14. 天使の素顔を見てみよう 1

僕が学び舎に入学してから、1年が経過しようとしていた。

僕とマルコは2年生に、クララは4年生に上がったけれど、変わらず3人で仲良くやっている。


「新入生入るの、明日かな?」


クララがそんな事を呟いた。

僕はそれに答える。


「うん、そのはずだよ」


「去年の俺らみたいに、この席占領してくるヤツが居るかもしれないぜ?」


「ははっ、面白い。 それなら私とマリンで返り討ちにしような」


「もちろん! それとマルコは観客だね」


「おいおい。 頼むからこれ以上、俺らの悪い噂を作らないでくれって」


マルコは苦笑いした。

…でも、なんだか表情が浮かばれない。

彼は今日の朝から、ずっとそんな感じだった。


「マルコ、どうかした? 今日のあんた変だよ?」


「うん。 何か僕たちに言えないやましいことでもした?」


「うわ、ありえそう。 何か盗んだ?」


「ちげぇちげぇ。 俺は授業はサボっても、犯罪には手を出さねぇって」


「じゃあ何さ。 私たちずっと気になってるんだけど」


「うんうん。 教えてよ」


「…そうだな。 俺も、ずっと黙ってるのは辛いからよ」


そう言うと彼は、ポケットからくしゃくしゃの手紙を取りだした。


「本当はな、もっと早くから知ってたんだけどな。 …なかなか、言い出せなくて」


そうして手紙を、僕らに見せた。


「俺さ、家の都合で来年、ミラ大陸に引っ越すことになったんだ」


「ミラ大陸…?」


僕は初めて聞く名前に、首を傾げた。

しかしクララはピンと来たらしい。

マルコに質問をかえす。


「マルコ、それどっちの地方?」


「北の地方。 ここからだと、世界の裏側あたりだろうな」


「それはまた…随分と遠い場所に行ってしまうね」


その言葉を聞いて、僕もようやく理解をした。

彼は、僕の知らないような遠い遠い場所に行ってしまうんだ。


「嫌だよ! 行かないでよマルコ!」


「それは無理な話だぜ、マリン」


「むぅ」


会えないわけじゃない。

でも、会いに行けるような距離でもない。

せっかくこんなに仲良くなったのに、もどかしいよね。


「まるこぉ…いかないでぇ…」


「そんな顔すんなって、別に俺が死ぬわけじゃ無いんだからよ」


「でもでもぉ…」


「おいおい、あんまりくっつくなって。 暑苦しいだろ?」


マルコに熱いハグをする僕。

方やクララはいつも通りの表情だった。

それもそのはず、彼女は来年卒業だもん。

マルコと離れ離れになっちゃうのは、決まってた事だからね。


あれ。


そうなると僕一人ぼっちじゃん!

さらに寂しさが滲みだす。


「僕寂しいいいいい」


「寂しい思いさせるね、マリン」


「ほんとだよ!!」


「よしよし」


クララは、僕の頭を優しく撫でてくれた。

そんな中、マルコは良いことを思い付いたらしい。

さっきとは打って変わり、笑顔を僕らに向ける。


「そうだ2人とも! せっかくだし思い出作りに何かやろうぜ!」


「思い出?」


「あぁ。 楽しい思い出があれば、マリンの寂しさも多少は薄れるだろ?」


「いいね! 私らも後悔しないようにしたい」


「うん。 僕も賛成!」


「よし来た! 何か面白い考えないか?」


即座に手をあげるクララ。


「はいはい」


「どーぞ、クララ君」


「みんなで授業をサボるのは?」


「それはもう、日常じゃねぇか」


「確かに。 盲点だった…」


僕らはここ最近、ずっと授業をさぼって遊びまわってる。


「マリンも何か面白い案とかあるか?」


「…んー」


僕は考えをめぐさせてみた。


面白い事…。


今日の夕食はなんだろう…あ、違う違う…。


考え事を始めると、すーぐ変な方向にそれちゃう。

集中だ、集中。


そういえば明日って、天使が来る日だっけ。

あの人達、前髪で顔を隠しているから、本当の顔は知られてないんだよね。

前髪の下、気になるな…。


あーいけない、また話がそれて来た。


…あ


そうだ!


