕の目の前に1人、おもわず目を引いてしまうような少女が居た。
彼女は尖がった耳を持っており、すごく綺麗な顔立ちだ。
クララといい勝負張れるかもしれない。
あれが話にいう、エルフなのかな。
エルフなんて、僕は人生で1回くらいしか出会ったことない。
それくらい珍しい種族なんだよね。
僕はしばらく彼女を眺めてると、あちらも僕の目線に気づいたみたい。
彼女は可愛げにニコっと笑った。
そして、手を振りながらちょこちょこと走ってくる。
知り合い…?
僕にエルフの知り合いなんて居たっけ?
「マリリ…
彼女は何かを口に出すも、それをひっこめた。
それどころか、徐々に切なそうな表情を浮かべ行く。
そしてそのまま、人混みへと消えていった。
誰だったんだろう。
不思議な人だなぁ。
「おはようマリン」
「うわあ! ビックリした!」
「私だよ」
「…よかったぁ…クララかぁ」
後ろから、クララに挨拶をされる。
僕はビックリして、転びそうになった。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫! おはようクララ」
「さっきの人はマリンの知り合い?」
「んー…。 分かんない」
「そっか。 ならいいけど。 んじゃ行こっか」
「うん!」
それから2人で、人混みを脱出。
マルコと合流し、天使に備えて再び練習を再会した。
…。
時間は流れ、お昼前。
「もうすぐ来るよ…天使のヤツ…」
「うん」
「ふぅ…緊張するぜ…」
心臓がバクバク鳴る。
なんだかやっちゃイケない事をしてる気分!
実際、やっちゃいけない事なんだけどね。
それから僕らは、ただ静かに天使を待ち続けた。
この時間がいつもの日常より、穏やかに感じる。
風の音や鳥の声。
川のせせらぎ。
洗濯物をゆすぐ音。
大声で熱唱する人。
変な人もいるんだね。
こうしてみると、色んな音が鳴り響いているのだって気付く。
…。
そして。
ゴーン!
年明けの鐘がなった。
「来る!」
鐘の音と共に急降下する天使。
だんだん地面へと近づいていく。
手始めにクララだ。
天使の着地をピンポイントで当て、穴に突き落とす必要がある。
寸分の狂いも許されない、難しい役割だ。
クララは息の飲んだ。
やがて天使が地面へ到達。
天使が翼をたたみ、ふわっと降り立った!
その瞬間!
ズドンッ!
クララは冷静に、天使を突き落とす。
続いて僕だ!
パキッ!!
すかさず僕が氷で固めた!!
「っ…っ…っ…」
天使が脱出しようと必死にもがく。
残念、僕お手製の氷は、そんなにヤワじゃないよ!
天使がもがくたびに、何やら空気が漏れるような音が聞こえてくる。
叫んでるのかな。
なんだか、ものすごく申し訳ない気持ち。
でもやっちゃった事は仕方ないよね!
あとで謝れば大丈夫!
許してくれるか分からないけど。
よし、次が一番重要な局面!
「マルコ! 後はお願い!」
「うし! 任された!」
「マルコには、私達の全てがかかってるからね」
「おう…。 調子狂うぜ」
天使の顔に向かって、恐る恐る右手を伸ばすマルコ。
必死に抵抗しようと顔を揺らす天使。
それでもかまわず、マルコは前髪をつまむ!
そして。
恐る恐るめくっていく。
ぺらっ。
その顔を見て、マルコは絶句した。
僕も後覗き込み、見た事を後悔する。
天使の目と口は赤い糸で縫い付けられ、開かないようになっていた。
それがあまりに不気味で。
僕らの常識では、それの意味を考えることさえ出来なかった。
「…っ!!」
「…へ…?」
「なに…これ…? なん…なの…?」
なんで縫い付けられてるの…?