「天使の素顔を見てみない?」


僕は2人にそう提案した。

すると…。


「マリン、天才」


「最高に面白そうだな、それ!」


即決だった。

やっぱり皆も気になってたのかな、天使の顔。

隠されると、暴きたくなる。

これはもう、仕方がないよね。


題して天使の素顔を見てみよう大作戦。

作戦決行は明日のお昼。

時間がないので、午後の授業はサボって作戦会議を行う事にした。

まぁ別に、どの道サボるつもりだったけど。


「…まず天使が着地したと同時に、私が地面を大きく陥没させる」


「次に僕が、地面に埋まった天使を氷漬け!」


「そして動けなくなった天使の前髪を、俺がめくればいいんだな!」


「そ。 完璧な連携の出来上がり」


「これで天使もイチコロだね!」


「…なんか、俺のために無理に仕事作ってもらって申し訳ねえな」


「うんん。 僕たちは魔法に集中したいし、すごく重要な仕事だよ?」


「そうさ。 マルコに、この世界の真実がかかってるんだから。 失敗しないでよ」


「おうおう。 俺の仕事、急に激重になっちまった」


「ところでさ、2人とも」


クララが僕たちの顔を見た。


「場所はどうするの?」


その言葉に、マルコは思いを巡らせた。


「んー。 人目に付かない場所がいいよな。 大人は天使に関わるなってうるさいし」


「そうだね。 あ、じゃあ裏門とかどうかな? あそこなら、私たち以外は誰も知らないし」


「それは名案だな。 よし、決まりだ! さっそく準備しようぜ!」


計画が固まった所で、僕らは裏門へと向かった。

そこから準備を整えて、リハーサルなんかも行った!


「明日が楽しみだぜ!」


マルコはウキウキしていた。

それはもちろん、僕だってそうだ。


「僕ね、天使の顔ってずっと昔から見てみたかったんだ!」


「私も前から気になってた。 天使って、可愛い系の顔かな? それとも綺麗系?」


「たぶん神々しい系の顔だと思う!」


「ふふっ。 それってどんな顔なのさ」


「ありがた~いお顔なんだよ、きっと!」


「マルコはさ、どんな顔だと思うかな?」


「俺は別に、何でもいいかな。 見た目より中身だろ?」


サラッとカッコいい事をいうマルコ。

僕もこういうことを言える人になりたかった。

完全敗北だ。


「うぅ…僕の負けだよ…。 マルコの優勝で…」


「やったぜ」


そんな男同士の会話に、クララは首を傾げる。


「それ何の勝負?」


「男同士の熱い戦いってヤツだ」


「私も混ぜて」


「そうなると、いよいよ訳が分からなくなって来るじゃねぇか」


「いいじゃんか。 私だって多少は男勝りだし」


「そうことじゃねぇんだけどなぁ…」


クララは可愛い見た目をして、自分の立ち位置をあまり理解してないみたいだった。

ともあれその話は一旦おいておいて…。

僕は2人の顔を見た。


「…ね。 僕さ、気になってることがあるんだ」


「どうしたの? マリン」


「天使って喋れるのかなって。 まだ声を1度も聞いたことないんだよね」


「そういえばそうだよな。 俺も声は無いな」


「天使が喋るまで、私が拷問しようか?」


「天使よりも先に、悪魔に出会っちまったよ」


「クララはそもそも、魔王だからね?」


「ふふっ。 懐かしいね、そのあだ名」


「なぁ、そもそもなんだけどよ…」


そんな会話の中、マルコは何かを思ったらしい。

少し眉をひそめた。


「天使の顔なんか見て、俺ら大丈夫なんか? バチが当たったりしねーか?」


「何? マルコ、ビビってんの?」


「ちげぇよ! いやぁな。 天使の顔を見たら死ぬっておばあちゃんが昔言ってたんだよ」


「ほら、やっぱビビってんじゃんか」


「ああもう! 俺だって男だ! 割り切るぜ!」


そうして、明日の準備が進められていった。

何度もリハーサルを繰り返して。

繰り返して、繰り返して。

もう十分かなって所で、今日は解散となった。

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