天国は僕らが思っているものより、ずっと怖い場所なのかもしれない。
そんな考えが、僕らをより恐怖にいざなった。
タラー…。
やがて天使の目から、油の浮いた水にも似た、虹色に染まる液体が漏れ出してくる。
マルコはそこで耐えられなくなったらしい。
髪の毛を離し、慌てて僕らの元へと逃げてくる。
僕も慌てて、氷を解除した。
「…っ…っ…っ」
天使は不気味な音を残し、そのまま飛び去って行く。
そうして、再び静寂が訪れた。
最悪の気分だった。
誰も喋ろうとしない。
見なくていい物を見てしまった。
沈黙の中、クララの呼吸が乱れていく。
「はっ…はっ…ぁっ…は」
そして。
「ぉう゛ぇえ゛…」
彼女が吐き出す。
僕とマルコは慌てて駆け出し、彼女の介抱をした。
しばらく吐いて。
吐いて。
出し切って。
ようやくスッキリしたらしい。
「ご…ごめん…ふたり…とも…」
「おい、あんまり喋るなって。 辛いだろ?」
マルコのその言葉に、クララは頷いた。
そして、マルコは言葉を続ける。
「なぁ…。 今日はもうさ、帰ろうぜ。 嫌なもん見ちまったからよ」
「無理。 一緒に居て」
彼の言葉に、クララは弱気な返事をした。
彼女の傷は、思ったより深いらしい。
僕は彼女の背中をさすった。
「大丈夫? クララ」
「…マリン…うん。 …ありがと」
クララは安心したのか、だんだんと呼吸が落ち着いて来た。
「マリンの手…あったかい…」
彼女は今にも崩れそうな程、弱弱しい笑顔を浮かべる。
「ふふ…」
「にー」
クララの可愛い笑顔に合わせて、僕も笑顔を作る。
それを見て、また少し落ち着く彼女。
……。
クララが完全に落ち着いた頃には、既に授業が始まる時間だった。
でも、こんな状況。
到底、出席するような気持ちにはなれなかった。
「ごめんね…あんな提案しちゃって…」
「いいさ別に、俺らにはあと1年もあるんだ。 今日のこと忘れるくらい、最高の1年にしような」
「そうだよマリン。 最高の1年にしよう」
「ほんと…みんな優しいね」
僕はこぼれそうな涙をぬぐい、言葉をつづける。
「うん…最高の1年にしようね!」
その日は暗くなる前に帰った。
クララを彼女の家まで送っていき、僕とマルコは港で亀に乗る。
そしてマルコと別れて亀を降りて…。
1人浜辺を歩いている状況。
そんな僕の目の前に、変なのが居た。
ふよふよ
「へ?」
ふよふよ
ふよよーん。
「…なに…あれ?」
そいつは、水色の小さい球体だった。
情けない音をたてながら、ふよふよと空中に浮かんでいる。
なんか半透明で、少し光っている謎の物体。
触って大丈夫なやつ?
「あ…あの…」
近づいてみると、光は僕の方に近づいてきた。
僕はちょっとだけ後ずさる。
それでも、ゆっくりゆっくり近づいてくる。
え…怖いって…。
もしかして天使の顔を見たバチが当たった!?
早くない!?
怯える僕にかまわず、どんどん近づいてくる。
もう後ろは海…。
逃げ場は無いよ?
いっそのこと、触ってみちゃう?
…いや、もうそうするしかない!
ぽよん
触ってみると、またしても情けない音がした。
そして僕の体に吸収されていく。
「なになになに!?!?」
…。
…え?
それは完全に僕の中へと入り込んだ。
でも何かが起きるわけでもなくて。
ただ吸収されただけ。
本当に何だったのあれ!?
しゅうまつ
その言葉が、ふと頭に流れ込んできた。
昔もあったよね、こんなこと。
終末かぁ…。
もしかしてユワルの言ってた終末と、あの球体が関係あるのかな?
さすがに無いか。
なんでも結びつけるのはよく無いよね。
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